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先進的な機械式4WDシステム

オリジナル・クワトロ4WDシステムは機械式で、3つのデフを備える。センターとリアはロック可能で、その操作はコクピットから行える。よくできたシステムで、トランスミッション内を貫通した中空のセカンダリーシャフトが駆動力をセンターデフへ伝え、その内部にフロントデフへのアウトプットシャフトを通すことで、プロペラシャフトや重いトランスファーケースを追加せずに四輪駆動を成立させたのだ。

【画像】写真で見るクワトロ40年の歩み 全6枚

軽く、テンションフリーとなったことは、ラリーにおける大きなアドバンテージをもたらした。予想通り、トラクションのレベルはすばらしい。凍結した危なっかしい裏道でも、それは実感できた。

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画期的だった機械式4WDと、2モーター式4WD。同じクワトロを名乗っても、メカニズムには隔世の感がある。    LUC LACEY

このオリジナル・クワトロは今年40歳だが、その気取りのない走りは清々しい。走る・曲がる・止まるは思いのままだが、それ以外もすべてがボーナスのようにうれしくさせてくれる。カセットデッキが奏でる、歪んだ音のデヴィッド・ボウイさえ。

E−トロンGTでは、同じことにはならない。クワトロで長距離を走るなら、カセットテープを箱いっぱいに詰めて持っていくところだが、最新モデルならスマートフォン経由で5000万曲から選び放題だ。

手軽に扱えるハイパフォーマンス

とまぁ、新旧の違いを探すばかりでは、懐古主義に陥りかねない。それよりも、2台の共通点に目を向けることにしよう。

楽に飛ばせるという点では、どちらも同様だ。首を締め上げていうことを聞かせるような必要はない。パフォーマンスカーの中には活発に感じられるが、速く走らせるにはかなり集中力が必要で、ドライバーが歯を食いしばった狂人のようになるものもある。

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最新のマルチメディアを、指先ひとつで扱えるE−トロンGTのコクピットは、現行アウディらしさの最たるものだ。    LUC LACEY

しかし、この2台のアウディの、手軽に扱える速さはそういったものではない。その意味ではどちらもGTカーで、無駄に興奮することなく日常使いできる。

ドライバーに合わせてくれるクルマ

E−トロンGTの瞬間的なトルクは、驚くほど楽にスピードを上げる助けになるが、それはクワトロでも同じ感覚を味わえる。どちらのクルマも肩をすくめるようなことはほぼなしに生活の中へ入り込めて、クルマに合わせるのではなく、クルマのほうがオーナーのしたいことに合わせてくれる。やっかいな不満はほとんど起きない。

おそらくそれこそが、時代を超えてクワトロを定義してきた要素なのだ。たしかに、アウディのパフォーマンスモデルの中には、もっと狂気じみたものもあった。思い浮かぶのは、C5世代のRS6プラスだ。しかし、根本的にはどれも妨害より支援に回ってくれるクルマだった。

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E−トロンGTは速いが、扱いやすい速さだ。そして、ドライビングを楽しめる。    LUC LACEY

そのうえ、乗り心地はおおむねまともだ。E−トロンGTにいたっては21インチもの大径ホイールを履きながら、タイカンにも設定されるオプションの3チャンバー式エアサスペンションのおかげで、アスファルトの上を想像したよりずっとスムースに、流れるように駆け抜ける。クワトロにはこうした先進技術は備わらないが、それでも木の板に乗せられているようなことにはならない。

40年続く『クワトロ』という共通認識

路面状況への適応能力という点では、E−トロンGTはほぼすべてのEVすら凌ぐほどだ。さすがのオリジナル・クワトロも、その点では及ばないが、それでも、ヒーロー気分でドライビングできる。たとえ、最新モデルのほうがシャープにターンインするとしても、その気になれることこそが重要だ。

E−トロンGTは、トルクベクタリングのおかげで、かなり重いクルマでありながら、自分を中心に旋回し、リアが活発にアペックスへ飛び込んでいこうとするフィールを実感できる。その点は、多少ながらクワトロと同じだ。どちらも思った以上に、リアがコーナリングへ関わってくる。

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クワトロと聞けば、クルマに興味のあるひとならばアウディの高性能モデルを思い浮かべる。40年にわたり培われたその共通認識こそ、クワトロのヘリテージなのだ。    LUC LACEY

予想していたのは、この試乗で40年の隔たりと、数知れぬテクノロジーの発展が明確になることだった。にもかかわらず、われわれが今回の2台に共通点があることを即座には否定できずにいるという事実が、多くのことを物語っている。

これがBMWで、1980年代4WDモデルと現代のxドライブだったとしても、同じような関連性を見出すかもしれない。しかしアウディは、クワトロというヘリテージを築き上げ、それにこだわり続けてきた。

やはり、クワトロという言葉は、そこに特別な意味合いが込められたものだ。「アウディ買ったの?クワトロ?」などという会話が成り立つほどに。こうした共通認識が、40年変わらずあり続けているというのがすごいことではないか。

新旧クワトロのスペック

アウディクワトロ(英国仕様)
英国価格:1万5037ポンド(新車価格・当時のレートで約827万円)
4万ポンド(現在の相場価格・約620万円)〜
全長:4404mm
全幅:1723mm
全高:1344mm
最高速度:222km/h
0-100km/h加速:7.1秒
燃費:9.6km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1287kg
パワートレイン:直列5気筒2144ccターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:200ps/5500rpm
最大トルク:29.0kg-m/3500rpm
ギアボックス:5速MT

アウディE−トロンGTクワトロ・ヴォルスプラング
英国価格:10万6000ポンド(約1643万円)
全長:4989mm
全幅:1964mm
全高:1396mm
最高速度:245km/h
0-100km/h加速:4.5秒
燃費:4.7-5.0km/kWh
CO2排出量:0g/km
車両重量:2276kg
パワートレイン:永久磁石同期モーター×2
使用燃料:−(電気)
最高出力:530ps
最大トルク:65.3kg-m
ギアボックス:2速リダクションギア

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まったく異なるメカニズムでも、根底にあるキャラクターには類似性が見出せる。そしてどちらも走らせるのがうれしくなる。クワトロの遺伝子は、最新EVにも受け継がれている。    LUC LACEY

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