オスカー・ワイルドの『サロメ』を原案に、ペヤンヌマキが脚本、稲葉賀恵が演出を手がけ、朝海ひかるが主演を務める舞台『サロメ奇譚』が3月21日に開幕する。

サロメはなぜ預言者の首を求めたのか――。新約聖書をもとに書かれた本作を現代に置き換え、とある一家での一晩の出来事として描く本作。出演は、朝海ひかる、松永玲子(ナイロン100℃)、牧島 輝、ベンガル、東谷英人(DULL-COLORED POP)、伊藤壮太郎、萩原亮介。本作にて、預言者ヨカナーンを演じる牧島 輝に話を聞いた。

舞台設定や言葉選びが現代に近いので、お客様もきっと観やすいはず

――オスカー・ワイルドの『サロメ』を原案に、ペヤンヌマキさんが書かれた脚本を読んでどう思われましたか?

原案の『サロメ』を何度か読んだときに、作品の雰囲気や世界観みたいなものは面白く感じられたのですが、正直、何度か読まないとどういうお話なのかわからなかったんですよ。だけどペヤンヌさんが書かれたものは、舞台が現代ですし日常会話にかなり近い言葉選びをされているので、「なるほど! ここはこういうことだったのか!」という面白さがありました。お客様もきっと観やすいんじゃないかなと思います

――それを実際にお稽古でやってみて、いかがですか?

ひとりで脚本を読んでいるときよりもさらに面白いです。今回共演させていただく皆さんは、伊藤壮太郎さん以外初めての方ばかりなのですが、お芝居を見ていて素で笑っちゃうんですよ。まだ立ち稽古が始まって3日目くらいなのに。

――お稽古の中では、皆さんで「家族」について話し合ったりされているそうですね。

サロメの家族はいろいろな問題を抱えているので、「こういう気持ち、理解できる経験ある?」という話をしました。皆さん、同じ経験はなくても同じような気持ちになったことがあって、そうやって実体験に置き換えて話ができると、物語も自分に近いところで考えられて、好きな時間でした。

ヨカナーンの背景を想像しながら役を作っていく

――牧島さんが演じる予言者ヨカナーンについては話されましたか?

いえ、でも僕は皆さんに聞いてみたいなと思っていることがあって。ヨカナーンにとっての“神”に当たる存在はいますか?って。僕自身、特定の宗教がないので神についてはわからない部分もあるのですが、何かひとつのものを信じることは“強さ”になると思うんですよね。だから皆さんにもそういう存在がいるのか、聞いてみたいです。

――他の登場人物は「王」が「社長」になっていたりなど現代版としてアレンジされていますが、預言者ヨカナーンは「神々しい」と表現されていたり、原作でのキャラクター像が強く残っています。この作品の中でも少し異質な存在ですね。

はい。他の皆さんの言葉は現代語なのですが、ヨカナーンは『サロメ』の難しい言葉をそのまま使うような役です。だから、現代でこの言葉遣いをするって、どんなふうに育ってきたんだろう?みたいなことを考えてもいます。そういうところが面白さになると思いますし、僕にとって挑戦になるのかなと思います。

――どんな風に育ったらこの言葉遣いをするのかって面白いですね。

原作『サロメ』ではヨカナーンは王に囚われるんですけど、『サロメ奇譚』では日本のどこかの社長の家での話ですからね。その規模感とか、ヨカナーンが自らヘロデの家に足を運んでいることとか、脚本に書かれているいろんな情報が、今は僕の中でまだ“点”の状態なんです。その点と点を繋げていく作業をこれからやっていきます。繋がり始めたら早い気がしています。

――脚本にヨカナーンは「不思議で魅惑的な声」と書かれていました。

そうなんです! ハードルが高い。僕が喋って、サロメは雷に打たれたような感覚になるんですよ!? どうしたらいいんだろうと思って。

――(笑)。

そこは演出の稲葉(賀恵)さんにも頼って、演劇の力も借りて、やっていきたいです。

――稲葉さんとはどんなお話をされていますか?

この脚本におけるヨカナーンの存在って結局なんなんだろうね、というようなことを一緒に考えてくださいます。ヨカナーンは他の人たちとは違う言葉を使うので、そのうえでどうコミュニケーションを取るのか、逆に取らないのか。みんなに馴染むのか、馴染まないのか。いろんな選択を「どれがいいんだろう』って今は一緒に考えながら稽古をしています。

――これから徐々に像ができていくんですね。

はい。稽古は始まったばかりなので、周りの方々のお芝居を見ながらつくっていけたらいいなと思っています。だからあまり焦ってはいないですが、ヨカナーンはみんなに影響をもたらす役なので、早くそれができるようにはしたいです。

朝海ひかるさんのお芝居は説得力がすごい

――共演者の皆さんのお芝居に「素で笑ってしまう」とおっしゃっていましたが、他にどのようなことを感じられていますか?

サロメを演じる朝海ひかるさんのお芝居は、まだ稽古が始まって数日ですけどそれでも、僕はこの先、『サロメ』にまつわる作品に触れる度に必ず朝海さんのことを思い出すだろうなと思います。立ち姿から他の役との絡み方まで、『ああ、こういうサロメなのか』という説得力がすごいです。それに、ヘロディア役の松永(玲子)さんやヘロデ役のベンガルさんもとても個性的で、言葉ひとつとっても、この役が喋っているなってことがわかる。すごいことだなと感じています。

――お芝居のことを共演者の方に相談したりもされますか?

自分のシーンがまだあまりないので、これから話すことになると思うんですけど。東谷英人さんはよく一緒にお芝居のことを考えてくださいます。「今の話し方だとこういうふうに聞こえる」とか教えてくださるのでとてもありがたいです。

――このお芝居で楽しみなのはどんなところですか?

この物語はたったひと晩の出来事なので、すごいスピードで展開していくし、登場人物たちの心もグワングワン動きます。そこはやっぱりつくっていくうえでも、観ていただくうえでも、楽しみです。でも正直、この舞台がどうなるのか僕はまだ全然わからないです。だって、脚本を読んだ時の印象と稽古が始まってからの印象も大きく変わっていますから。最終的にどんな雰囲気になるのか、みんながどんな顔をしているのか、まだわからない作品です。

――その中で、牧島さんが演じるヨカナーンの面白味で今伝えられることはありますか?

かの一言で人生が変わることって割とあると思うんです。僕もそういうことはある。この作品でのヨカナーンの一言ってすごく大きなものなんですけど、影響を与えられる人もいれば与えられない人もいるんですよね。つまり、その人の境遇や精神状態で、刺さる刺さらないがある。そこがすごく面白いなと感じています。だから観てくださる方も、刺さる言葉、刺さらない言葉があると思うんです。この作品の舞台は現代ですし、この世界線に自分が生きていると考えながら、ヨカナーンの言葉を感じるのも楽しいんじゃないかと思います。



取材・文:中川實穗



舞台『サロメ奇譚』

■日程・会場
・東京公演
3月21日(月)~3月31日(木) 東京芸術劇場 シアターイースト
・大阪公演
4月9日(土)~4月10日(日) 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

■出演
朝海ひかる、松永玲子(ナイロン100℃)、牧島 輝、ベンガルほか

■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2192043

『サロメ奇譚』ソロカットより