現代の空港で見られるジェット旅客機は、「低翼機」のスタイルがほとんど。軍用輸送機でおなじみの「高翼機」は、利点があるにも関わらず、ごく少数に留まっています。なぜでしょうか。

輸送機も旅客機も一緒だったプロペラ機

現代の空港で見られるジェット旅客機は、主翼が胴体下部に備わる「低翼機」のスタイルが採用されているのがほとんどです。一方、主翼が胴体の上に乗るように設置される「高翼機」は、軍用輸送機、プロペラ旅客機ではごく一般的なスタイルであるのに対し、ジェット旅客機では、かなり“レア”な部類に入ります。なぜ「高翼ジェット旅客機」はここまで少ないのでしょうか。

プロペラ機が全盛だった第2次世界大戦前、旅客機輸送機も主翼の配置はいまほどパターン化されておらず、モデルごとに“思い思い”の位置に設置されていました。ただ、低翼機は床を通る胴体と両翼を貫く一本の“梁”のような構造体「主桁」の収めどころに苦労したようです。

たとえば1933年に登場したボーイング247は、構造上主桁が客室内で段差を発生させてしまい、乗客がこれをまたいで通らねばなりませんでした。これに対し、ライバル機であるダグラスDC-2はフラットな客室の床を持つことをセールスポイントとし、これが247より多くの受注を獲得した一因にもなっています。

飛行機における高翼の利点は、翼それ自体の位置が最初から高いので、低翼機のように翼下のエンジンのためのスペースを最優先で設けなくてよく、そのぶん胴体を低くして旅客の乗り降りを容易にできることや、地上走行・滑走中に石ころなどの障害物を巻き込みづらいこと、安定性の高いことなどが挙げられるでしょう。現代でも、プロペラ旅客機では高翼スタイルは健在です。

ただ、ジェット旅客機に高翼が少ないルーツをたどるには、旅客機それ自体の歴史よりも、むしろアメリカ軍輸送機の歴史を振り返るべきなのかもしれません。

むしろ輸送機が変化? 翼の位置が変わった経緯

冷戦時代、旧ソ連と対峙したアメリカは、戦略戦術双方に輸送力を必要としました。戦時中にC-54/R5DやC-69、戦後はC-124もあったアメリカ軍ですが、1944年に高翼低床型のC-82を初飛行させます。低い床は一目見て荷物の積み降ろしに便利で、脚も短い分頑丈にでき不整地での着陸に対応できます。改良型のC-119も、1949年に初飛行したC-123もこのスタイルでした。

これらの姿を受け継ぎ、1954年に初飛行したC-130によって、高翼低床のスタイルは輸送機に決定づけられました。小が大を制するようにC-133も高翼低床に。その後ジェット機のC-5C-141、C-17といったジェット輸送機も、高翼低床が採用されました。

つまり、ジェット機においては、旅客機は比較的クラシカルなスタイルを踏襲し低翼式をそのまま採用する傾向が多かったのに対し、輸送機の方が環境にあわせ高翼機ばかりになり、低翼機を見なくなったといえるでしょう。

こうしたジェット旅客機の低翼スタイルの一般化は、草創期のジェット旅客機が置かれていた環境にも目を向ける必要があります。

まだあります現代の「高翼ジェット旅客機」

いまでこそ、ジェット旅客機は大小さまざまな種類が、さまざまな空港に発着していますが、ジェット旅客機が生まれた1950年代終盤、ボーイング707やダグラスDC-8が最初に飛び始めたのは、国際線が数多く発着する華やかな大空港でした。つまり、航空機の支援設備は整っており、高翼低床にする必要はありませんでした。

一方、滑走路も舗装されているか分からないようなローカル線を結んでいたのはプロペラ式のコミューター機。小さな空港で楽に乗り降りができ、石ころなどがプロペラに当たらない高翼機の方が扱いやすかったのです。

なお現代も高翼のジェット旅客機は皆無というわけではなく、たとえばかつての旧BAe146、現在製造が続けられているものだとアントノフAn-148/-158があります。ともに地方間を結ぶリージョナル・ジェットとして設計され、活用されています。

An-148/-158の製造メーカー、ウクライナアントノフ設計局(アントノフカンパニー)は、2022年3月にロシア軍により破壊されたと報じられている世界最大の飛行機An-225「ムリヤ」を手掛けた会社(製造はソ連時代)としても知られています。「ムリヤ」をはじめ、どちらかというと軍用輸送機のイメージがあるものの、実は旅客機も手掛けており、他社と比べて高翼ジェット民間機が多いのが特徴といえるのです。

ちなみに、An-148/-158は同社の高翼ジェット旅客機の最新鋭機で、アントノフによるとリージョナルあるいは近距離機で唯一、非舗装の滑走路で発着できる機種とのこと。高翼もリージョナル路線の環境にマッチした設計と考えられます。

現在はウクライナ自体が国難のさなかにあるものの、アントノフ設計局には「ムリヤ」以外にもこういったユニークな飛行機があり、航空産業でも際立った存在です。そういった意味でも一刻も早く戦火がやみ、アントノフ設計局がその本領を発揮できる日が来ることを祈るばかりです。

ブリティッシュ・エアウェイズのBae146(画像:ブリティッシュ・エアウェイズ)。