vol.19 ロシアが外国からリース中の旅客機“借りパク”を合法化


日々テレビから流れてくるロシアウクライナ侵攻のニュースに気が滅入ります。ウクライナの人々のことを思うとやるせない気持ちでいっぱいです。

この戦争でロシア上空のフライトが難しくなり、ヨーロッパへの渡航は日本からの直行便が限られ、飛行時間も約1.5倍に。ようやくコロナも収束に向かいはじめた最中、それだけでヨーロッパが随分遠くなってしまった気がして、寂しいです。

各国のロシアへの経済制裁も進む中、プーチン大統領は国内の航空会社が主に外国からリースしている航空機約500機に関して所有企業に返還不要である、という法案に署名しました。

ロシア 外国からリースの航空機 返還不要の新法

https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000247947.html

同時にロシア政府は航空機をリースしているアエロフロート・ロシア航空をはじめとした国内の航空会社にリースしている機材を使用した国際線の運行を禁じました。Appleやマクドナルド、ユニクロからVISA、インスタグラムまで各国のグローバル企業やサービスがロシアへの経済制裁に伴いロシアとの商取引を次々と停止していく中、リース契約の打ち切りに伴いフライト先の空港で機体をリース元に差し押さえられることを防ぐためです。

ちなみに昨今の航空会社の主力機体のひとつであるボーイング787 ドリームライナーの価格は一機、約250億円と言われています。今回ロシアが“借りパク”しようとしている機体の多くは一定償却を終えている中古のモノとはいえ、返却されない機体の価値の総額は一兆円を超えるとのこと。そこで今回の措置でロシアが実際に1兆円得するのか、ということを考えてみたいと思います。

2022年3月13日ロシアモスクワのブヌコボ国際空港の様子 Photo:Aflo

リース料という観点で短期的に考えると確かに支払う金額は減るのでしょう。ただ、航空機の安全な運行には部品のメンテナンスが必須なことに加えて、今日ではソフトウェアの更新も無論不可欠で、そこでボーイングエアバスといった機体の供給元のサポートが受けられなくなるというのは相当に致命的です。盗難車は車検を通せない、というのに近い話が間違いなく起こります。

それ以上に、今後はロシアの航空会社ということを理由に機体をリースで調達できなくなる可能性が高く、今使用している機材が利用できなくなったあとにロシアのエアラインに訪れる状況は、自国で航空機を生産できる状況が整ったりでもしない限り、もはや悲惨そのものです。多重債務者がクレジットカードを作れないといった話が、国家レベルで起こってしまっている状況で、この規模までいくとどう信用を回復できるのかすらいま現在では全くわかりません。

資源や食料に関していえばロシアは自国でも一定は賄うことができ、さらに中国との結びつきが強まることで、西側諸国との取引が分断されてもそこまでのリスクにはならないと思われます。むしろ世界各国が供給元としてのロシア及び周辺諸国に依存している側面も強いので、ロシア側にとって一定の交渉力になる要素もあります。ただ、今日のグローバル世界においては資源と食料があれば生きていけるのかというともちろんそうではありません。

この連載でも何度か書いていますが、日本では、経済の停滞に伴い徐々に世界との格差がが拡がり、グローバルで日常的に使われているたとえばiPhoneやスターバックスのコーヒーに手が届きにくくなってきて、さらにはマーケットとしての魅力がなくなり進出自体が減少し、しまいには江戸時代に戻ってしまう、みたいな議論はそれはそれでなされて然るべき状況です。今回のロシアのケースは、景気を飛び越えて、戦争という悪手で一瞬にして世界から取り残されてしまうという状況に陥ってしまいました。

この経済制裁が果たしてロシアに対してどこまで効くのか、一定の効果があって早期に戦争が終結に向かうことが望まれますが、今後諸外国がロシアとまともなビジネスをできるようになるまで一体どれくらいの時間がかかるのか想像がつきません。少なくともプーチンが政権を握っている限り難しいのでは、という気もします。

最たる文明の利器の航空機が国を跨げなくなってしまっていることが、西側諸国ロシア、旧共産圏との分断の象徴のひとつになってしまっていることもまた非常に残念な話です。混迷の続くこの世界は一体どこに向かっていってしまうのでしょうか。

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