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 脳科学者たちは、磁気共鳴画像法(MRI)などの脳スキャンのデータを用いて、脳の構造や機能の多様性と認知や精神疾患に関連する特徴との関連を調べる「ブレインワイド関連解析(BWAS)」を利用している。

 だが、BWAS研究のほとんどが、サンプル(被験者)が少なすぎて、信頼できる結果が得られていないという。

 これは、ミネソタ大学やセントルイス・ワイントン大学などのグループが『Nature』(2022年3月16日付)で発表したもので、脳スキャンを精神医学などに応用するには、研究者間のデータ共有や共同研究を積極的に行わなくてはならないそうだ。

【画像】 サンプル数の不足により、再現性のある結果を得られない

 ブレインワイド関連解析(BWAS)は、精神疾患の予測や予防と、ヒトの認知能力の解明を進める上で役立つ可能性があると期待されている研究だ。

 だが、MRIデータの取得には高いコスト(1時間当たり約1000ドル(約11万円))がかかり、サンプルサイズが抑制され、参加者数は25人程度になることが多いため、再現性のある結果を得ることが困難になっているという。

 今回の研究は、現在手に入るものとしては最大級の3つの神経画像研究データセット「思春期脳認知発達研究(参加者1万1874人)」、「ヒト・コネクトーム・プロジェクト(参加者1200人)」、「英国バイオバンク(参加者3万5735人)」データを解析し、BWASの信頼性を調べた。

 また、MIDBインフォマティクス・グループとスーパーコンピューターの支援のおかげで、全体としては10億もの分析が行われた。

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 その結果、BWASのサンプルサイズが小さいと、効果量(データの単位に依存しない標準化された効果の程度を表す指標)のインフレが起こり、関連性を再現できないことが明らかになった。

 一方で、サンプルサイズが数千に達すると、再現率は向上し始め、効果量のインフレは縮小した。

 サンプルサイズが足りないと、本当はただの偶然なのに、強い相関ありと誤って判定してしまう一方、弱いが確かに相関しているものを見逃してしまうことがある。

 更に、サンプル数が不足した研究が繰り返し行われると、強い相関ありとされながら、まったく再現できない研究データが増えてしまうという。

 「精神疾患や神経状態の診断・リスク・治療効果など、私たちは何十年にもわたり、医療におけるMRIの可能性について紹介してきました。しかし、その真価はまだ発揮されていません」と、ミネソタ大学のダミアン・フェア博士は話す。

 「今、私たちは間違いに気がつき、必要なパラメーターの修正を行っているところです。それは効果的に前進するための、いわば”特別ソース”です」

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[もっと知りたい!→]大人になっても反社会的行動が止められない人は、脳の構造に違いがある可能性(英研究)

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かつてゲノム科学も直面した問題

 今回の研究によるなら、25人程度のサンプルサイズでは、別のデータで同じ分析をしたときに「再現性」生えられないという。

 再現性を高めるには、数千のサンプルが必要になる。再現性を確保するというのは、今日の研究にとってきわめて重要なことだ。

 筆頭著者のニコ・ドーセンバック博士は、この発見は、脳と行動のような2つのものの複雑な相関関係をテーマとした研究が直面している、体系的・構造的問題を反映していると語る。

研究者個人や個々の研究の問題ではありません。神経撮像技術特有の問題でもありません。10年前にはゲノム科学も同じような問題に直面し、その対応に迫られました。

そしてアメリカ国立衛生研究所の尽力によって、より大規模なデータが収集され、そうしたデータの公開が義務付けられました。

これによってバイアスが減り、ゲノム科学はいっそう発展したのです。ゲノム科学が示すように、場合によってはやり方を根本から変えねばならないときがあるのです
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より多くのデータの共有、共同研究を促進させる必要性

 神経撮像研究は、費用も時間もかかる。しかし、たとえ1つ1つの研究が小規模だったとしても、それらのデータを組み合わせて分析すれば、統計学的に意味のある結果を得ることができる。

 そうして導かれた結論なら、正解に近いだろうとドーセンバック博士は話す。

「この分野の未来は明るいですが、データやリソースの共有など、オープンであることにかかっています。それによって科学者全員が大きなデータセットを利用できるようにするのです。この論文は、それを行なった素晴らしい例でしょう」とフェア博士は話す。

References:Brain studies show thousands of participants are needed for accurate results | University of Minnesota / written by hiroching / edited by parumo

 
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脳スキャンを使って認知や精神疾患を調べる研究は、被験者が少なすぎて信頼できる結果が得られていない