ルーマニア南部トランシルヴァニア地方にある、14世紀に建てられたブラン城。世界から年間60万人近い観光客が訪れているとあって、その名を聞いたことがある人もいるかもしれない。歴史的な古城として評判のこの城は、世界的にも有名な小説「ドラキュラ」のモデルになった人物がいた城として知られているそうだ。その“ドラキュラの城”が最近、所有者たちの高齢化により売却を検討しているそうで、欧米で大きな話題を呼んでいる。

公式サイトによると、ブラン城は1211年、オスマン・トルコの侵入を防ぐため、山の頂上に築かれた要塞を新しくすることが決まり、1388年に城が完成。以来、現地のザクソン人やハンガリー人など多くの人が所有権を受け継いだ後、1920年に当時のマリア・ルーマニア国王妃へ譲渡された。そして、1938年に亡くなった王妃は娘のイレアナ王女へ所有権を渡すも、1948年共産主義政権樹立で城は国が接収。しかし1989年に共産国家も終わりを迎え、それから17年経った2006年、ブラン城はイレアナ女王の子で現在米国在住のドミニク・フォン・ハプスブルクさんとその姉妹2人に所有権が戻され、現在に至っている。

そのブラン城の名を世界に広めたのが、1897年アイルランド人作家ブラム・ストーカーが書いた小説「ドラキュラ」。米放送局CBSや英紙デイリー・テレグラフなどによると、ストーカーはトランシルヴァニア地方に伝わる伝承をヒントにしたとされ、15世紀に王子として現地では有名な存在だったという「ヴラド」という人物が、ドラキュラのモデルになったとされている。ただ、モデルになったのは名前と環境だけで、ドラキュラの存在自体も架空の話なのだが、ヴラドが実際に城の地下牢に「2か月間収監された」「収監されて人生を終えた」といった類いの話がいくつも伝えられてきたこともあって、ブラン城は“ドラキュラの城”として有名になったそうだ。

そんな有名観光地を、これまで大事に管理してきたハプスブルクさんら3人。しかし揃って70代を迎え、自分たちでは「永遠に運営できない」と最近売却を検討し始めたという。彼らは米国の弁護士を通じ、まずルーマニア政府に約8,000万ドル(約81億円)の値を提示して売却交渉に入ったが、現在は売却対象を他にも広げ、城を今後も「保護してくれる人」を基準に交渉を呼びかけている。

ブラン城が「ルーマニアで最も人を惹きつける力がある場所」とアピールするのは、ハプスブルクさんらの代理を務めるマーク・マイヤー弁護士。多くの観光客が来るおかげで「現時点でもかなりの利益がある」そうだが、城内の設備や周辺の交通環境などを整備すれば利便性が増し、さらなる利益が見込める可能性もあると話している。


城が果たして誰の手に渡るのか、所有権の行方も気になるところだが、いずれにしろ今後も“ドラキュラの城”が多くの客を楽しませる歴史的建造物として残されるのは、間違いないようだ。