本年度アカデミー賞にて史上初となる国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、長編アニメーション賞の3部門同時ノミネートという快挙を成し遂げたドキュメンタリー映画『FLEE フリー』より、特報映像とティザービジュアルが解禁された。

【動画】映画『FLEE フリー』特報

 本作は、ひとりの青年が20年の時を経て語る祖国からの決死の脱出劇をアニメーションで映像化した、デンマークほか合作によるドキュメンタリー作品。監督は、主人公アミンの親友で自身も迫害から逃れるためにロシアを離れたユダヤ系移民であるヨナス・ポヘール・ラスムセン。

 昨年のサンダンス映画祭でワールド・シネマ・ドキュメンタリー部門のグランプリ、アヌシー国際アニメーション映画祭でも最高賞となるクリスタル賞ほか3部門を受賞するなど、現在、各国の映画祭で76受賞140部門ノミネートという圧倒的な評価を獲得。3月28日に行われるアカデミー賞授賞式では、国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、長編アニメーション賞の3部門にノミネートされており、受賞への期待が掛かっている。

 アフガニスタンで生まれ育ったアミンは幼いある日、父がタリバンに連行されたまま戻らず、残った家族と共に命懸けで祖国を脱出した。やがて家族とも離れ離れになり、数年後たった一人でデンマークへと亡命した彼は、30代半ばとなり研究者として成功を収め、恋人の男性と結婚を果たそうとしていた。だが、彼には恋人にも話していない、20年以上も抱え続けていた秘密があった。あまりに壮絶で心を揺さぶられずにはいられない過酷な半生を、親友である映画監督の前で、彼は静かに語り始める…。

 特報映像は、ラスムセン監督が親友のアミンに向かって「誰かに話したことは?」と問いかけ、アミンが「一度もない」と答えるシーンから始まる。続いて、アミンが誰にも明かしたことのなかった自身の過去を、20年の時を経て初めて語り始める様子と、その言葉により回想される幼少期からの余りに過酷な経験が描かれていく。

 本作ではアミンの複雑な感情をより忠実な形で伝えるために、シーンに応じて2つの全く異なるスタイルのアニメーションを採用。ニュース映像なども織り交ぜドキュメンタリーとしての臨場感も伝わる作品になっており、アミンの心揺さぶる物語だけでなく、ラスムセン監督によるその斬新な手法の一端を垣間見ることができる特報となっている。

 これまで数々のラジオやドキュメンタリーを手掛けてきたラスムセン監督は「私的な物語を語る過程で、私は常に新しい方法や新しいアプローチを探求しようと心がけています。語られる物語に沿うように、映画の形式を捻じ曲げる方法を探るのです。『FLEE フリー』では、そのレパートリーにアニメーションを加えました。アミンが惜しみなく私に共有してくれた、貴重な証言にふさわしい舞台を与えられるよう、説得力があり、魅力的な語り口を作ることを目指したのです」と振り返る。そして本作については「この物語は、過去やセクシュアリティも含め、自分が誰なのか。それを知ることのできる場所を見つける、一人の人間の物語なのです」と語っている。

 ティザービジュアルは、それぞれの境遇を生きる、様々な国籍の119人を配置したもの。彼らは全て本作に登場するキャラクターで、カセットプレーヤーでお気に入りの曲を聴きながらはしゃぐ幼い頃のアミン、自身のトラウマと向き合う現在のアミン、そして彼の恋人や家族、ラムスセン監督の姿も描かれている。横に添えられた「故郷とは、ずっといてもいい場所」というキャッチコピーは、作中のアミン自身による印象深いセリフ。難民であり、ゲイであるという、2つの葛藤を抱えながら生きてきた彼にとって、この「故郷」という言葉は非常に重い意味を持っている。

 映画『FLEE フリー』は、6月10日より全国公開。

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