コロナ禍以降の、「演劇×配信」のトライアル

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新型コロナウイルスの蔓延以降、演劇を配信で観る/観られる機会が激増した。客席をすべて埋めての上演はリスクが高すぎると判断し、密を避けた座席を設けたり、上演を動画で配信するなど、皆が知恵を絞っていた。

ただ、配信だとどうしても、演劇ならではの熱量や現前性が薄れる。演劇未体験の方には、まずは生ならではの衝撃を一発食らって欲しいのが正直なところである。

色々な策が講じられた。岸田國士戯曲賞を受賞したままごと『わが星』の無料動画がオフィシャルで公開されたり、YouTubeなどに劇団が作品をアップするケースも多くなった。

三浦直之主宰のロロなど、戯曲をHPにまるまるアップする劇団もいたし、DVDで見られる作品を鑑賞した人もいただろう。そんな風にステイホーム以降の鑑賞スタイルを、演劇人は必死で模索してきた。

ちなみに、劇作家の根本宗子は、配信だからこそ映える会話劇『もっとも大いなる愛へ』を書き下ろした。女性キャストによる稽古は約1ヵ月リモートで行われ、本番前日に初めて全員が顔を合わせたという。そして、終演後の俳優へのフィードバックも含めて、ドキュメンタリー・タッチで見せる/魅せるという趣向を採用していた。

とにかく当初はまったく想像がつかなかったリモート演劇だが、こうした時勢の中で演劇は未だに試行錯誤のさ中という印象がある。

そして、そんな折りにタイミングよく登場したのが、『オールナイトニッポン』の55周年記念に合わせた『あの夜を覚えてる』という生配信演劇である。深夜のラジオ局を舞台にした物語で、ラジオ現場の人間模様や悲喜こもごもが生々しく描かれている。

本作が成立し、成功を収めたのは、制作担当のノーミーツがいたことも大きかっただろう。

ノーミーツは元々“劇団ノーミーツ”として、リモートに特化して公演を行ってきたコレクティヴだ。「NO密で濃密なひとときを」をテーマに、稽古から上演まで一度もスタッフやキャストが会わない「フルリモート劇団」を名乗っていた。

総合演出は『オールナイトニッポン0(ZERO)』水曜パーソナリティーのテレビプロデューサー・佐久間宣行。プロデューサーはニッポン放送のエンターテインメント開発部の石井玄。脚本・演出は岸田國士戯曲賞にもノミネートされたことのある小御門優一郎で、先述の通りノーミーツが制作を担当した。

そうして持ち上がった『あの夜を覚えてる』は、3月20日に上演され、27日にももう一度公演を行う。20日の上演はアーカイヴに残っているが、27日の公演をリアルタイムで追うのも一興かと思う。

というわけで、ネタバレは伏せて話を進めると、髙橋ひかると並ぶ主人公の俳優・藤尾涼太(千葉雄大)の、看板番組での放送をめぐるてんやわんやが描かれる。

ラジオ好きにはたまらない仕掛け

“ラジオ好き”にはたまらない、さまざまな仕掛け

例えば藤尾の番組では、記念すべき100回目の放送の直前に、スキャンダルが報道されてしまう。そんな報道後の藤尾のラジオでの態度は? どんな風に釈明するのか、しないのか? あるいはその話題に触れない? 等々、リスナーの想像力を掻き立てる。

さらに、トークスキルの高さが評判になっていた藤尾には、ある秘密があった。と、これ以上の説明は野暮だろう。ぜひ上演を見て欲しいところだ。

ラジオ好きにはたまらない番組、でもあるだろう。ラジオの特性のひとつは、リスナーからのメールやツイートによって、番組の流れがまったく変わってくるところ。

言うなればリスナーとパーソナリティーがインタラクティヴにやりとりをすることで、自分も一緒に番組を作っているという感覚を味わえるのだ。

リスナーとパーソナリティーは、いわば共犯関係にある、と言えばいいか。本作でも、終盤にリスナーから届いたメールが重要なストーリー上のカギを握っている。ラジオフリークは、こんなことが番組の裏で起こっているんだ、という感興を得られるのではないか。少なくとも僕はそうだった。

具体的には、音楽をオペレートするPAが壊れて右往左往したり、体調不良でパーソナリティーが休み、必死で代役を探したり、番組でかけるためのCDが見つからなかったり。つまり、トラブルやハプニングはラジオにつきものであり、それも含めての生っぽさがプラスに作用しているのだ。

転ぶことがあってもそれは当たり前、大事なのは転び方なのである。

ラジオならではの“連帯感・一体感”

本作を観ると様々なスタッフが関わってラジオ番組が作られている、という当たり前の事実に改めて直面するはずだ。

パーソナリティはもちろん、映像部、美術部、音響部、照明部、制作部などが緊密に連動することで、ようやくひとつの番組となる。そうした意味で本作には、ピンチがチャンスになり、主人公が思いがけぬホームランを飛ばす様があり、すこぶる痛快である。

画面右端に視聴者のコメントがフローしていくチャット機能がついていたのもポイントだ。無論、ニコニコ生放送など、画面上にコメントが流れる仕様を使っていた番組は少なくない。ライヴ・ストリーミング番組のDOMMUNEなどもそうだが、画面横のコメントが、番組の注釈や補足のように機能することもあった。そして、そのシステムをより洗練された形にしたのが本作だと言える。

画面を共有することで、自分と同じ趣味や嗜好を持つリスナーが、リアルタイムで同じ番組を視聴している――。その一体感や連帯感に浸った、という人も多くいるだろう。

配信だからこそできた演出

“ラジオ×演劇×生配信”が一体となり生まれる、希少な現場

そして、俳優の表情がありありと映し出されることで、劇場の最前列中心で上演を見ているような錯覚を起こすはず。これは動画ならではの強みだ。演劇で演者の演技をここまでアップで見られることは、そうそうないのだから。

生配信ならではの臨場感、決してミスが許されない緊張感、1500人のラジオ好きから選ばれた俳優たちの演技、長回しを多用した絶妙なカメラワーク――。これらが一体となってラジオ番組が作られる。もちろん、番組が、メールやチャットにおけるリスナーからの反応を含めて成り立つことを忘れてはならない。

20日の放送はアーカイヴとして残っており、27日はもう一度生配信が行われる。ぜひ、この貴重で希少な現場に参加してみて欲しい。

公演情報

20日アーカイブ&27日(日)回のチケット販売中!

オールナイトニッポン55周年記念公演 『あの夜を覚えてる』

メインキャスト:千葉雄大、髙橋ひかる、吉田悟郎、山口森広、工藤遥、入江甚儀、鳴海唯、山川ありそ、相田周二(三四郎

日程:
2022年3月20日(日)20:00 ~(開場19:30)/ 3月27日(日)20:00 ~(開場19:30

主催:ニッポン放送

総合演出:佐久間宣行
プロデューサー:石井玄
脚本・演出:小御門優一郎
配信プラットフォーム:オンライン劇場「ZA」
制作:ノーミーツ

オールナイトニッポン 55周年記念公演 『あの夜を覚えてる』