滋賀県が誇る琵琶湖の南東、東に鈴鹿山脈、西に穏やかで広大な水面を構える近江商人の街―――日野町。

近江鉄道 本線(水口・蒲生野線)日野駅から東に広がる日野の町は、室町時代から蒲生氏の城下町として繁栄し、戦国時代を経て鉄砲や鞍などを特産品として生み出してきた。

江戸時代に入ると、漆器や薬売りの行商から発展した日野の商人がいまに伝わる「近江商人」の基礎を築き、その中心の街として多くの人たちが行き交った。

そんな歴史を体感できる地が、近江日野商人山中兵右衛門家の本宅で現在の近江日野商人館と、旧山中正吉家住宅でいまの近江日野商人ふるさと館。

NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」や、昭和レトロ推しのトレンドにのって、いまこそ、この2つのスポットを訪ねてみたい。

湖東地方の農家住宅の形式を受け継いだ旧山中正吉家住宅

旧山中正吉家住宅は、かつて静岡県富士宮市で酒造業を開いた日野商人・山中正吉家の本宅。

広大な敷地は、江戸時代にこの日野の地を治めた仁正寺藩主市橋氏から拝領。江戸時代末期に建てられた主屋は、湖東地方の農家住宅の形式を受け継いだ重厚な造りで、現在は町の有形文化財に指定されている。

本格的な洋間、温水シャワー・ステンドグラスを備えた浴室、五口くど……

旧山中正吉家住宅の間取りは、この地方の農家住宅に典型的な四間取り型を継承し、台所土間には黒タイル貼りの大釜付の五口くど(かまど)がそのまま残されていて、当時の暮らしを想像できる。

また、接客の場である座敷や新座敷は、当主の趣味や教養が盛り込まれた造りに。新座敷から先に広がる庭園も美しい。

さらに、昭和初期から本格的な洋間、温水シャワー・ステンドグラスを備えた浴室、前述の五口くどなどを採用した点も、当時の近江商人がトレンドを採り入れていた現れのひとつ。

そんな旧山中正吉家住宅 近江日野商人ふるさと館の新座敷では、庭園を眺めながら日野の伝統料理を体感できるから、気になる人は公式サイトをチェックして、行ってみて。

近江商人が築いた近江鉄道に乗って、「八幡表に日野裏」を体現する名建築へ

現在は近江日野商人館を名乗る近江日野商人山中兵右衛門家本宅は、昭和11年に新築されたもので、典型的な日野商人の本宅の特徴をそのままいまに残している建造物。

日野商人 山中兵右衛門が自宅の豪邸を昭和56年に町へ寄贈した。

この本宅空間は、「八幡表に日野裏」といわれるとおり、家の表側は富を誇示するような建て前ではなく、厳格さとつつましい生活態度がよくみてとれる。

館内には行商品や道中具、家訓などが展示され、400年にわたる近江日野商人の歴史と商法を、貴重な実物品や資料とともに体感できる。

近江商人のビジネスマインドを体感できる歴史的逸品の数々

そして、この近江日野商人山中兵右衛門家本宅 近江日野商人館には、数々の実物品資料展示が見どころ。

現存最古の国産ワインや石薬、惟喬親王絵像由来掛軸、日野商人出店の年金資料、二宮金次郎直筆の領収書など、見入っていると時が過ぎていくのを忘れるほど、貴重な昭和レトロ品がいろいろある。

たとえば、ここで展示されている現存最古の国産ワインは、2008年に近江日野商人館の蔵の床下から出てきたワインボトルで、「牛久葡萄酒」のラベルが貼られていた。

これらは1905(明治38)年から1913(大正2)年にかけ、茨城県シャトーカミヤ(現 牛久シャトー)で製造されたワインで、現存最古の国産ワインであることがわかった。

石薬もそう。2008年に西蔵の床下から発見された海外製木箱10箱に収められていたもので、滑石、枡石、蛇含石と呼ばれる3種類の薬の原材料といわれている。

―――この近江日野商人館では、収集・所蔵している資料や地元の好意で集まった資料をもとに、企画展を年に数回開催しているから、こちらもあわせてチェックして、近江商人が手がけた近江鉄道に乗って、出かけてみて。

近江鉄道で行く滋賀の旅>
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