現在のVTuberシーンにおけるトップランナーの一社であるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。

【動画】自宅で起こった「階段の怪談」を話すましろ

 メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む歌ってみたなどの動画のほか、ここ1年ほどはエンターテインメントのフィールドで、アーティストとして陽の目を浴びる者も増加している。

 今回紹介するのは、「まななつ」の「ま」担当、狂気枠としてファンからその動向が注目されるましろである。

ここ数週に渡って紹介してきた来栖夏芽奈羅花と同じく2019年12月29日にデビュー。その当初から独特のムードと配信内容がひと際注目を集めてきた。

 おもに配信は深夜24時以降からスタートし数時間ほど届けられ、その内容もホラー・都市伝説・オカルトを軸にしたものになっている。

 ましろがゲーム配信で扱う有名タイトルといえば『DARK SOULS』『OUTLAST』が挙がるが、それ以外には『SCP -Containment Breach』『Mitoza』『As usual.』『CONANROOM』など、ホラーやミステリーを主題にしたインディゲームやフリーゲームを単発的にプレイすることが多い。

 配信サムネイルや配信冒頭のオープニング映像に至るまでホラー要素をちりばめ、普段の衣装ではスコップを常に持ち、もう一つの衣装では囚人服を着ていたりするなど、様々なところから彼の嗜好性が読み解けるかと思う。

 「『DARK SOULS』死んだら即終了」配信を何度となくプレイしてきてることもあり、ゲームスキルは高く、ホラーゲームをやり慣れているのが配信からも伝わってくる。ほとんど怖がることもなければ、驚くことも少なめと、まるで「フツーに」ゲームしているかのよう。彼の冷静過ぎるプレイングは、ほかの配信者やストリーマーと比べると異質に見えるだろう。

 雑談・ゲーム以外の企画配信もかなりホラー&ミステリーな配信が多い。リスナーから投稿された心霊写真を配信中に紹介する企画や、検索してはいけない言葉をGoogleで検索してリスナーとともに楽しむ企画など配信してきており、時として「閲覧注意」となるような話題も取り扱うこともある。

 そんな配信の中でも最も注目されたのが、『ひとりかくれんぼ』配信である。ひとりかくれんぼは「コックリさん」のような都市伝説・怪談の一つであり、その内容も降霊術の一種でもある。これまで多くのYouTuberらがトライしてきており、怪奇現象が起こったことも報告されるいわくつきな儀式である。

 ましろは自身の生配信において、マイクを使って音声波形が配信画面で見れるようにセッティングし、果敢にも挑戦したところ、とんでもない配信内容を届けられることになった。午前3時ごろからスタートした放送にも関わらず、非常に多くの視聴者を集めたことにより、「ましろはホラー・都市伝説・オカルトを扱うバーチャルタレント」とにじさんじ内外に知らしめる配信となった。

 ここまで書いてきたようにホラー要素・猟奇的・グロテスクな内容が強い配信もあるので、耐性が無い方がましろの配信を見る際には、十二分に注意しておくべきだと付言しておきたい。

 そんな一面もありつつ、小学校~中学校時代から好きなのが『遊戯王』シリーズ。雑談配信でも話題に挙がることが多く、『遊戯王タッグフォース6』や最近では『遊戯王マスターデュエル』などをプレイしてきており、ホラー系の配信をしているときとは打って変わってテンションが高く活気ある姿が見れる。

 2022年2月1日には同期の来栖夏芽と「初めて」となる2人配信をプレイ。これまで奈羅花を含めた3人での配信はあったが、夏芽と2人で配信するのが初めてと知ると「3年近くやってきて2人でやるの初めて? ガチ?」とおどけてみせ、『Magic:The Gathering』のヘビープレイヤーながらも初めての遊戯王をプレイする来栖と仲良く配信してみせた。

 さて、その華奢な外見や男女どちらともとれるような中性的な声色を聞いていると誤解されがちだが、ましろは男性と公言している。

 2階建ての一軒家に一人暮らしをしており、冬場になると室温が外の気温とほぼ同じになったり、壁は剥がれ落ち、屋根のパーツが足りていないなど、工事担当者などから廃墟と勘違いされかねないほどにボロボロとのこと。

 虫が室内によく発生し、ゴミを処理するのが億劫で掃除もしない、幽霊や心霊現象が頻繁に起こるなど、彼の口から語られている自宅環境がすでにホラー要素に満ちている。

 実際の自宅を確かめる手だてはないが、このような家に住みながら心霊関係の生配信をするという辺りに彼の強い精神力を感じるところ。2021年6月16日赤羽葉子月ノ美兎の3人で降霊術を配信した際には、彼の自宅&恐怖エピソードが語られている。

 ホラー・オカルト要素が配信内容に色濃くあること、『遊戯王』が好きということが影響してか、「ぼくの配信は男性リスナーが圧倒的に多い」ことを自虐的に話しており、その影響もあってか雑談配信では下ネタがなぜが出てくることが多く、深夜に配信が多いことも手伝ってリスナーと盛り上がることも多々ある。

 また配信の性質上どうしてもソロでの配信が多くなってしまい、同期コラボとなるまななつ以外でも数えるほどしかコラボ配信をしておらず、にじさんじ内外で開催される大型大会にも出場することはほとんど無い。

 リスナーからは「ましろさんの人狼が見たいです。コラボは難しそうなのでリスナー対戦でもいいからやっていただけませんか?」と、少し遠回し気味に気を使われてしまうこともあるが、むしろ「群れることをしない」「安易に人とは関わらない」という振る舞いとなり、彼の孤高かつ無二なムードを引き立てている。

 そんな彼の配信スタイルでリスナーを心配させているのがなのが、その配信ペースだ。

 ゲーム配信でも3時間を超えるものはあまり多くなく、雑談配信では事前に決めておいた内容を3~40分で話し終えると、すぐに配信を切り上げてしまうことも過去にあった。

 これに関しては、長時間配信は集中が持続しないことや約束を守れない性格ということをリスナーに明かしており、自分が面白くなくなったり、モチベーションがなくなったと判断した時は配信をしないとも潔く語っているほど。

 2020年の一時期には2か月で配信時間が10時間以下、最後に配信してから1週以上に渡って配信がなく、Twitterも日頃から低頻度な更新ということもあり、彼のファンやリスナーをヤキモキさせていた。

 2021年に入ってからは配信頻度もグンと増えており、どこか気まぐれな気性が徐々におとなしくなっているのも事実だ。2022年に入ってから3週間ほど音沙汰が無くなってしまったが、2022年3月19日に復帰配信をした。

 いちど急性扁桃炎と診断されたがどうも医者を信用できなかったので、ほかの病院に診てもらったところ咳喘息と診断され、「『放置して悪化した場合は死亡する恐れがある』と言われて、本当に焦ったんだ」と語っている。

 配信頻度はもともと乱れがち、ソロ配信が多いというと、彼を慮ればもっと積極的な活動をしてほしい!多くの配信者と触れ合ってほしい!と言う声があがるだろう。

 先にも述べたようにここ1年ほどで以前に比べるとユーザーと向き合う時間が増えてきたわけだが、むしろこういった『他人と間の空いた距離感』は彼の孤高さを印象付ける演出のように機能していることに注目したい。

 2021年7月10日には3Dお披露目配信を行なったが、通例1時間ほどの配信となるはずが30分ほどで終了し、自身と仲の良いタレントをゲストとして呼ぶこともなかったこの配信はまさに異例かつ異端、他のにじさんじメンバーの3Dお披露目配信とは一線を画す内容として視聴者を引き込むことになった。

 悪夢にうなされてガバっと起きるシーンから始まり、ひと一人が入っていそうな大きい袋を引きずりながら、森へ、駅へ、薄暗い場所を歩き続け、スコップで掘った穴にズタ袋を埋めようとすると……というホラーな内容だったのだ。BGMにはクラシックが流れ、寂しさを引き立てるものになっている。

 しかもこの配信は収録したものではなく生配信で1人で演技していたといい、あくまで一つのストーリーラインをうまく伝えきるために、他のライバーも呼ぶこともなく、リスナーとのコミュニケーションも最小限に留め、自身の世界観を広げることに成功した配信となったのだ。

 生配信時には歌を披露しており、現在アップされているアーカイブ動画では当該部分がカットされているが、むしろカットされているほうが動画として完成度がより良いと思える。ほかのにじさんじメンバーらとは大きく趣きを異にする活動ペースとその内容は、ミステリアス・孤独・恐怖といった感情や心象を呼び起こし、バーチャルタレント・ましろにこびりついているのだ。

 そんな彼がうたってきた数少ない歌ってみた動画やカバー動画は、切羽詰まった心象を色濃く描いた楽曲をチョイスしている。中性的な声がクリーンな質感からザラついた質感へと自然と変わっていく独特な声で、息がつまりそうなほどのヒリヒリした緊張感や切迫感を伝えてくる。

 来栖夏芽奈羅花ましろの3人は、2021年からお互いが多忙になったことやそれぞれの配信内容やスタイルなどが固まってきたことも影響し、3人でのコラボ配信はほとんど無くなってしまっている。そこに一抹の寂しさを感じるファンも少なくないだろう。

 だが、ライトノベル作家としてデビューを果たした文芸家、FPSを通じて様々なストリーマーやVTuberらと共にドラマを見せてきたゲーマー、にじさんじのなかでもホラー&オカルトを好むミステリアスな存在。キャラクターがまったく違いながら「バラバラでありながらも繋がっている」という距離感は、にじさんじらしさを強く感じさせてくれる3人組なのだ。(草野虹)

ましろ(C)ANYCOLOR, Inc.