大谷翔平の、大谷翔平による、大谷翔平のための新ルール採用となるか。メジャーリーグで「大谷翔平ルール」とも言うべき、新たなルール変更が行われる見込みだ。DH制を採らず、打順に入った先発投手が、降板後もDHとして出場を続けられる、というもの。これによって利益を受けられるのは、現状ではただ一人のリアル二刀流選手として鳴らす大谷だけ。前代未聞のルール変更となる。

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 これまで、DHを解除しての投打リアル二刀流出場には弊害もあった。投手として早期降板した際には、打者では1、2打席のみで終わることがあった。また、その場合には以降も投手が打席に立ち続けるため、代打要員が必要になるが、ベンチ入りが26人に限られるメジャーでは現実的ではなかった。

 その弊害を回避するために、大谷が降板後は外野手としてプレーし続けたこともあったが、どうしても故障のリスクがつきまとう。全力投球の登板を終えた後に、外野からの送球で肩、肘に不安をもたらす恐れがあり、選択肢として積極的には採用されてこなかった。

 今回の「大谷翔平ルール」が採用されれば、こうした弊害やリスクはなくなる。そして結果的に大谷がシーズン通じて立つ打席数は大きく伸びる。昨季、あと2本で逃した本塁打王獲得へ追い風であり、打点王盗塁王へ向けても確実にプラスに働く。またエンゼルスにとっても、願ったりの変更となる。

 冷静に見渡せば、他の29球団にはメリットがほとんどない。それなのになぜこのような「えこひいき」とも取られかねないルール変更が可能になりそうなのか。


 背景にはメジャーリーグ機構(MLB)の大谷への大きな期待がある。前例のない投打二刀流として大ブレークを果たした昨季。日本のみならず、現地・米国でも大谷はスーパースターの仲間入りを果たした。人気低迷が叫ばれ、新労使協定を巡る労使関係の悪化からのロックアウトで、ファン離れの加速が懸念されている。またMLBは今後、世界的な規模でファン層拡大へと乗り出す方針を固めている。アジアや欧州での市場開拓へ向け、大谷というアイコンが輝くことが大きな助けになると信じている。

 新労使協定では2025年の開幕シリーズを東京ドームで行うことにも合意した。大谷は順当なら2023年オフにエンゼルスからFAとなる見込みで、2025年の所属チームは不透明。それでも現時点では、大谷が所属しているであろうどこかのチームが、開幕シリーズ開催の一番手に挙げられるほどなのだ。大谷が生み出す経済効果は計り知れず、他29球団はルール変更へ反対の声を上げたくても、機構側がそれを封殺する構図に映る。また他球団にしてみても、大谷の活躍によるリーグ全体の活性化は望むところなのかもしれない。

 昨年のオールスター戦でも、大谷は異例の厚遇で迎えられた。ホームランダービーから主役を張り、本番では「1番・投手兼DH」として出場。降板後もDHとしてプレーしており、今回採用される「大谷翔平ルール」を1年早く体感していたわけだ。異例の新ルールは、それだけメジャーリーグ全体が大谷に依存し、期待していることの表れである。


前代未聞の『大谷翔平ルール』はなぜ採用されるのか 大谷とエンゼルスにしかメリットのない異例ルール導入の理由