2022年11月にインドネシアバリ島で開催される予定のG20会合を巡って議長国であり、ホスト国であるインドネシアが苦境に陥っている。

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 というのもG20のメンバー国であるロシアの会合参加を巡って欧米などから「招待すべきでない」との意見が出る一方、当のロシアからは「予定通りにプーチン大統領が参加する」と参加に前向きの方針をインドネシア政府に伝えられ、中国もそれを支持する姿勢を示すなど、収拾がつかない状況に追い込まれているのだ。

コロナからの復活をアピールする絶好の機会のはずが

 インドネシア政府はこれまでのところ、「すべてのG20メンバーを招待する」との立場を取っているが、ロシアの参加を認めると欧米などのメンバーが参加を拒否する可能性もあり、逆にロシアを排除すれば中国などからの強い反発が予想される。極めて厳しい局面に立たされており、どのような判断を下すべきか葛藤を強いられている。

 G20は、1997年のアジア通貨危機を契機として、よりグローバルな国際金融システムの構築、国際会合の場が必要との議論がG7(先進国首脳会議)で高まり、G7に加えて新興市場国の参加が不可欠との考えからスタートした。

 G7のカナダフランスドイツイタリア、日本、英国、米国に、アルゼンチンオーストラリア、ブラジル、中国、インドインドネシア、韓国、メキシコロシアサウジアラビア南アフリカトルコ欧州連合欧州中央銀行の13カ国と組織が加わってG20が構成されることが1999年に決まった。

 第1回会合は、2000年に米ワシントンDCで開催された。

 それから22年。昨年秋に議長国をイタリアから引きついたインドネシアは、今年11月のG20サミットの会場をバリ島に決め、ジョコ・ウィドド大統領を先頭に国を挙げて準備を進めている。ジョコ・ウィドド大統領にしてみれば「コロナ渦から立ち直る国際社会と経済」をアピールする、またとない政権浮揚策としてG20会合をとらえている。

 コロナ感染防止対策でもバリ島を最優先に規制緩和を打ち出し、海外からの観光客をすでに迎え入れている。これもG20会合をにらんだ政策で、G20会合にかけるインドネシア政府の意気込みが相当なものであることがうかがえる。

ロシアのウクライナ侵攻の思わぬ余波

 そうしたG20会合への「熱烈歓迎」の中で起きた2月24日ロシアによるウクライナ侵攻は、インドネシアG20歓迎ムードに水を差すものとなった。

 インドネシア政府がウクライナ情勢を見守る中、3月23日に在インドネシアロシア大使館の大使が「G20会合にプーチン大統領は出席する予定である」と発表して、インドネシア政府に釘を刺した。

 これに呼応するかのように中国外務省報道官は「ロシアG20の重要なメンバーであり、いかなる参加国も他の参加国をG20会合から排除することはできない」とロシアを援護射撃してロシア排除の機運が高まる欧州などを牽制。

 インドネシア政府は、今のところは「すべてのG20メンバーを招待する」という立場を崩していない。3月24日は、インドネシア外務省が記者会見で、ロシアウクライナに侵攻する前の2月22日の時点で招待状を送付していることを明らかにしている。

 だが、ロシアG20参加に「絶対反対」の立場を示す国も多いのも事実だ。

 バイデン大統領は24日、G7(主要7カ国首脳会議)などに出席するため訪問しているベルギーのブリュッセルで記者会見し「ロシアG20会合から排除する必要があると考えるか」との記者の質問に対し「答えはイエスだ。今日のG7会議でG20会合からのロシア排除の可能性を提起した」としてロシア排除を求める姿勢を明らかにした。

 そのうえで議長国インドネシアに対して「インドネシアや他の国がロシア排除に同意しない場合はウクライナG20会合に参加できるようにするべきだ」と注文を付けたのだった。

 オーストラリアのモリソン首相も、24日、メディアに対して「プーチン氏について、米国はすでにウクライナでの戦争犯罪で非難する立場を取っており、その本人と同じテーブルを囲むのは私にとっては度を越している」と語っている。

 すんなりとロシアの参加を認める雰囲気ではなさそうだ。

欧米か、それとも中国・ロシアか、選択迫られるインドネシア

 このように欧米と中国・ロシアとの板挟みになったインドネシア政府は大いに困惑している。

 ロシアを排除すれば中国やインドなどロシアに近いメンバー国から強い反発を受けることは必至であり、またロシアの参加を認めることになれば、欧米からの反発は強く、最悪のケースとして会合出席を見合わせるという可能性も想定され、議長国としての手腕が試されているのだ。

 インドネシアは中国が進める「一帯一路」政策に応じる形で多額の経済援助を受けている。中国主導で進む首都ジャカルタから西ジャワ州の州都バンドンまでの高速鉄道計画も、当初の完工時期を大幅に遅らせながらも継続して進行中ということで、中国とは経済的に近い関係にある。

 その一方で、中国が一方的に海洋権益を主張する南シナ海では、インドネシア領のナツナ諸島北方海域にあるインドネシアのEEZ(排他的経済水域)が中国の「九段線」と重複する可能性があるとの中国の一方的主張に反発を強めるなど、経済面以外では中国との間に溝が存在するのも事実である。

 G20会合は11月の首脳会議とは別に閣僚会合などが順次開催されるが、こうした付属会議へのロシア参加問題も含め、インドネシア政府は早急な判断が求められている。

 バイデン大統領が示した「ロシアが参加するならウクライナが出席できるようにすべきだ」との意見についていえば、G20会合では必要に応じてメンバー以外の国や国際機関を招待することができることになっているため、ウクライナ参加はルール上可能である。ウクライナを参加させることでロシアの参加も他のG20構成国に了解してもらうという線で調整を図ることになるのだろうか。

 限られた時間の中でG20会合メンバー国の意見を調整しなければならないジョコ・ウィドド大統領にとっては、頭の痛い、熟睡できない時間が続くことになる。

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2016年5月、ロシアのソチで首脳会談を行った後、調印式の席で言葉を交わすジョコ・ウィドド大統領とプーチン大統領(写真:AP/アフロ)