(羽田 真代:在韓ビジネスライター)

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 韓国で次期大統領に尹錫悦(ユン・ソクヨル/国民の力)氏が選出されて以来、文在寅ムン・ジェイン/共に民主党大統領を批判する報道がさらに増えたように感じる。

 政権交代によって、5月には現与党の「共に民主党」は野党に転落する。文政権下で圧力をかけられていた韓国メディアにとって、当然と言えば当然の流れであろう。

 例えば、大統領選挙の期間中に問題提起された文大統領夫人、金正淑(キム・ジョンスク)氏の衣装問題である。

「儀典費用を公開せよ」という裁判所の判決を不服として控訴した文在寅大統領サイドに対して、野党や国民は「金正淑氏の衣服代が国家機密であれば、大統領の任期満了後に装身具、服、ハンドバッグなどすべてを国に返還すべきではないか」という怒りの声は大きくなっている。

 また、新型コロナウイルスによる急激な感染者増加のため、文大統領の誇る「K-防疫」は崩壊しており、政府の対策を批判するメディアは増えている。尹次期大統領が進めている大統領府の執務室移転を文大統領が妨害している問題についても、各社が積極的に報道し始めた。移転賛成派から、文大統領を批判する声がよく聞かれる。

 その中で、過去にあまり取り上げられてこなかった文政権の問題点について、追加報道がされた。

公務員人件費100兆ウォン(約10兆円)時代 文政権 5年間で13万人増やした(アジア経済 2022.03.28)」という内容だ。

 文大統領は5年前、公約として「公共部門の雇用を81万件創出させる」と掲げていた。彼はこの公約を守っただけなのだが、いかんせん内容がひどい。

文在寅政権で公務員の数はどれだけ増えたか?

 文大統領は、大統領就任早々に最低賃金の改定に踏み切って大失敗したことがあった。この時は賃金上昇に伴う雇用損失を招いた。

 就任当時6470ウォン(約647円)だった最低賃金は、結果的に2022年に9160ウォン(約916円)まで上昇したものの、公約に掲げた時給1000円は叶わなかった。彼は就任間もない時に国民に謝罪している。

 この賃金上昇に対応するために大手チェーンや工場が機械化を進めたことで、正社員どころかアルバイトにすら就けない若者が増えた。韓国に多いファーストフード店やカフェなどを筆頭に、接客が必要な店舗でセルフレジが導入されたからだ。

 この賃金改革時と同じくらい、公務員人件費問題は問題のある政策だと言える。

 韓国歴代政権の公務員定員増加規模を見ると、

廬武鉉(ノ・ムヒョン) 政権: 7万4445人(増加率:8.23%)
李明博(イ・ミョンバク)政権: 1万2116人(増加率:1.24%)
朴槿恵パク・クネ)  政権: 4万1504人(増加率:4.18%)
文在寅ムン・ジェイン)政権:12万7414人(増加率:12.4%)
※文政権は2016年末から2021年末基準

 と、文政権下で異常なほど公務員数が増加していることが分かる。これは、朴政権の3倍、李政権の10倍だ。

 18の政府省庁の公務員数は2016年に44万3131人であったのに対し、2021年末には47万3458人と6.8%増加した。政府省庁の中で唯一減少したのは、保険福祉部のみである。

 2021年末時点で公開された韓国の公務員総定員数は115万6952人で、このうち行政部・国家公務員が75万824人(64.9%)、地方公務員が38万819人(32.9%)だ。2020年の公務員全体の平均給与月額は535万ウォン(約53万円)である。

赤字経営の公共機関に血税をつぎ込む韓国

 日本の場合、令和3(2021年)度予算政府案に国家公務員が約58.5万人で地方公務員が約274万人と書かれている。日本は人口が韓国の倍以上あるから地方公務員数が多いことに納得だが、国家公務員数は韓国の方がはるかに多い。

 と言っても、これでも韓国はOECD(経済協力開発機構)加盟国中、日本の次に公務員数が少ない国家だ(雇用者全体に占める一般政府雇用者比較の国際比較<国内雇用、短期雇用者含む/2015年>で、日本は5.9%と最下位、韓国は7.6%で日本の次に低かった)。

 それゆえ、文大統領に「他国と足並みを揃えるために公務員数を増加させた」と主張されれば納得する国民も多いに違いない。ただ、人口が減少する一方の韓国で公務員数を増加させる必要はなかったように思う。

 韓国では、2021年に国家公務員の人件費が史上初めて40兆ウォン(約4兆円)を超えた。地方公務員の関連経費予算についても、文政権下の2019年に30兆ウォン(約3兆円)を突破している。

 これに、文政権下に入ってから年々増加している公共機関役職員の平均報酬額を加えると、110兆ウォン(約11兆円)近い財政が公務員・公共機関の人件費に投入されている。

 公共機関の負債は、2016年の500兆3000億ウォン(約50兆300億円)から、2020年の544兆8000億ウォン(約54兆4800億円)と悪化の一途を辿るばかり。地方公企業に至っては2兆ウォン(約2000億円)台の当期純損失に負債54兆ウォン(約5兆4000億円)まで含んでいる。

 赤字経営の公共機関に人員ばかりを投入させたところで、負担を強いられるのは国民だ。国民の血税で公共機関の赤字や公務員・公共機関職員の給与を補填するしかない。これに加えて、将来的には公務員年金も深刻な問題として降りかかってくるというから、若者世代の負担は増える一方だ。

 一部の韓国専門家の間で「韓国経済は近々崩壊するだろう」と指摘されている。

文在寅支持者は自国を客観視できているか?

 短期間で太った体が中々痩せないのと同様に、社会や経済も悪い状態から立て直すことは至難の業である。これを、尹次期大統領が5年で元の状態に戻すことはまず不可能であり、仮に状態を好転できたとしても、せいぜい基盤造りまでが限界だろう。

 幸いにも、尹次期大統領は政府組織をスリム化させると公言している。彼のこの政策は、文政権がむやみやたらに増やした公務員数を多少なりとも減少させることにつながるだろう。尹次期大統領は政治初心者の大統領だが、マネジメント能力は文大統領よりも長けているようだ。

 問題なのは、先に綴ったように韓国社会を悪化させた文大統領と、彼を支持する有権者だ。

 リアルメーターの調査(3月21~25日)によると、尹次期大統領の国政遂行を肯定的に見ている人は46.0%、否定的に見ている人は49.6%だった。一方、文大統領の国政遂行評価を肯定する人は46.7%で、否定する人が50.7%だったそうだ。

 肯定者は文大統領の方がわずかではあるが勝っている。文大統領を支持する有権者は、客観的に自国の状態を見てよりよい選択を判断することができていないのだろう。彼らは、韓国経済が崩壊して初めて自身の選択が誤りだったことに気付くのかもしれない。

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儀典の衣装問題で叩かれている文在寅大統領と夫人の金正淑氏(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)