韓国の自動車メーカー、双竜(サンヨン)自動車の売却が失敗に終わった。新興のEV(電気自動車)メーカーが買収資金を調達できなかった。
双竜自動車問題は、雇用維持と産業競争力のバランスをどう取るのかを巡る、尹錫悦(ユン・ソギョル=1960年生)政権の最初のテストになる。
「やっぱり無理だったか…」
買収資金を払えず
2022年3月28日、双竜自動車は、新興のEVメーカーであるエジソンモーターズに対して「売却契約の解除」を通告した。
この3日前の25日は、エジソンモーターズが双竜自動車に買収代金の残額、約2700億ウォン(1円=11ウォン)を支払う期限だった。
この日までに支払いがなく、双竜自動車は、再建手続きを進めているソウル回生裁判所と協議の上、契約解除を通告した。
迷走を重ねた双竜自動車の再建はまた原点に戻ることになった。
2021年10月末、ソウル回生裁判所は、エジソンモーターズを売却先の優先交渉権者に選定した。売却額は3000億ウォン強で、エジソンモーターズは300億ウォンの契約金は支払った。
エジソンモーターズは、投資ファンドなどとコンソーシアムを組んで買収に乗り出す計画だった。
ところが、エジソンモーターズによる再建案に不透明な点があり、投資ファンドなどが相次ぎ資金拠出の意向を撤回した。
2020年の売上高を比較すると、エジソンモーターズは898億ウォン、双竜自動車は2兆9502億ウォンで、30倍も差がある。
「小が大を飲む」どころではない買収計画だった。
「2700億ウォンの資金が調達できないのなら、そもそも無理な買収劇だった」
1兆ウォンは必要?
韓国紙デスクはこう話す。
双竜自動車は、エジソンモーターズに運転資金などの貸し付けも求めていた。
この韓国紙デスクによると、「新車の開発費用などを含めると、経営を軌道に乗せるためには1兆ウォン程度の資金が必要だ。もちろん、大半は金融機関に支援を仰ぐが、親会社になるのならエジソンモーターズも一定金額を負担をし、きちんとした成長戦略を示す必要があった。どちらもうまくいかなかった」という。
ではこれから双竜自動車どうなるのか。
エジソンモーターズは、契約解除は不当だと訴訟を起こす構えだ。自動車業界内では、「判決がどうなるにせよ、再びエジソンモーターズに売約する可能性は低い」とみる。
双竜自動車の多くの債権者が、エジソンモーターズによる買収に反対しているともいう。
となると、裁判所による手続きに戻る。
会社を清算するか、再び売却を目指すのか。この2つが選択肢だ。
双竜自動車は、新たな売却先を探す方針だ。そういう企業が現れるのか分からないが、「いくつかの企業が選択肢としてはある」と説明している。
高いハードル、新政権の意向は?
新たに「ちゃんとした」売却先を見つけるのは大変だろう。仮に見つかったとしても、越えるべきハードルは多く高い。
それも新政権の政策と密接に関係している問題が絡んでいるのだ。
まずは、投資・運転資金をどう調達するのか。自動車など基幹産業の大企業の再生手続きを主導するのは、韓国ではいつも国策銀行のKDB産業銀行だ。
回生裁判所、双竜自動車、買収する企業、債権者と調整しながら資金支援をするというのがお決まりのパターンだった。
双竜自動車に対してもそうなるのか?
かつての名門自動車メーカー、双竜自動車は、1990年末のIMF(国際通貨基金)危機で、双竜グループ自体が解体になった後は迷走を続けた。
大宇(デウ)グループ→上海汽車→インド・マヒンドラグループ・・・売却を重ねたが経営は改善せず、そのたびにKDBが支援してきた。だが、そのたびにうまくいかなかった。
国策銀行による支援は必要か
必要な資金は1兆ウォンという。これだけ支援しても、現代自動車グループなど巨大企業に対抗できるのか?
自動車産業で100年に1度の大変化が起きている時期でもある。
産業政策の観点から見れば、これ以上、国策銀行を使って支援する必要があるのか、という疑問が出るのも当然だ。
尹錫悦氏は、大きな政府を否定し、民間部門は民間に委ね、さらに市場メカニズムを重視するのが基本的な経済政策の考え方だ。
競争を勝ち抜けるか分からない企業を国策銀行で支援するのは、方向性が一致しない。
一方で、双竜自動車はいまでも5000人の従業員を抱える。部品メーカーや販売店、関連企業を加えると、この何倍もの雇用に責任を持つ企業だ。
今回の大統領選挙でも、「雇用」は「不動産」と並んで有権者の関心が最も高い経済政策だった。
「市場に委ねる」と言って、放置できるはずがない。もう一つ難題がある。
双竜自動車は、かつて激しい労使対立が続いた象徴的な企業なのだ。
2007年、双竜自動車は再建策の一環として1700人を削減した。このうち165人が削減計画による退社を拒否し、激烈な労働紛争が始まった。
2009年には労組と警官隊が衝突する流血事態も起きた。
文在寅政権の労使政協調モデル
問題を解決したのが、いまの文在寅(ムン・ジェイン=1953年生)政権だった。
経営側、労組側、政府が参加した3者協議を主導し、2018年9月に最後まで闘争を続けた34人全員の復職で妥結した。
文在寅政権の「親労組策のモデル」という声もある。経営側の当時の強引なリストラには批判もある。経営者の間には、労組に押し切られたという思いもある。
「双竜の労使問題」はいまなお、生々しい記憶なのだ。
今後、双竜自動車の再建には必ず「経営の合理化」の議論が出てくるはずだ。
労使問題について。尹錫悦氏は「原則論」だ。力で自分たちの主張を通そうとする労組には厳しく対応する姿勢だ。
だが、政権発足直後に大規模の企業倒産や労使の激突が起きることは大きな負担になるはずだ。
国会は、進歩系で現政権の「親労組策」を支えた「共に民主党」が多数を握っている。労使問題で対立すれば、政権初期から経済政策のかじ取りが難しくなる懸念もある。
「自動車」は新政権の大きな課題になる。
2022年2月の国内販売台数は、双竜自動車4540台、ルノーコリア(旧ルノーサムスン)3718台、韓国GM2446台だ。
双竜自動車は輸出を足しても7082台だ。
半導体の調達に問題が生じたなど「特殊事情」はあったにせよ、どのメーカーも、あまりにも少ない。
3社とも工場を持ち、関連企業を入れると相当な規模な雇用を維持している。
自動車産業をどう維持するのか。
尹錫悦政権の5年間、自動車は、EVなど親環境車や自動運転車の普及など新しい成長産業でもあり、構造調整の重要対象でもある。
双竜自動車の再建問題は、単に新興メーカーによる買収失敗という話ではなく、新政権の重大な試金石なのだ。
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