本稿で紹介するViNA GARDENSには小田急ロマンスカーミュージアム」が先行開業済み。クリニックでの受診後、ミュージアム見学も鉄道ファンなら大いにありでしょう(写真:鉄道チャンネル編集部)

2022年はじめ、東京都の人口(推計約1399万人)が2021年初に比べ5万人弱減ったというニュースが報じられました。都の人口が通年で減少したのは1996年以来、26年ぶりとか。主な理由はコロナ。「感染リスクを不安に思う人が他県に転出、テレワーク普及で通勤に便利な東京都心に住む必然性がなくなった」と専門家は分析します。

人口の都心離れは、もちろん鉄道会社にとっても大問題。そうでなくても本格的な人口減少に向かうこれからの時代、〝鉄道の基礎体力〟を維持するには、住みたくなる、行きたくなる沿線街づくりが求められます。魅力ある沿線開発は鉄道各社が努力する点ですが、本コラムが注目したのは小田急電鉄。「暮らしの安心を支える複合型医療施設が海老名駅に誕生」「子どもICカード一律運賃がスタート」の2つの視点から小田急の戦略を探ります。

ロマンスカーミュージアムに隣接する複合医療ビル

小田急とJRの海老名駅を結ぶ自由通路をはさんで複合医療ビルの「ViNA GARDENS PERCH」(左)とオフィスビルの「ViNA GARDENS OFFICE」(右)が並びます(筆者撮影)

まずは2022年4月4日にオープンする、海老名駅直結の複合医療ビル「ViNA GARDENS PEARCH(ビナガーデンズ・パーチ)」から。海老名駅小田急線のほか、JR相模線相鉄本線の鉄道3線が集結する交通結節点。新宿にも横浜にも八王子にも、乗り換えなしで出られます。

海老名駅は南側に相鉄と小田急、北側にJRと各駅が並んでいます。小田急とJRの間には200メートルほどの、元は駐車場だった空地があり、ここを利用して2021年4月に開業したのが「小田急ロマンスカーミュージアム」。小田急はミュージアム北側を開発して、複合型医療施設「ViNA GARDENS PERCH」、オフィスビル「ViNA GARDENS OFFICE(ビナガーデンズオフィス)」の2棟のビルを建設しました。

ViNA GARDENS OFFICEのデッキからは小田急海老名検車区が間近に眺められます。眼下には保線用のモーターカー、留置線には東京メトロの車両や小田急ロマンスカーが出発を待ちます(筆者撮影)

2棟の間には小田急、JR駅を結ぶ自由通路が通り、JR駅の先には総合ショッピングセンター「ららぽーと海老名」が広がります。

憩う、くらす、育むがコンセプトの〝とまり木〟

Vinaは、小田急海老名エリアの開発名。「憩う」、「くらす」、「育む」の3つのコンセプトを、咲く花びらに見立て「Ⅴ」の文字で表現しました。

海老名エリアの「ウェルネス(元気)」を実践するのが「ViNA GARDENS PERCH」。PERCHは「とまり木」を意味します。ビルは地上10階建てで、延べ床面積約2万6000平方メートル。

6、7階が医療機関。6階は歯科、美容外科、小児科など7科目の診療所と薬局、介護用品コーナーが集合するクリニックモール、7階は個室タイプの健診センターを中心とする、「カラダテラス海老名」が移転して入居します(一部は5月に開院)。

6階には海老名市コロナウイルスワクチンデスクも。「地域の安心・安全は海老名駅から」というわけです。

タブレット端末で雑誌を読みながら検診を待つ

カラダテラスの受付。まるでホテルのフロントのようですね(筆者撮影)

カラダテラスで、模擬検診を受診しました。受診者には受付でタブレット端末が手渡され、既往症や当日の健康状態などを画面操作で入力します。端末は電子雑誌機能を備え、順番が来ると「診察室7番にお入りください」などと画面で案内されます。文字通りの〝スマート診療〟ですね。

一言だけですが、OFFICEにも触れます。神奈川県央最大級の賃貸オフィスで、地上14階建てのビルは、延べ床約3万2000平方メートル。1フロア1800平方メートルの広々とした空間が広がります。

子育てしやすい小田急沿線

小田急は2022年3月12日ダイヤ改正で、子育て応援ポリシーを実践する「小田急の子育て応援車」を導入しました。写真はモデルのファミリーを迎えてのマスコミ向け撮影会(画像:小田急電鉄

ViNA GARDENS PERCHには、小児科医院もあります。そこから、小田急の「子育て応援ポリシー」に発想をとばしました。

2022年3月12日ダイヤ改正にあわせて実施された「子どもICカード運賃全線一律50円」。鉄道ファンだけでなく社会的にも大きな反響を呼びましたが、前提になるのが2021年11月に策定した応援ポリシー。小田急が子育てファミリーを応援する企業指針です。

子育て応援ポリシーは、子育てに想いを持つ社員が中心になって取りまとめたそう。子ども運賃の実質値下げや均一化は、小学生の鉄道利用を促進する狙いもあります。

「子どもICカード運賃全線一律50円」を示す車内用ステッカー。それにしても一律50円はインパクトがありますね(画像:小田急電鉄

小田急は子どもIC運賃の低廉化にあわせて、子ども用通学定期券も実質値下げしました。新たな発売額は全区間一律で、1カ月800円、3カ月2280円、6カ月4320円、1、3、6ヵ月ともに、それまでの最安区間を下回る運賃に設定しました。

割安な運賃でファミリーの視線を鉄道に、JR西や上毛電鉄の例も

北陸新幹線E7系W7系イメージ(写真:ヒロキ / PIXTA)

鉄道の子ども運賃は原則大人の半額ですが、例外もあります。例えば、JR西日本が2021年末に発売した「冬休み『お子様1000円』ファミリーきっぷ」。小学生の子連れファミリーが対象で、山陽新幹線在来線北陸線、一部の北陸新幹線について、JR西日本のインターネット予約サイトから期間・席数を限定して売り出しました。

きっぷの名称通り、子どもは一律1000円。例えば、大阪市内―博多間を利用する場合、通常は大人1万5600円、子ども7790円のところ、ファミリーきっぷは大人1万4040円、子ども1000円で、1万6700円割安になります。

大人2人(パパとママ)、小学生2人のファミリーを考えましょう。大阪から博多に帰省する場合、普通なら4万6780円運賃・料金がかかります。ところが、「冬休み『お子様1000円』ファミリーきっぷ」なら3万80円ですみます。パパとママが交代でハンドルを握ってマイカー帰省しようと考えていたファミリーも、「3万円なら新幹線で帰ろう」と思うかもしれません。

走っているのは知っていても乗ったことはない

もう一つ、私の知る実例を。群馬県の地方鉄道・上毛電気鉄道(上電)は毎年1月3日前橋市の大胡電車庫で開く新春イベント(2021年、2022年はコロナで中止)当日、子ども運賃を無料にしました。

上電の考え方を、古澤和秋社長に取材したことがあります。群馬は地方都市の例にもれずマイカー王国。普段は親のクルマで出かけるので、電車が走っているのは知っていても、乗ったことがない子どもが一定数います。でも無料なら、「お父さん、きょうは電車で行こうよ」となったりします。

小田急は地方鉄道はありませんが、郊外エリアでは「日常のお出かけはマイカー」のファミリーも多いはず。子育て応援ポリシー、沿線に暮らすファミリーも、鉄道会社の小田急も、ともに笑顔になるWinWinの利用促進策といえるでしょう。

記名式PASMO利用でポイントがもらえる新サービスも

ラストはファミリーに限りませんが、電車で出かけたくなる小田急のおトク情報。同社は2022年4月1日から、「小田急おでかけポイント」のサービスを開始しました。コロナ禍のニューノーマル(新しい生活様式)をうけた、定期券を持たない通勤スタイル、さらには子どもIC運賃50円にも連動する利用促進策です。

小田急ポイントカードでの利用時にポイントを付けます。大人ポイントは同一月内・運賃区間の利用が対象で、乗車回数ごとに0.5~12%と付与率を変えます。特典を受けるには、小田急のサービスサイト「ONE(オーネ)」への会員登録とPASMO登録が必要です。

小田急は新サービスをアピールしようと、2022年4月1日から9月30日まで「おでかけポイント始まる!キャンペーン」を展開。「小田急おでかけポイント」登録で200ポイント、登録後同一月内・運賃区間2回以上乗車すると、1000ポイントなどを加算します。

記事:上里夏生