アポロ計画から約半世紀、アメリカが再び月を目指そうとしています。宇宙飛行士を運ぶ宇宙船を打ち上げるため、新たな超大型ロケット「SLS」の開発も進んでおり、最終テストに臨んでいます。

再び月へ行こう!「アルテミス計画」とは

2022年3月18日(日本時間、以下同様)、アメリカの次世代ロケット「SLS(スペース・ローンチ・システム)」のウェットドレスリハーサルが始まりました。これは最終テストともいえるもので、ロケット開発の最終段階で行われる、点火以外はほぼ本番同様の作業を行う総合試験です。

このロケットは、アメリカが主導して行う国際有人月探査計画である「アルテミス計画」において、宇宙飛行士の輸送をオリオンOrion)宇宙船と共に担います。

アポロ計画から約半世紀が経ったいま、改めてアメリカが月へ人類を送り込もうとしているのです。アルテミス計画の概要とSLSロケットの役割について見てみましょう。

そもそも、人類が初めて月に到達したのは、1969(昭和44)年7月20日アポロ11号によってでした。それから3年後の1972(昭和47)年12月11日アポロ17号が月面を去って以来、月への訪問は途切れたままになっています。

時は流れて2004(平成16)年、当時のブッシュ大統領は「コンステレーション計画(Constellation Program)」を立ち上げ、早ければ2015(平成27)年、遅くとも2020年に有人月面探査を行う方針を示します。これに合わせて「アレスI」および「アレスV」ロケットと月面着陸機「アルタイル」の開発が行われましたが、次代のオバマ大統領によって2010(平成22)年に計画は中止となりました。

月への気運が再び盛り上がったのはトランプ大統領の就任後です。結果、2017(平成29)年12月にアルテミス計画が承認されたことで、再び月面探査の計画が動き出しました。

2022年3月現在、アメリカのトップはトランプ大統領ではなくバイデン大統領に代わっています。しかし計画は、最初の目標である有人月着陸に向け遅れつつも進んでおり、SLSと宇宙船の「オリオン」の開発完了間近まで来ました。

半世紀前のアポロ計画と何が違う?

現在、NASAは月着陸に向けて、次の3段構えで計画を立案しています。

・「アルテミスI」で、SLSと「オリオン」宇宙船を無人で月まで往復させる。
・「アルテミスII」で、SLSと「オリオン」宇宙船を有人で月まで往復させる。
・「アルテミスIII」で、SLSと「オリオン」宇宙船を有人で月面着陸させる。

ちなみに、計画名に冠された「アルテミス」とは、ギリシア神話の月の女神のことです。彼女は男神である「アポロ」の双子のきょうだいといわれており、このことから、アポロ計画の後継で、宇宙においていっそう女性が活躍するようにという願いが込められているのではないでしょうか。なお、計画の最終段階にあたる「アルテミスIII」では、最初の女性と有色人種が月に降りる予定です。

無人飛行、有人往復、有人着陸という段階を踏んでいくのはアポロ計画と変わりませんが、アルテミス計画ではやり方や体制が変わっています。

アポロ計画では、司令船を月周回軌道に残して着陸船で月面に降り、活動後に司令船に戻って地球へ帰還しましたが、この一連の計画は全てアメリカ単独で行われました。

これに対してアルテミス計画では、あらかじめ月周回軌道上に宇宙ステーション「月軌道プラットフォームゲートウェイLunar Orbital Platform-Gateway、略称ゲートウェイ)」を建設しておき、打ち上げられた「オリオン」宇宙船でゲートウェイまで飛び、そこで着陸船に乗り換えて月面に降り立つ流れになっています。また計画の中心はアメリカであるものの、日本やESA(欧州宇宙機関)、カナダといったISS(国際宇宙ステーション)参加国を軸に、多くの国が加わる国際プロジェクトになります。

2022年3月現在、日本で新たな宇宙飛行士の選抜試験が始まっていますが、ここで選ばれた飛行士は、いずれアルテミス計画へ参加することが期待されています。

超巨大ロケットSLSの概要と役割

では、「オリオン」宇宙船を打ち上げるためのロケット、SLSについて見てみましょう。これは、アメリカが開発中の超大型使い捨てロケットで、現在テスト中の「ブロック1(Block 1)」と呼ばれるタイプでは全長98.3m、最大直径8.4m、打ち上げ時の重量2608tと、アポロを打ち上げた「サターンVロケットに次ぐ大きさを誇ります。

特筆すべきは、機体に「スペースシャトル」の遺産が用いられている点です。オレンジ色をした1段目は「スペースシャトル」打ち上げ時の外部燃料タンクを元に開発されており、そこに取り付けられる4基の液体ロケットエンジンは、メインエンジンであったRS-25Dです。両側に取り付けられる白く細いSRB(Solod Rocket Booster:固体ロケットブースター)も、「スペースシャトル」用の4セグメントタイプを5セグメントに延長して使用しています。

エンジンもSRBも、「スペースシャトル」時代には再使用することを前提に開発されたものです。これらを今度は使い捨てるので、ある意味でとても豪華なロケットだと言えるのかもしれません。

2段目は暫定極低温推進段(ICPS)と呼ばれ、「デルタIV」ロケットの第2段に用いられるDCSSの発展型です。

なおSLSは、将来的に能力を向上させていく構想があり、現時点で「ブロック1B」「ブロック2」と発展タイプが開発されることが考えられています。現在のところ、「アルテミスIII」の月着陸まではブロック1が、4号機から8号機までが1B、以降が2という計画になっています。

SLSはアルテミス計画においてオリオン宇宙船を搭載してゲートウェイへの乗組員輸送を担う予定となっており、2022年4月以降の初飛行を目指して準備が進んでいます。

ちなみにNASAでは、SLSの発展型を火星有人探査に使おうという計画もあるものの、これはしばらく先の話となるようです。

射点に運ばれるSLS(画像:NASA)。