「ベンチに屋根がないなんて可哀想ね」そんな風に私が気の毒がっていたのは月曜日、初めて足を踏み入れたエティハッド・スタジアムのスタンドで雨がパラつく中、アトレティコの前日練習を見ていた時のことでした。いやあ、今季のCLは珍しくも準々決勝1stレグでマドリッドの両雄が揃ってイギリスプレー。上手くいけば、目論見通り、5月8日の週末のリーガも合わせて、CL準決勝からマドリーダービー祭りが楽しめるかと思ったんですが、あれ?そうなると、追っかけ旅行をするチャンスがもうないってこと?

そこでまだ準々決勝ながら、アウェイ梯子観戦にトライすることにしたですが、1週間、雨が続いたマドリッドから、ようやく逃れられたはずだったのに、当たり前と言うか、着いた時から、マンチェスターは雨模様。スタジアムのすぐ側、通りの挟んだアカデミーのグラウンドで練習に励んでいたロドリなど、もうすっかりイギリスの気候に馴染んでいたようですが、スペインと違って、試合中、控え選手たちが座るスタンド最前列は雨が吹き込んでくるんですよ。コロナ最盛期の無観客試合の時など、アトレティコの選手たちもワンダメトロポリターノの密にならないよう、ベンチ裏のスタンドに配置されていたものですが、大体がして、マドリッドは雨の日が少ないですからね。

イギリスではピッチで汗をかく前から、濡れてしまう試合が多いんじゃないかと心配になったんですが、まあ、それはそれ。ちなみに記者会見では、2015-16シーズンにバイエルンを率いて、アトレティコにこのラウンドで敗退したグアルディオラ監督は古傷を持ち出されて嫌だったんでしょうかね。「今夜はきっとインスピレーションが沸いて、信じらられないような戦術を生み出すかもしれない。Mañana jugamos con 12/マナーニャ・フガモス・コン・ドセ(明日、ウチは12人でプレーするよ)」なんて、ジョークみたいことを言っていたんですが、いや、それって、先週末のブンデスリーガ、フライブルク戦でうっかり、しばらく12人でプレーしていたバイエルンのこと?

対するシメオネ監督は、折しも16強対決でもマンチェスター・ユナイテッド戦2ndレグで同じ街を訪れ、相手を撃破したのに味をしめたか、その時とまったく同じ時刻にマドリッドを出発。同じホテルに泊まり、スタジアム練習や記者会見の時間も同じ、おまけに喋る選手もマルコス・ジョレンテがリピートと徹底したsuperstioso(スペルスティシオソ/ゲン担ぎ)ぶりがアトレティコの番記者たちの間で話題になっていたんですけどね。ただ今回は、カラスコがこれで最後となる3試合目の出場停止なのに加え、ユナイテッド戦とは逆に週末のアラベス戦でのケガが治らなかったヒメネス、そしてエレーラもリハビリ中。

「シティに凄い選手が揃っていることは疑いない。Quizá tenga mejores futbolistas que nosotros/キサ・テンガ・メホーレス・フトボリスタス・ケ・ノソトロス(多分、ウチよりいい選手がいるんだろう)が、この対戦は2試合制だからね」(シメオネ監督)というコメントを聞いた時には微妙な気分になったものですが、選手たちの質に関しては、私には何とも言えませんからね。とにかく火曜午後8時(日本時間翌午前4時)からの試合では、来週の2ndレグにファンが希望を持ってワンダに駆けつけられる結果を持ち帰ってくれたらいいんですが…。

え、CLに舞い上がるのもいいけど、先週末のマドリッド勢のリーガがどうだったかも知りたいって?そうですね、土曜には久々にスタジアム観戦ができるとウキウキしながら、コリセウム・アルフォンソ・ペレスに向かった私だったんですが、マジョルカ戦の前半はどうにも取りとめない雰囲気でねえ。いえ、この2週間のparon(パロン/リーガの停止期間)中、ルイス・ガルシア監督からアギーレ監督に相手の指揮官が代わっていたのもあって、代表戦帰りの久保建英選手は先発しないかもしれないという予想は当たったんですよ。互いにしばらく白星がない者同士、なかなかゴールに近づけないまま、ラフプレーばかりが増えていく展開だったんですが、ハーフタイム前にはサンドロとルッソの諍いから、エネス・ウナル、ジョバンニまで、一遍に4人もイエローカードをもらっているんですから、まったく凄まじい。

ようやくヘタフェに先制点のチャンスが到来したのは後半18分。エリア前からウナルが蹴ったシュートがルッソの腕に当たり、ペナルティをゲットしたんですが、審判がVAR(ビデオ審判)の連絡でモニターを見に行ったのは敵のカウンターが反対サイドのゴールで不発に終わってから。うーん、やたら時間がかかったせいで気が散ったんでしょうかね。先日のW杯予選プレーオフ準決勝でも自身がペナルティを受け、PKが決まれば、トルコポルトガルに追いつくというシーンでは大先輩のユルマズがキッカーに。それが外れてしまったため、敗退に繋がったという苦い思い出を持つ当人が今度は自らPKを蹴ったところ、GKセルヒオ・リコに弾かれてしまうとは!

続けてリコはオリベイラのシュートも防いだため、ヘタフェはリードを奪うことができなかったんですが、大丈夫。37分にはビジャルがこの冬、ローマから一緒にレンタル移籍してきたマジョラルに絶妙のスルーパスを供給。元を辿れば、RMカスティージャからレアル・マドリーに昇格し、ローマからまた貸しされているマドリッド生まれのFWがシュートを決め、コリセウムのスタンドに駆けつけた親族、友人らと華々しくゴール祝いをすることができましたっけ。

その直後にはアギーレ監督も久保選手、イ・ガンインアントニオサンチェスの3人を一気に投入して、事態の打開を図ったものの、時すでに遅しです。そのまま1-0で逃げ切ったヘタフェは14位に上がり、翌日はラージョが早々にカテナとセルジ・グラルディオラのゴールで2点リードを奪いながら、後半序盤にコメサニャが立て続けにイエローカードをもらって退場。結局、ホルヘ・モリーナとルイス・ミジャに2-2の同点にされたため、13位の弟分仲間にも勝ち点差1に迫ったんですが、次節はリーガの首位を独走するレアル・マドリーの本丸、サンティアゴ・ベルナベウに乗り込まないといけませんからね。シーズン前半戦は1-0の勝利で波乱を起こしたヘタフェとはいえ、中盤の要であるアランバリが出場停止になってしまいましたし、やはり残留達成は如何にホームで確実に星を積み上げていけるかに懸かっているんじゃないでしょうか。

一方、降格圏18位にいるマジョルカは新監督効果もまだ現れず、何せ私が最後にアギーレ監督をリーガで見たのは2シーズン前、お隣さんのレガネスが最終節で善戦空しくマドリーに勝てず、2部に降格した試合でしたからね。その時には今、ヘタフェにいるオスカルもレガネスでプレーしていたんですが、もしや2部行きをご一緒したマジョルカには久保選手がいなかった?それだけでもデ・ジャブ感が半端ないんですが、彼のレンタル元であるマドリーには先日、シャフタールから18才のブラジル人右SBビニシウス・トビアスがRMカスティージャ所属として加入。ロシアウクライナ侵攻に伴うFIFAの特別処置により、その2国のクラブからの選手は2名まで、移籍期間外の登録ができるようになったせいでの入団なんですが、こうなると、元祖ビニシウスのスペイン国籍取得が近々完了しても、やはり久保選手が来季、マドリーのEU外選手枠に入るのは難しいかも。

そして一旦、自宅に戻った私は近所のバル(スペイン喫茶店兼バー)でその兄貴分とセルタの試合を見たんですが、こちらはPK祭りだったんですよ。まずは前半18分、マドリーのCK時にノリトがミリトンを倒してペナルティを献上。ベンゼマに奪われたPKゴールは、そのノリトが後半7分にガランのラストパスをゴール前から決めて、罪滅ぼしをしたことで丸く収まったはずですが、10分も経たないうち、ムリージョが交代出場したロドリゴを倒しているんですから、困ったもんじゃないですか。

え、でもベンゼマにしては珍しく、彼はこの日、2本目のPKをGKディトロに弾かれてしまったんだろうって?そうなんですが、私が次の時間帯のアトレティコvsアラベス戦でまたジョアンフェリックスに早起きゴールを決められてしまったら大変と、ワンダに向かうためにバルを出て、メトロの駅へと急いでいた24分、今度はケビン・バスケスがメンディを倒したとして、セルタが3回目のペナルティを取られたから、ビックリしたの何のって。もちろん、2度もPKを失敗するベンゼマではなく、これでマドリーは1-2と勝ち越したんですが、いやあ。

そう、後でGKクルトワも「No sé si nos merecimos ganar porque en la primera parte hice dos paradones/ノー・セ・シー・ノス・メレシモス・ガナール・ポルケ・エン・ラ・プリメーラ・パルテ・イセ・ドス・パラドネス(前半、自分は2度もスーパーセーブをしたから、ウチが勝利に値したのかはわからない)。3回の得点チャンスはPKだったし」と言っていたんですけどね。前半終了間際にはガジャルドのヘッドをクルトワが弾いた後、ゴールポストに当たって転がったボールが中に入るプレーもあったんですけどね。この時はイアゴ・アスパスがオフサイドの位置からスタートして、アラバがクリアするのを邪魔したとして、VARで得点が認められず。

逆に「Nos han pitado tres penaltis,y el tercero es de risa/ノス・アン・ピタードー・トレス・ペナルティス、イ・エル・テルセーロ・エス・デ・リサ(ウチは3回ペナルティを取られたけど、3度目のなんて、お笑いだった)」(ノリト)と、セルタからはペナルティの判定にVAR介入がなかったことを突っ込まれていましたが、要はやっぱり、代表戦週間直前のクラシコ(伝統の一戦)で0-4の大敗を喰らったのがまだ、尾を引いていたのかも。いえまあ、マドリーにはアンチェロッティ監督がコロナ陽性になっただけでなく、症状もあったため、自宅からチームを指揮。監督代理を務める息子のダビデがUEFAプロのライセンスを持っておらず、ピッチにはカンテラ(ユース組織)の責任者、ペルドモ氏が立っていたという事情もありますけどね。

おまけ間が悪いことに、火曜になってもアンチェロッティ監督はPCR検査が陰性にならず、最悪、CL準々決勝チェルシー戦1stレグの試合当日、水曜朝にスタンフォードブリッジに駆けつけることになりますが、こればっかりはねえ。それでもリーガは日曜にセビージャバルサに負け、宿命のライバルが2位に上昇したとはいえ、3位のお隣さん共々、勝ち点差は12。そうそう心配することはないんですけどね。トゥーヘル監督のチームには昨季も準決勝でCL敗退させられているだけに、たとえ相手が週末のプレミアリーグでブレントフォードに1-4の大敗。調子を崩しているとしても、そう簡単にリベンジとはいかないんじゃないでしょうか。

そして無事にキックオフ前に着いたワンダでは先週、お亡くなりになったシメオネ監督のお父さんに捧げる黙祷があった後、いえ、この日、ジョアンが先制点を挙げたのは、開始9分にレマルのゴールがオフサイドとされた後の11分だったんですけどね。ようやくケガが治り、マルコス・ジョレンテを右SBのポジションから解放してくれたベルサイコがクロスを上げ、ジョアンのヘッドが決まったんですが、もしや前日、寒波到来で降りしきる雪の中、練習を余儀なくされたアラベスの守備陣はまだ,足がかじかんだままだった?

ただその後はお約束通り、一歩引いたアトレティコにアラベスが肉弾戦を挑むようになったため、ハーフタイムまで、あちこちで人が倒れていたんですが、幸いやり返す気になったロディがエリア内でエドガルに、ベルサイコがサイドでピナに見舞ったcodazo(コダソ/肘打ち)は審判の目にもVARにも咎めらず。1-0のまま、11人のまま、ハーフタイムに入れたのは良かったかと。でもねえ、いくらその日、レバンテの勝利で最下位に落ちていたアラベスとはいえ、今季は降格圏のチームに何度も痛い目に遭ってきたアトレティコですからね。よって、後半頭から、ロディとレマルがデ・パウルとカラスコに代わった彼らが敵に押さされるがままになっているのには、私も嫌な予感がしたものでしたが…。

見事に当たりました!丁度、グリーズマンルイス・スアレスに代わった後の18分、エドガルのクロスをエスカランテがフリーでヘッド。これで同点にされてしまったんですが、「Lo mejor que nos pasó es que el gol llegara rápido para poder reaccionar/ロ・メホール・ケ・ノス・パソ・エス・ケ・エル・ゴル・ジェガラ・ラピド・パラ・ポデール・レアクシオナルリ(リアクションできるように敵のゴールが早く入ったのは、ウチにとって良かった)」(シメオネ監督)とはまさに真実。その10分後にジョレンテが下がり、クーニャが入ってFW3人体制になったのが効いたんです!

ええ、ルジューヌが負傷から復帰したばかりのブラジル人FWをエリア内で倒し、もらったPKをスアレスが決めて、再びリードしたんですが、その日のアトレティコはもう止まりません。37分には、クーニャの至近距離からのシュートはGKパチェコに弾かれたものの、ラストパスを出した後、そのまま詰めていたジョアンが蹴り込んで3点目をゲット。またしても序盤だけの男ではないことを証明してくれましたが、かてて加えて、45分にはクーニャのスルーパスをスアレスがゴール右隅に沈め、4点目を奪ってくれたとなれば、CLの大一番を前にこんなに心強いことはない(最終結果4-1)?

何せ、最近は控えに回っているとはいえ、彼は昨季のリーガ優勝の主役の1人ですからね。先日はウルグアイ代表のチリ戦でもchilena(チレナ/オーバーヘッドシュート)でゴールを挙げて、W杯出場を祝っていましたし、バルサの前はリバプールにいながら、16強対決のマンチェスター・ユナイテッド戦では出番がもらえず。それだけにこのシティ戦にでは一際、燃えているのか、前日練習ではコレア、デ・パウルと一緒にエティハッドのピッチに一番乗りしていたなんてことも。

ちなみに彼と並んで殊勲の2得点を挙げたジョアンベンフィカから来て2年半、ようやくゴールゲッターとして開花したことについて、「Nunca fue un problema físico, fue más de mentalidad y de adaptación/ヌンカ・フエ・ウン・プロブレマ・フィシコ、フエ・マス・デ・メンタリダッド・イ・デ・アダプタシオン(フィジカルのせいではなくて、むしろメンタル面と適応の問題だった)」とコメント。今はまだ10ゴールだけですが、この調子でいけば、リーガの残り8試合とCLでどこまで得点数を伸ばしてくれるのか。まずは目前に迫ったシティ戦1stレグでのお手並み拝見といきましょうか。



【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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