第94回アカデミー賞にて国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』(公開中)の凱旋記者会見が5日、日本記者クラブにて開催され、濱口竜介監督、西島秀俊、山本晃久プロデューサーが登壇した。

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作品が多くの国で受け入れられている理由について、濱口監督は「正直、分からないです」と回答しながらも、原作が村上春樹の短編であることに触れ「村上さんが長編でやっていること、つまり、“この登場人物はこれで大丈夫”と思えるまで描くことを心がけていました」と話し、再生とまではいかなくても、喪失から立ち直るところまでをしっかりと表現することを大切にしていたことを明かした。また、村上の描く世界観を具現化するのは大変だと思っていたが、「役者の皆さんが、説得力ある形で画面に表現してくれました」と改めて感謝の言葉を伝えていた。

西島の起用理由について濱口監督は「役を演じているのではなくて、存在そのものを観る人に焼きつけようとしている方」と説明。実際に一緒に仕事して、改めて感じたのは「西島さんはよく見てよく聞いている人。相手からなにかを受け取り、なにかを感じてその場に存在しています。西島さんと演技することは他の役者さんにとって支えになると思います。まさに西島自身が役柄と同じく、もう一人の演出家として映画の中に存在してくれたような印象を持っています」と絶賛していた。

受賞の瞬間の気持ちについて濱口監督は、「まさか、自分の人生にオスカーが絡んでくるとは思わなかったです」とテーブルに置かれたオスカー像をうれしそうに見つめ、話題になったスピーチについては、感謝の気持ちをすべて詰め込むことはできなかったと少し残念なトーンで振り返り「もし、次に(賞を受賞し)スピーチをする機会に恵まれたら、そのときはもっと上手に話したいと思います!」と力強く語っていた。

アカデミー授賞式よりも、いまのほうがずっと緊張しています」と心境を語った西島。「授賞式はとても華やかですが、映画作りに携わる人が集まる場所。お互いの作品や芝居を讃え合う場所ですごく居心地がよかったです」とニッコリ。西島は授賞式前日に大好きなジョン・カサヴェテス監督のお墓参りに行ったという。その時の様子をしみじみ振り返りながら、大学の卒論は“ジョン・カサヴェテス論”という、同じくカサヴェテス監督を尊敬してやまない濱口監督に視線を向け、微笑んでいた。

受賞会見で「受賞は通過点」と話したことについては「通過点であったらいいなと思っています」と語る濱口監督。これからなにをしていくかにかかっているとしながら「映画作りはよく分からないままやっていることが多いです。演出の仕方も、役者との関係の結び方など、うまくできればいいなと思いながら、次回はもっとうまくやろうと思いながら、一個一個やって行った先になにかがあるかも」という想いで映画作りをしていることも明かしていた。

また、会見では本年度のアカデミー賞で話題となったウィル・スミスの一連の言動についての質問が飛ぶ場面も。しかし、『ドライブ・マイ・カー』チームは、ちょうどトイレ休憩などで全員席を外しており、その場に居合わせていなかったという。当時の状況はニュースで知ったことも明かし、「知っている情報は日本で授賞式の様子を観ていた皆さんと同じです」とコメントしていた。会見後のフォトセッションでは、濱口監督が西島にオスカー像を持つようすすめたものの、「いやいやいや」と恐縮し、なかなか手にしようとしない西島。結局、オスカー像にそっと手を添える形で微笑む西島の姿に、会場はとても和やかな雰囲気に包まれた。

取材・文/タナカシノブ

濱口竜介監督、西島秀俊、山本晃久プロデューサーが会見!