11月21日(月)から12月18日(日)にかけて開催される「FIFA ワールドカップ カタール 2022」。「ABEMA」は先月、同大会の放映権を獲得し、全64試合を無料生中継することを発表した。「ABEMA FIFA ワールドカップ カタール 2022」の中継責任者を務める塚本泰隆氏は、放映権獲得について「タイミングが良かった」と語り、「ウマ娘」のヒットなどによる全社的な後押しもあったことを明かす。また、全試合無料生中継という決断に関しては、「日本の閉塞感を打破したい」という熱い思いがあったそうだ。

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■放映権獲得への参入は「タイミングが良かった」、『ウマ娘』ヒットなども背景に“全社的な後押し”も

――ABEMAは「FIFA ワールドカップ カタール 2022」の放映権を獲得されました。なかなか大きな判断だったと思いますが、どういった経緯で、放映権獲得に向けた参入を決めたのですか。

タイミングが良かったというのが一番大きく、ABEMAとしてチャレンジさせていただけるようになり、技術的な観点でも自信がついたということです。我々は以前、2017年に放送した「亀田興毅に勝ったら1000万円」という番組で急激な視聴増による負荷からサーバダウンを経験したのですが、そこから技術的な改善を徹底的に行い、現在は参入を決断できる環境が整っています。開局当初だったら、怖くて手も挙げられなかった状況だったと思います。金額の詳細はお伝えできないのですが、放映権を得るためにはやはり相当な金額がかかります。そこで会社経営上の、全社的な後押しもありました。

――「ウマ娘 プリティーダービー」のヒットもあり、直近の決算もかなり好調でしたよね。

そうですね。「ウマ娘」をはじめとしたゲーム事業、広告事業を中心に好調だったことが、決断できた理由として大きいのは間違いないと思います。

■全64試合、課金制ではなく無料生中継の理由「日本の閉塞感を打破したい」

――放映権獲得によって、やはりABEMAの「メディアとしてのブランド力」を上げて行く狙いもあったのでしょうか。

おっしゃる通りです。ABEMAとして日々様々なコンテンツを放送していますが、「ABEMAのことはなんとなく知ってるけど、そもそもあまり使ったことない」という方々が、まだまだ日本にはいらっしゃると思います。そんな中で、ワールドカップの放送をきっかけに、「ABEMAは他にもこんな番組もやっているんだ」と知ってもらい、他の番組も見てもらえたらうれしいです。

――果たして日本で地上波放送できるかという危機もあった中で、ABEMAは放映権を獲得しました。試合視聴を有料化すれば、かなりの売上を得られたとも思いますが、全64試合無料生中継を決めた理由、その社会的意義をどう考えるかお聞かせください。

PPV(1本の視聴ごとへの課金)がマネタイズの手段の一つにあることは、もちろん認識しておりました。しかし、一番大きな思いとしては、サイバーエージェントのパーパスにも書かれている「新しい力とインターネットで日本の閉塞感を打破する」というものです。

ちょうどワールドカップの最終予選が地上波で見られないという話題もありましたが、我々はこれを見て動いたのではなく、当初から「一人でも多くの方にワールドカップを届け、それが活力となり日本の閉塞感を打破したい」という気持ちが根底にありました。そして結果として、ABEMAというサービスを認知してくれたり、ワールドカップ以外の番組も楽しむきっかけとなるといいなと考えております。

――ワールドカップを放送するにあたり、地上波にはない、ABEMAだからこそできることはありますか。

ワールドカップに限らず、ABEMAはサービスとしてスポーツ中継との相性がよいと考えており、ABEMA独自の機能により、スポーツの様々な楽しみ方を提供できるという自負はあります。例えば、コメント機能にてリアルタイムで他の視聴者の方と盛り上がったり、マルチアングル機能で好みのアングルに切り替えながら視聴をしたり、追っかけ再生名シーンだけが切り出されたハイライト映像によって好きなタイミングで視聴ができたり、様々なデバイスで好きな場所で楽しめるなど、地上波とは、視聴体験が少し違うものになると思っています。

MLB中継は「ABEMAの数字を牽引した」大谷翔平の活躍で“過去最高”も記録

――日本時間4月8日に開幕する「メジャーリーグベースボール」(MLB)についても、昨年に引き続き完全生中継します。昨年7月からMLBの生中継がスタートしましたが、開始の経緯をお聞かせください。

MLBワールドカップと似ていて、「世の中が観たいものを、我々がメディアとしてしっかりと届けて、その視聴体験を通じてABEMAというサービスを使ってほしい」という意図からです。大谷翔平選手が二刀流MLBにて活躍し、多くの方々の関心が高まっていたので、ABEMAとしても届けさせていただきたいという思いがありました。そして昨年の7月から放送できるようになったという形です。

――メジャー中継の反響はいかがでしたか。

MLBを放送したことによる数字の反響はかなり大きく、ABEMAの数字を牽引した部分があります。昨年8月、大谷選手の活躍もあって、ABEMAとして過去最高の週間視聴者数を記録しました。

■ABEMAスポーツチャンネルは「すべてしっかり届ける」、熱狂を生んでファンを増やしていく

――スポーツ系のチャンネルは、ABEMAのドラマやバラエティと比べて、ユーザーの年齢層的も広いのでしょうか。

年齢層の幅は広いです。なかなかABEMAには馴染みがない、M3、F3の方々も「そういう番組をやってるんだ、ちょっと見に行こうかな」という動機で見ていただいており、ABEMAの中でも一番幅広い年齢層が視聴しているジャンルだと思います。たとえば「大相撲千秋楽で誰が優勝するんだろう」とか、「将棋で藤井聡太竜王が五冠をとりそうだから見てみよう」などのように、世の中の興味関心と完全に紐づいています。

――ABEMAのスポーツチャンネルとして目指してることをお聞かせください。

ABEMAでは、たとえば大相撲だと幕下から結びの一番まで放送しますし、将棋も朝から夜中の対局まで放送しています。皆さんが見たいと思うものをすべてしっかりと届けるということが、大前提としてあります。

――なるほど。

たとえまだ世の中ではそこまで熱狂が生まれている競技ではなくても、業界の方々ともしっかり連携しながら、ABEMAを通じてその競技の素晴らしさを伝えていく。そして熱狂を生みファンを増やしていくことで、業界に還元していく。我々はメディアとして、そこの部分を今後もさらに担っていきたいなと考えております。

塚本泰隆氏/ ※提供写真