「仏心(ほとけごころ)を出す」という時の「仏心」とは、仏のように慈悲深い心を意味する。日本ではそう信じられていると思う。

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 しかし、韓国では同じ「仏心」と書いて、本来の意味とは別の意味になることがある。

 仏教界の考え方を指す場合があるのだ。

 日本のように多様な宗派がある仏教界と異なり、韓国は大韓仏教「曹溪宗」が最大宗派で、その他の宗派は微々たる数に過ぎない。

 そこで、新聞やテレビなどのメディアで使われる「仏心」とは、韓国の仏教(主に曹溪宗)の意中なのである。

 そして現在、韓国の仏心は、韓国の文在寅大統領に対してお冠である。

 発端は、山登りをした大統領夫妻が映っている1枚の写真だった。

 その写真には、大統領夫妻が何かしらに腰かけており、その前で説明をしているふうの人が立っている。

 この写真のどこが問題かというと、大統領夫妻が腰かけている石台である。

 そこは法興寺跡で、彼らが座っているのは「蓮花文礎石」と呼ばれる韓国の文化財なのだ。

 この写真を見た仏教界(仏心)が文在寅大統領は仏教文化財に対する尊重や配慮がないと非難しているのである。

 仏教界の新聞である「法報新聞」は、「大雄殿(金堂)の礎石を尻に敷いた文在寅大統領夫妻・・・青瓦台大統領府)の文化遺産への認識レベルは惨憺」という見出しで記事を書いた。

大統領夫妻が蓮花文礎石に座ったことで、大統領が伝統文化をいかに軽んじているかが分かる。それが国民に与えるネガティブな影響をなぜ考えないのか」

 このように大統領夫妻の行動を批判した。また、文化財に腰かけることを許した文化財庁に対しても批判した。

 この写真が問題になると、文化財庁は「その礎石は文化財ではなく、遺物として価値があまり高くない」という弁明をした。

 しかし、その説明だけでは騒ぎは収まりそうにない。

 なぜなら、「礎石に座った」という事実だけでなく、現政権が仏教を蔑ろにしてきたという反感がそもそも韓国民の間に根付いているからだ。

 仏教界の文在寅大統領に対する反感は2017年就任直後から始まっている。

 文在寅大統領は、篤実なカトリック信者で、就任早々カトリックの神父を招いて祝福式を行った。

 さらに、歴代政権では初めて教皇庁に特使を派遣したり、自らローマ教皇庁を2度も訪問するなど、カトリックに対する配慮は格別であった。

 海外歴訪の際には必ず現地のカトリック教会のリーダーに会ったり、歴訪の最後のスケジュールとしてカトリック教会を訪れたりする様子も仏教界の人々の心を逆なでしてきた。

 特に、フランシスコ教皇に会うたびに、青瓦台で「謁見」と表現したことも問題視してきた。

 現政権の政策においても、仏心は萎えていった。そして、昨年の年末文化体育観光部(部は省に当たる)が推進した「キャロルキャンペーン」だ。

 国民のコロナブルー(新型コロナウイルス感染症による憂鬱)を慰労するために10億ウォン(約1億円)の予算で、キャロルを聞くことを勧めるキャンペーンを行った。

 これに対し、韓国の仏教界は税金をかけて、特定の宗教を支援していると中止の仮処分申請をするほどだった。

 特に、仏教界の逆鱗に触れたのは、共に民主党のチョン・チョンレ議員だ。

 寺院の文化財観覧料を「通行税」だと指摘し、仏教界を詐欺師呼ばわりしたのである。これに反発して、1月に全国の僧侶5000人が集まってデモを行った。

 仏教界だけではない。現在韓国ではこれまで押さえつけられてきた現政権への怒りが政権交代に当たって噴出しているように見える。

 これまで日本で「玉ねぎ男」とさんざん揶揄されてきたチョ・グク元法務長官(法務大臣)の娘は、ここにきて大学や大学院から相次いで入学取消し処分を受けた。

 数多くの不正入学に対する容疑をかけられても、「医師」になるべく淡々と手順を踏んでいただけに、こうした処分も文在寅政権の終焉に関係していると見られている。

 国民の怒りの矛先は文在寅大統領の妻にまで向けられている。

 彼女がこれまでどれだけ衣服や宝石で贅沢三昧な暮らしをしたのか、私利私欲のために行かなくてもいい海外歴訪をしたとか・・・これまでなら記事にはならなかったようなことが一つずつ記事になり始めている。

 こうしたことからも現政権の弱まりを感じる。

 文在寅大統領は最近、参謀会議で「ここ(青瓦台大統領府)に1日でも長くいようと思う人がいるでしょうか」と話した。

 この言葉が飛び出したのは、新大統領の就任式が開かれる5月10日の前日に青瓦台を離れるのか、または10日の午前中に青瓦台から式場に向かうのかを議論していた時の話だという。

 大統領府を出た後は、自由な暮らしをしたいと語ったそうだ。

 だが、韓国の元大統領たちは、暗殺、監獄行き、自殺などと自由な暮らしとは程遠い運命をたどった人たちが多い。

 そのため、文在寅大統領も今のところそれほど明るい未来が待っているようには見えない。

「政治的な報復はしない」と謳っていた文在寅大統領も元大統領2人を刑務所に入れたので、ある程度の覚悟はしているのかもしれない。

 それともまた次の政権でもロウソクの力を借りて政権を覆すのか、様々な憶測が韓国では飛び交っている。

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