ファイブスター投信投資顧問が設定・運用する「ベトナムロータス・ファンド(愛称:ロータス)」は、2021年の1年間のトータルリターンが79.33%と類似ファンド分類平均(国際株式・エマージング・単一国・為替ヘッジなし)を54.97%上回った。ベトナムを投資対象国とするファンドの中でトップだった他、カテゴリー32本中で第1位のリターンになった。ファンド オブ ザ イヤー2021で「国際株式(グローバル・除く日本)型」部門で最優秀ファンド賞を受賞した。ファイブスター投信投資顧問の運用部シニア・ポートフォリオ・マネジャーの元木宏氏に、同ファンドの運用とベトナム株式市場の現状についてモーニングスター代表取締役社長の朝倉智也が聞いた。

◆個人の売買比率が8割を占めるベトナム株市場

朝倉 当ファンドの2021年1年間のトータルリターンは79.33%でした。類似ファンドの中でも圧倒的に素晴らしい実績でしたが、昨年1年間の運用のポイントを教えてください。

元木 私共の社名「ファイブスター」は、評価機関に「ファイブスター」をつけていただくファンドを運用していなければ独立系のブティック運用会社は生き残れないと考えています。日本株ファンドの「MASAMITSU(まさみつ)」と、ベトナム株の「ロータス」を2本柱に運用しています。

 昨年のリターンは、ベトナム株自体が上がったことに尽きると思います。ベトナム株は去年、日本円ベースで55%の上昇でした。ベトナムは、非常に経済が好調で、企業業績が好調です。また、個人投資家がちょうど投資ができるような余裕を持ち始めているような環境にもあり、去年1年間の個人の新規の口座の開設数がベトナム史上最高でした。個人に投資ブームが起こっています。ベトナム株式市場は個人の市場シェアが8割を超え、個人が動かしているマーケットという部分があります。

朝倉 株価指数が55%上昇に対し、当ファンドは約80%上昇ですから、プラスアルファは運用力だと思います。一方、ベトナム株はちょっと値動きが大きいとリスクを気にする投資家もいらっしゃると思います。ベトナム株の今後の見通しはいかがですか?

元木 ベトナムの話の前に日本を振り返ってみますと、日本株はこのところ苦しい局面が続いている状況ですが、1970年からの20年間で日経平均株価が20倍になっています。その時に日本円は、360円からスタートして、2.5倍に値上がりしました。海外から日本株に投資をした投資家にとっては、株価が20倍、通貨が2.5倍ですから、50倍の価値の増加を得られたことになります。

 日本の1人当たりのGDPは、1970年の時に約2000ドルでしたが、20年ちょっとで20倍を超えました。経済規模が20倍になったので株価が20倍になったと言ってもおかしくないと思います。1945年に終戦を迎え、25年経った1970年あたりから日本の高度経済成長が始まりました。

 これをベトナムに当てはめてみますと、ベトナムは非常に苛烈な歴史でした。フランス植民地にし、ベトナム戦争1965年から10年間続き、さらに、中国との戦争を経験し、国際社会に復帰したのは1995年でした。この年にアメリカと国交を回復し、そして、ASEANに加盟します。ちょうど日本の1945年のような年が1995年とすると、この差が50年間ありますので、日本を50年遅れて追いかけているような国と思っていただいたらいいと思います。

 日本の1970年代が、ベトナム2020年代に相当すると考えています。日本で1970年から20年間で株価が20倍になったような変化がベトナムでも起こる可能性があると期待しています。

 その経済成長を続けるだろうと思える要素も揃っています。まず、日本と同じように1億人の人口がいますから労働力が豊富で、彼らの大半はまだ農村にいます。賃金は今、中国の3分の1位です。

 2番目として、政治が非常に安定し、社会が安定しています。独裁国家ですが、集団指導体制を敷いていますので、上手に国を運営しています。それから、国家戦略としてベトナムを世界の生産基地にしようという明確な目標があります。そのために、アメリカが抜けたTPPイレブン(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)、中国とか韓国が入るといわれているRCEP東アジア地域包括的経済連携)、ヨーロッパとの貿易協定のEVFTA(EUベトナム自由貿易協定)などに加盟しています。ベトナムに生産基地を置くと非常に有利な貿易が展開できます。

 それに加えて、アメリカとの関係が非常に良好でした。これも経済成長に必要な条件の一つになると思います。

 また、ベトナム株の値動きが激しいという印象があるということですが、月間リターンの標準偏差を年率換算するとベトナムは約20%です。日本株やアメリカ株が16~17%ですから、それほど大きくは違わないのですが、値動きがやや大きいという点はやはりご注意いただく必要があると思います。

 それを上回って魅力のある点は、ベトナム株の値動きが先進国の株価と相関係数が相当に低く、違う方向に動くことです。ポートフォリオ理論に則ると、異なる値動きをするベトナム株を加えると、ポートフォリオ全体のリスクが下がって、期待リターンが上がるというようなポートフォリオ効果も期待できます。ベトナム株に投資することは、ポートフォリオとしても面白いのではないかと思います。

◆長期分散投資にベトナム株を加える大きな意義

朝倉 ファンドの分析では、リターンをリスクで割った「シャープレシオ」を使って評価しますが、この「ベトナムロータス・ファンド」は1年間でシャープレシオが、22年1月末で3.58と非常に高い値になっています。つまり、リスクを抑えたリターンをキチンと上げていると言えると思います。

 ベトナム株式市場の指数「ベトナムVN」指数は、構成銘柄が404銘柄ですが、御社のマザーファンドの組み入れ銘柄数が2021年12月末時点で61銘柄です。かなり厳選して投資をされていますが、銘柄選定のポイントを教えてください。

元木 現地の有力な証券会社の情報を活用しています。また、日系の証券会社もベトナムに進出し、かなりの数の非常に優秀なアナリストの方々がいらして、その方々とも連携をして彼らが発掘してくる銘柄なども参考にポートフォリオを組んでいます。私自身も頻繁にベトナムに行って現地調査をしましたが、この2年間はコロナ禍で難しくなり、現地の証券会社にお世話になりました。

 それから、ベトナムは成長要素が多いので、ベトナム株投資は成長株投資だろうと思います。私自身がアライアンス・キャピタルというアメリカの運用会社で、成長株投資のノウハウを叩きこまれましたので、その考え方がうまくマッチしたと思います。

朝倉 元木さんは、ファンドマネージャーの経歴で言うと、アナリスト時代を含めて25年を超える経験があり、本当のプロフェッショナルということですね。また、当ファンドは、蓮の花のイメージを打ち出していますが、投資家の皆様にとっては、どのような使い方をすれば良いとお考えですか?

元木 「ロータス」というのは蓮の花を意味していまして、実はベトナムの国の花が蓮の花でもあり、「ロータス」という名前をつけました。日本は桜が国の花ですがベトナムは蓮の花です。要は仏教国であるということですね。そういう意味では、我々日本人にとっても馴染みやすい国だろうと思います。また、仏教が国の宗教ということは、比較的穏やかな国民性ということも言えると思います。

朝倉 最後に投資家の皆様にメッセージをお願いします。

元木 ロータスファンドを運用していてつくづく感じるのは、株式相場は、ある意味で「魔物」だということです。一本調子で上がっていくことは絶対になく、今後も山あり谷ありだと思います。

 ただ投資するにあたっては、経済成長が株式の上昇を支えます。「魔物」ではあるものの、経済成長がはっきり期待できる国に投資するというのは、理に適った投資だと思います。例えば、野球で言えば、すごい追い風が吹いているときには、打った時にはセンターフライだと思った打球がバックスクリーン直撃のホームランになるようなことがあると思います。そんなイメージがベトナム株投資にはあると思います。

 投資の基本は、長期投資、それから、分散投資です。株式投資の分散は、大きく言えば先進国新興国という分け方になると思うのですが、新興国の中には中国、台湾、ブラジルといったいろんな国が入っています。ぜひこの機会にベトナムというのを一つのアセットクラスとして考えていただいて、ベトナムをポートフォリオの中に加えていただくことをご検討いただけたらと思います。その際にぜひ、私どもの運用する「ベトナムロータス・ファンド」を検討に加えていただければと幸いです。

朝倉 「ロータス」は、昨年1年間のパフォーマンスが素晴らしかったのですが、2017年1月の設定以来5年間でも素晴らしいパフォーマンスを上げているファンドです。今後も投資家の皆さんの期待に応えるよう頑張っていただきたいと思います。(グラフは、「ベトナムロータス・ファンド」の設定来のパフォーマンス推移)(情報提供:モーニングスター社)

日本の1970年代に相当する高度成長期を迎えたベトナム経済、「ロータス」の運用にみるベトナム株の魅力