ペパーミントキャンディー』(99)や『シルミド』(03)のソル・ギョング、昨年一大ブームを巻き起こした「イカゲーム」で世界的スターとなったパク・ヘスが共演するNetflix映画『夜叉 -容赦なき工作戦-』(全世界配信中)で、アジア最強のスパイ、オザワ役に抜擢された俳優の池内博之。役者デビューから25年以上が経ち、いまやアジア圏を中心に海外にも活躍の場を広げている池内だが、「知らない世界に飛び込むことは、まったく怖くない。むしろ好きです」と持ち前の好奇心が一番の原動力となっている様子。『夜叉 -容赦なき工作戦-』の現場で体感した、勢い衰えぬ韓国映画界の熱気や、転機となった『イップ・マン 序章』(08)でアクション監督を手掛けたサモ・ハン・キンポーからの忘れられない言葉。さらには今後の展望も明かしてくれた。

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■「これは間違いなくすごい作品になるだろうと思いました」

本作の舞台は、諜報活動が盛んなことで知られる中国の瀋陽。韓国国家情報院の海外スパイ集団“ブラックチーム”のリーダーで、“夜叉”と呼ばれる無情な男(ソル・ギョング)と、特別監察の任務を負ってその地を訪れる検察官のハン・ジフン(パク・ヘス)が出会い、近隣諸国のスパイも絡んだ危険な極秘工作に挑むスパイアクションだ。『監獄の首領』(17)のナ・ヒョン監督がメガホンをとった。

今回、2度目の韓国作品への参加となった池内。オファーが舞い込んだ際には「ナ・ヒョン監督の『監獄の首領』も観ていましたし、ナ・ヒョン監督がオリジナルでスパイ映画を撮るなんて、おもしろい作品になるだろうなと思いました」と心が躍ったそうで、「すでにソル・ギョングさん、パク・ヘスさんが出演することも決まっていたので、これは間違いなくすごい作品になるだろうと。アジア全土をめぐるスパイものという点も、とても新鮮に感じました」と前のめりで参加した。

池内が演じたのは、表の顔は日本の公安調査庁のロビイスト、裏の顔は冷酷でアジア最強のスパイであるオザワ役。ビシッとスーツを着こなすスマートさと、冷静で底知れぬ恐ろしさをたたえたオザワを、ミステリアスな魅力たっぷりに演じきった。

池内は「スパイという設定も特殊ですし、オザワは僕とは真逆の世界に生きているような人間です。やっぱり、こういった人を演じるのはおもしろいですよね」と微笑み、「アクションのために、キックボクシングをやったりして準備していました。僕はもともと体が硬いほうですし(苦笑)、体型も崩したくないので、体は日ごろから積極的に動かすようにしています」と準備万端に臨んだという。「ナ・ヒョン監督からは、『落ち着いたジェントルマンであり、何事にも動じない男を演じてほしい』ということを求められましたので、無駄な動きを削ぐように意識しました」と役作りについて語る。

■「現場では、みんなが世界を意識しながら高みを目指していました」

本作で池内は、実力派俳優のソル・ギョング、「イカゲーム」のパク・ヘスと、激しい火花を散らす役どころで共演がかなった。

ソル・ギョングもパク・ヘスも劇中で日本語を話すシーンがあることから、「撮影以外の時間には『日本語のセリフはこれで大丈夫?』と聞いてきてくれたり、2人と相談し合ったりもしましたね」といい関係を築いたそうで、「パク・ヘスさんは、子どものころに僕の昔の作品を観てくれていたみたいで、僕のことを『ヒョン!(韓国語お兄さんの意味)』と呼んでくれたりして。一緒に飲みに行く時間も持つことができて、すごくうれしかったですね」とにっこり。

さらに「以前、ソル・ギョングさんの『殺人者の記憶法』を観て『すごい芝居をする人だな』と思っていたんです。共演がかなって光栄です」とギョングとの共演を喜び、「普段のソル・ギョングさんはとても寡黙な方で、じっと静かにしているんです。本番になると集中力がすさまじい。“夜叉”とオザワはライバルとして対峙する関係性でもありますので、僕もギョングさんの貫禄に負けないような芝居をしたいなと思っていました。ギョングさんもヘスさんもスタッフの方への気配りや、自分の役に対する考え方もすばらしい。いろいろな現場に行っても、本当にすばらしい俳優さんがたくさんいて、その都度刺激を受けています」と充実感をみなぎらせる。

クライマックスには、夜叉とオザワとの緊迫感あふれるバトルシーンもある。池内は「クライマックスのシーンは本当に大変でしたね。僕の横でもボンボン火柱が上がって、あちこちでドーン!と爆発が起きたりしていて。現場自体、ものすごい迫力でした。贅沢な現場だなと思いましたね」と壮絶なアクションを振り返り、「戦いも、リアルに見せるのが僕ら俳優の仕事。もちろん攻撃が当たれば痛いし、少し間違えば怪我につながってしまいます。チームへの信頼感がないとできない。緊張感と熱気のある現場だったなと思います」とチームにも感謝しきりだ。

韓国映画界、ドラマ界からはパワフルな作品が続々と登場し、世界的にも注目を集めている。韓国映画の現場に参加したことで、そのパワーの秘密を感じたことはあるだろうか?池内は「現場のスタッフがとても若い。アグレッシブに、若い方々が働いていますね」と印象を吐露。「みんなが世界を意識しながら、もっとよくしよう、越えていこうと高みを目指しています。ナ・ヒョン監督もその場ですぐに編集して、仮の音を乗せて映像を確認したりして。『いまのオザワの気持ちはこう流れているんだ』と整理しながら演出してくれました」とスピード感若い力にあふれた現場の様子を語っていた。

■「ものづくりにかける想いは、世界中どこに行っても変わらない」

1996年にドラマ「東京23区の女」で俳優デビューした池内。1998年放送のドラマ「GTO」のクールな村井役で人気を博した彼だが、近年はドニー・イェン主演映画『イップ・マン 序章』を皮切りに、ジャッキー・チェン主演映画『レイルロード・タイガー』(16)、ジョン・ウー監督がメガホンを取った『マンハント』(17)など、海外作品にも精力的に出演している。

海外進出作となった『イップ・マン 序章』に出演するまでにも「海外作品に興味はあった」そうで、「オーディションもいろいろと受けていました。そんななか『イップ・マン 序章』はオーディションではなく、お声がけをいただけた作品なんです」とのこと。

言葉や価値観の壁を越えて、海外へと飛びだすことに不安はなかったかと聞いてみると、池内は「まったくなかったですね」と即答する。「怖さは一切ありませんし、むしろ好きですね。チャレンジしたいという気持ちが強いです。僕はもともと旅が好きで、東京に出てきてからは一人旅で海外に行くこともあって。そういう時も航空券だけを買って、あとはホテルも現地で決めるんです。ツアー旅行が苦手なんですね。人と知り合って、そこから情報をもらって旅を進めていくというスタイルです。現地の生活に潜り込んで、いろいろなものが見たい。好奇心が旺盛なタイプかもしれないですね」と人や新しい出会いが大好きだという。

海外の現場を経験することで、「海外でも日本でも、どの組も作品に愛情を注いでいるということは一緒。ものづくりにかける想いは、世界中どこに行っても変わらないなと思います。国を越えてみんなで同じ方向を向いている瞬間は、とてもいいなと思います」としみじみ。そんななかで、池内が忘れられない出来事としてあげるのが、『イップ・マン 序章』のアクション監督、サモ・ハン・キンポーとの出会いだ。

武術の達人として知られるイップ・マン(ドニー・イェン)の生涯を描いた同作で、池内はイップ・マンと死闘を繰り広げる三浦将軍役を演じていた。「『アクションは基本的にはスタントを使わずにやってほしい』と言われて、ほぼすべてのアクションを自らやっています。あれだけの大掛かりなアクションは初めてでしたし、どんどん追い込まれていってしまって。『日本に帰りたいな…』と思うくらい大変でした(苦笑)。でも撮影が終わった時には、アクションの指導をしてくださったサモ・ハン・キンポーさんが『これを乗り越えられたんだから、もうなんでもイケるよ』と言ってくれて。『たしかにそうだな。この経験があれば、きっとこの先も乗り越えていける』と思わせてくれました」と貴重な経験をかみ締めつつ、「とはいえ、次の作品に入ればまたさらにすごい壁が出てきたりして…。果てしないんですよ!」とこぼしながらも楽しそう。

どのようなキャラクターでも全力でその役柄を生きることがモットーの池内だが、「海外の作品では、特殊な役を演じることが多くて。いつか、日常を生きる“普通の人”も演じてみたいですね」との告白も。現在、45歳となった池内博之。これからがますます楽しみになるような、ステキな笑顔だった。

取材・文/成田おり枝

池内博之「日常を生きる“普通の人”も演じてみたい」との告白も!/撮影/興梠真穂