フンは大金持ちの御曹司として生まれ、豪邸に住み、なんでも自由にしてきた。仕事は絶好調。妻のヘラは若く美しく、一人娘のナミも素直でかわいい。老メイドのビョンシクは、いつも険しい顔をした愛想ナシだが、仕事は完璧にこなしてくれるので不満はない。これ以上ない幸せにつつまれた日々。
そんななか、妻が双子を妊娠した。ビョンシクだけでは家事の手が足りなくなるので、もうひとり、新しいメイドを雇い入れることにした。それが主人公のウニ(チョン・ドヨン)だ。

仕事が出来るうえに、溌剌とした美貌の持ち主であるウニは、奥様が使ったあとの風呂場を甲斐甲斐しく掃除する。なぜかミニスカメイド服前屈みになりながらバスタブを洗うウニ。生足に水しぶきが光る。そんな様子をドアの隙間からじろーりと見ているご主人様のフン……。

「美人のメイド」。この、たった6文字だけでエロいシチュエーションがいくらでも想像できる通り、映画はこのあと見事に観客のご期待に応える展開になっていく。けれど、そうだからといって素直に鼻の下を伸ばしていると、とんでもない思いをすることになる。だってこれ、エロゲーじゃなくてサスペンス映画だから!

思えば、映画が始まってすぐのシーン。
邸宅へメイドとして働きにいく前の、主人公ウニの生活環境を見せていたときから、この映画には死の匂いが充満していた。どこかの街の盛り場を凝ったカメラワークで見せているだけなのに、その時点ですでに“人が死にそう”な予感に満ち満ちている。

案の定、ビルの上に立ったひとりの少女が、そのままどすんと飛び降り自殺をする。遺体はおろか、血糊さえも映さないし、観客はこれが映画だということもわかっているのに、現実の事故現場に遭遇したときのような、「うわぁ、見ちゃったよ……」って気持ちを抱かされる。このイヤ~な感じが、これ以後もずーっとまとわりついてくるのだ。

ここ数年の韓国産ホラー/サスペンス作品のレベルは非常に高い。思いつくままに揚げてみても、「オールド・ボーイ」、「息もできない」、「チェイサー」、「母なる照明」、「黒く濁る村」、「悪魔を見た」などなど傑作揃い。ただ、どの作品も暴力描写が過剰で、バイオレンスに耐性のないわたしなんかは、見ていて辛くなることが多いのも事実だ。
「ハウスメイド」も、見る前はそうした系列にある作品なのかと思っていたが、実際に見てみると暴力描写は控え目ながら、その一方で、格調の高い演出が全編に行き渡った、すごく繊細な映画だということがわかる。

本作の元になったのは、故キム・ギヨン監督1960年の傑作「下女」だ。オリジナルからは主人公の性格設定などが変更されているが、だからこそ、後半の展開の衝撃は大きい。オリジナルのタイトルも、リメイクされた本作のタイトルも、階級的な意味合いを含んだ職業名であることに注目して欲しい。
これ以上はなんにも言えないから、あとは見てみて。
(とみさわ昭仁)

「ハウスメイド」(2010年/韓国/ギャガ)監督は鬼才だらけの韓国映画界のなかでもとくに注目のイム・サンス。2011年8月27日よりTOHOシネマズ・シャンテ、新宿ミラノほか全国にて順次公開。 http://housemaid.gaga.ne.jp/