開業まで半年をきった西九州新幹線JR九州は開業効果を永続させるため、沿線関係者とともに魅力ある街づくりに努めます(写真:鉄道チャンネル編集部)

2022年度がスタートして、まもなく1カ月。一進一退を繰り返すコロナは今後、第7波がやってくるとの見方もあり、感染拡大防止に手は抜けないところ。一方で、社会は少しずつ元の状態を取り戻しています。コロナで打撃を受けた鉄道業界は復活への動きを加速させ、利用促進キャンペーンのニュースが相次いで発信されるようになりました。

テレワーク、テレビ会議、リモート授業――移動を制約するニューノーマル(新しい常態)社会は、鉄道にとって一見マイナスに思えますが、それでも各社は駅にコワーキングスペースを開設するなど、ビジネスモデルの変革に努めます。ここでは全国ベースのメディアに載りにくい、JR北海道JR四国JR九州JR貨物のJRグループ4社の事業計画などから、鉄道ファンの皆さまに関心を持っていただけそうな話題をピックアップ。今後を展望してみます。

新しい経営トップ・古宮新社長が就任(JR九州)

JR九州の古宮洋二新社長。社内には、「明るくがんばろう。鉄道の未来をみんなでつくろう」とメッセージを送りました(写真:JR九州

新しいトップのもとで2022年を始動させたのがJR九州です。JR九州は2022年4月1日、2014年6月から8年間にわたって会社をかじ取りしてきた青柳俊彦社長が代表取締役会長になり、新しい代表取締役社長に古宮洋二取締役・専務執行役員が就任しました。

古宮社長は、1985年に国鉄入社。JR九州では運輸部長、営業部長、鉄道事業本部長などを歴任し、クルーズトレイン本部長として人気D&S(デザイン&ストーリー)列車の〝生みの親〟も務めてきました。

新社長自らが新しい観光列車をアピール

ふたつ星4047」デザインイメージ(画像:JR九州

JR九州は2022年4月6日、西九州エリアに投入する新しいD&S列車「ふたつ星4047(よんまるよんなな)」の改造キックオフセレモニーを北九州市の小倉総合車両センターで開催しました。その際も、古宮社長が自ら新しい観光列車をお披露目したそうです。

古宮社長に託されるのは、当然ながらコロナ禍からの会社の立て直し。就任会見では、「会社の陣頭指揮を執り、全社員一丸となって苦境を脱出し、新生・JR九州として成長できるよう力を尽くしたい」(発言はいずれも大意)と抱負を述べました。

JR九州九州最大の話題といえば、2022年9月23日に開業する西九州新幹線。「約半年間のスケジュールを着実にこなしながら、新幹線の開業効果を沿線から西九州エリア、そして九州全体に広げたい」と決意を表明しました。

西九州新幹線開業にあわせて「佐賀・長崎DC」

JR九州ターミナル駅周辺や沿線まちづくりイメージ。代表企業を務める福岡市郊外の複合体験型アウトドア事業のように、JR九州は地域のリーダーとしての役目を期待されます(資料:「JR九州グループ中期経営計画2022―2024」)

古宮社長のもとで新たに船出した、JR九州の針路をあらわすのが、2022年度からむこう3年間の「JR九州グループ中期経営計画2022-2024」です。重点戦略は、「豊かなまちづくりモデルの創造」、「新たな貢献領域での事業展開」の2つ。

JRグループ旅客6社と地元は、西九州新幹線開業にあわせて2022年10~12月、全国規模の観光キャンペーン「佐賀・長崎デスティネーションキャンペーン(佐賀・長崎DC)」を展開します。詳細はこれからですが、DCでは魅力的な列車も運転されるはず。鉄道ファンは今から楽しみに待ちましょう。

ニューノーマル時代に対応する「ニュー・レールライフ」(JR北海道)

JR北海道が増備するH100形「DECMO」(デクモ)。JR東日本GV-E400系をベースに、酷寒地仕様・両運転台化した電気式気動車です(写真:もりみと / PIXTA)

北海道外では経営難にばかり話題が集まりがちなJRですが、2031年度を目標年に経営自立に向けた自己改革に取り組みます。JR北海道の経営方針は、2019年4月に発表した「JR北海道グループ長期経営ビジョン・未来2031」。長期経営ビジョンの実行策として毎年度、単年度の事業計画を策定・公表します。

令和4年度事業計画」で打ち出したのは、鉄道事業分野でのコロナ禍からの回復。ウィズコロナのニューノーマル時代への対応策を「New Raillife(ニュー・レールライフ)」と命名、コロナのような外的要因に見舞われても事業を維持できる「事業ポートフォリオの変革」を進めます。

経済用語のポートフォリオ変革は、「事業構造の変革」の意味合い。ホテル事業や不動産事業、小売業といった関連事業に鉄道と同じく力を入れ、相乗効果を生み出すニュアンスです。

鉄道で取り組むのは、自然災害への対応。大雪で列車がマヒした今冬の雪害を教訓に、早めの運転規制や計画運休の実施、除雪体制強化、利用客への情報提供などを総合的に検討します。事業計画には、「災害級の事態が発生した場合の地域連携」も盛りこみました。地域の力も借りながら、鉄道への信頼を高めるねらいです。

鉄道の業務革新では、室蘭・苫小牧地区に、2022年度末までに2両編成のワンマン運転に対応する、新型電車14両の導入を計画します。車両関係の投資額は約80億円で、ワンマン電車のほか電気式気動車H100形、261系特急気動車を新製します。

瀬戸内国際芸術祭など大型イベントと連携(JR四国)

JR四国が構想する鉄道業務刷新のイメージ。自社、利用客の双方にメリットがあるチケットレス化・キャッシュレス化に取り組みつつ、線路と道路の双方を走れる軌陸型架線検測装置などで施設保守業務を効率化します(資料:「JR四国グループ事業計画2022 Good Challenge」)

JR四国も、最終のゴールはJR北海道と同じ2031年度の経営自立。〝Good Challenge(グッド・チャレンジ)〟の愛称名を付けた「JR四国グループ事業計画2022」は、はじめてJR四国本体とグループ企業をあわせたグループ経営計画としました。

鉄道事業の重点事項は、「収益のリカバリー(回復)」で、チケットレス、キャッシュレスといった新チケットシステムを採用。地域イベントの「瀬戸内国際芸術祭」(2022年4月14日11月6日を3期間にわけ、香川県直島などで開催中)といった大型イベントとの連携や、新たな収益源の確保で、コロナ禍以前の収益水準への回復を目指します。

地元四国の方にとって気になるのは、運賃改定への言及かも。JR四国の西牧世博社長は2020年8月の会見で運賃改定の可能性に言及していますが、グループ事業計画2022には「運賃改定の検討を深度化」のワンフレーズが見つかりました。

山陽線主要貨物駅の災害対応力強化(JR貨物)

JR貨物が事業計画で打ち出した省エネを推進する設備投資=イメージ=(資料:「JR貨物2022年度事業計画」)

JR貨物の「2022年度事業計画」では、安全の確立を大前提に、脱炭素化、災害時などにも必要な輸送力を確保する事業の強じん化、鉄道コンテナ駅前後のアクセス部分を含む輸送シームレス化などに取り組み、「鉄道を基軸とした総合物流企業グループ」への飛躍をめざします。

貨物鉄道輸送では、特定荷主の貨物を積載した、貸切列車で拠点間を直結する、いわゆるブロックトレインの推進。事業強じん化では山陽線主要貨物駅の災害対応力を強化するほか、日本海縦貫線のう回運転に備えてEH500電気機関車18両の改造工事完了などを予定します。

車両関係では、EF210形300番代電気機関車10両、DD200ディーゼル機関車6両、DB500形入れ換え用機関車3両などを新製します。

記事:上里夏生