前回稿(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69847)で詳述したように、ロシア軍の「攻撃」や「防御」には、ほとんど「ドローン」という言葉は出てきません。

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 1980年代、ソ連末期から国家体制のリセットプーチンが権力を掌握する2000年頃までロシアは経済の混迷を極め、とてもではないが新型兵器開発の余裕はなかった。

 プーチン大統領を射止める2000年選挙ではチェチェン攻撃が劇場型戦争のごとく人気取りに利用されました。

 圧倒的多数の支持で当選するさまは1933年ドイツアドルフ・ヒトラーの権力奪取を彷彿させるものがあります。

チェチェン侵攻」は250%純然たる「旧ソ連型」の軍事制圧で、カディロフ傀儡政権の特殊部隊も極めてソ連的な残忍さ、とりわけ「弱い者いじめ」の民間人圧殺で知られます。

 やはり旧ソ連型の武装集団として知られるロシアの「民間軍事会社ワグナー・グループに至っては、ここに詳述するのも憚られる「首狩り」や「遺体への放尿」など、悪逆非道が動画でも流出。

 実はこうした蛮行は湾岸戦争などで米軍もしでかしており、戦争という異常状態は人を野獣に変えてしまう。それ自体を全否定するのが人間性の第一歩です。

 ちなみにこのロシアワグナー」グループ、社名の由来はアドルフ・ヒトラーが愛したドイツの作曲家リヒャルト・ヴァーグナー(私にとってもバイロイト祝祭劇場とのライフワークで深い縁のある人ですが)から取られたものだそうです。

 プーチンを筆頭に旧ソ連の暴力は徹頭徹尾、ナチスドイツを手本にしたがる。スターリングラードの強敵ナチス。いかにも強そうで、好きなのでしょう。

 そんな具合で露軍は原則「旧ソ連型」。特徴を端的に言えば「重厚長大」「力任せ」「マッチョ志向」といったところでしょうか。

 ところが巨大戦艦モスクワ」はその正反対、ラジコンのように小さく軽やかなトルコ製ドローンに翻弄され、自爆沈没してしまいました

 では「古い暴力」に固執するロシアには「ドローン」は全く存在しないのか。いや、ロシアにも実は「ドローン」的な軍事技術が少しだけ存在します。

オルラン10(Orlan 10)」は、ロシア軍の表現を借りるなら「無人偵察機」。

 つまり攻撃機能を持たず、もっぱら戦場や敵陣を「偵察」に特化した飛行兵器ですが、実はこれ、ほとんど日本製品の流用で成立している情けなさ、というのが今回のお話です。

激安のロシア製「覗き見」ドローン

 このオルラン10、いきなりお値段の話で恐縮ですが、1機8万7000~12万ドル、昨今の円ドルレート(1ドル128円)で計算すれば1110万~1536万円程度。

 庶民がちょっと、という価格ではありませんが、一般の日本人でもお金をためれば買える可能性のある値段に見えます。実際買っても、何に使うかの問題は別ですが・・・。

 これに対し米国の攻撃用ドローン「MQ-9(リーバー)」は1機1700万ドル、主力の「MQ-1(プレデター)」はもう少し安価で450万ドル。

 各々日本円にして21億円、5億7600万円。

 庶民が一生掛かっても購入できるような値段ではありません。仮に購入できても、即座に逮捕されそうですが。

 なぜ「ロシアのドローン」はこんなに安いのか?

 理由は「何もしないから」。ただ飛んでるだけ、「オバケのQ太郎」みたいなもので、正確には「覗き見担当」攻撃機能皆無の「偵察機」だからにほかなりません。

 これに対して米軍のドローンは大変に高価です。そしてその理由は「人間に代わって攻撃できる」機能を具備させているから。

 もっと言えば「軍人を戦地に送らず、白兵戦を卒業する」ため、米国は攻撃用ドローン開発に予算と技術を投入しています。軍側にそういうニーズがあったのです。

 背景の一端は、古くは第1次世界大戦ベトナム戦争、21世紀に入ってからでは「第2次湾岸戦争」と呼ばれた中東での戦闘で、帰還兵が背負い込んできた「PTSD」「廃人化」などにあります。

 詳述すると紙幅を取りますので、これについては機会を改めます。

 要は、米国のドローンは生身の兵士が白兵戦を経験せずに済むよう、人間の代わりに攻撃を「代行」してくれる、超精密兵器として開発されている。

 バラク・オバマ民主党政権期、第2次AIブームに沸き立つ米国で5億とか20億といった値段になったのは、兵隊の命(死後の家族年金、恩給なども含め)や乱射事件などのリスクから考えても、収支が十分ペイする単価設定で商品化されたわけです。

 ところが実戦配備してみると、絶対安全な基地で遠隔操縦しながら、ジョイスティックで敵を爆殺、飛び散る人体などを目視してしまい、定時になると退勤、普通の生活というギャップから、重度の精神障害を病む「バーチャル・パイロット」が続出。

 そこで「その瞬間」を見ずに済む「自爆型ドローン爆弾」への「人道的軍事イノベーション」が進む・・・といった悪循環が進み、7年来、とりわけ欧州で「自動運転・AI倫理」の主要論点の一つですので、追ってご紹介できればと思います。

 このように米軍事情とロシアの「無人偵察機」開発は、動機が全く異なっていたのでした。

「当てずっぽう」のバズレ確認担当

 ロシアでの「無人偵察機」開発の動機は、米国とはおよそ異なっていた。

「着弾位置の確認」。どういうことでしょうか?

 ミサイルのような誘導のない「砲弾」は、一度打ったはいいけれど、当たるか外れるかは時の運という、本質的に「風まかせ」「運まかせ」の側面がある兵器です。

 仮に絨毯爆撃的にエリアに投下すれば「確率的」に被害を出せる。「空爆」という攻撃の動機です。

 しかし大砲は元来地上設置で開発され「砲兵」は長らく「着弾位置」の確認が重要な任務でした。

 19世紀のクリミア戦争から100年前の「日露戦争」、さらには独ソ戦時代も含め、前世紀までの「砲弾」は基本「打ったら打ったなり」。

 風まかせで試しをぶっ放した後、その「着弾位置」を確認、本隊に連絡して射出角度などを修正して打ち直すという、原始的な戦争を続けていたわけです。旧日本軍もソ連軍も。

 ここで「着弾位置確認」は大変重要かつ危険な任務ですが、着弾つまり狙う場所は敵地なわけです。

 単身飛行機で乗り込んで偵察するとしたら、当然地対空砲で狙われますから、まさに決死です。

 このリスクを低め「ラジコン飛行機」に代替させようというのが、ロシア側の「無人偵察機」開発の一大動機でした。

 つまり旧式「無誘導砲弾の軌道修正」という、極めてアナログなミッションからソ連~ロシアは「無人偵察機」を検討し始めた。

 2015年以降は北方領土にも配備されているという「無人偵察機」オルラン10(http://www.clearing.mod.go.jp/hakusho_data/2021/html/n120504000.html)は2010年に完成・配備、2014年のドンバス戦争で用いられました。

 つまりロシア軍の攻撃は2010年代に至っても旧ソ連の「当たるも八卦、当たらぬも八卦」式。

 現在のウクライナ戦争も狙いの杜撰なアナログ兵器でハルキウやマリウポリの一般市民を砲撃、殺害している。

 この「着弾確認機」オルラン10、時速は150キロ、飛行高度は5000メートルまで可能で航続距離も130~150キロ程度。

 なかなか高精度なオルラン10と見えますが、実のところエンジンは「日本製」なのです。

 それも模型飛行機、ラジコンのモデル用、日本でエンターテインメント用に開発されたエンジンにロシア「軍」が頼っている事実が、既に国内でも報道(https://www.dailyshincho.jp/article/2022/04190601/?all=1)され始めています。

 ロシア唯一の「ドローン」が頼みにする、この「日本製エンジン」を作っているのは、東京都内と江戸川を挟んで対岸の千葉県市川市にある株式会社斎藤製作所(https://www.saito-mfg.com/)。

 トップシェアを誇り、世界に冠たる「SAITOの4サイクル模型飛行機エンジン」です。

モデラーの魂を震わすSAITOエンジン

 斎藤製作所のホームページによると、戦時中「中島飛行機」でエンジン製作に携わっていた初代社長が1949年に創業。

 1973年以降、模型飛行機用のスチームエンジン開発に着手、79年世界初の単気筒4サイクルエンジン「FA30」開発に成功!

 これが世界でヒットした。「心地よい4サイクルならではの排気音」SAITOサウンドと「求めやすい価格」で米国のディストリビューターから全世界に広がります。

 同社ホームページによれば資本金300万円、総従業員24人の「世界に冠たる技術企業」。実にカッコイイですね。斎藤製作所のような存在は、まさに日本の誇りです。

 その「求めやすい価格」を同社ホームページ(https://www.saito-mfg.com/productstop/products-4st/)から確認してみると・・・。

 デザイン性にも優れた5気筒のラジアルエンジンは新品で26万5000円。

 大半のラインナップは10万円台、単気筒の一番小さな「FA-40a」 は、何と税込み3万4870円。全世界の模型飛行機ファンの財布に優しく、技術の力と薄利多売で世界市場を制する、日本の誇るべき「斎藤製作所」の価格設定です。

 しかし、これはまた慢性金欠にあえぐ「ロシア軍」の財布にも優しかった。

 斎藤製作所は2006年、模型飛行機界では絶無であった「ガソリン」を燃料とする4ストローク・エンジンの開発に成功していました(先ほどのラインナップはその価格です)。

 そしてこれに目を付けたのが、予算もなければ技術力もない、旧ソ連末期から壊滅状態にあった「ロシア無人偵察機」オルラン10の開発チームだった。

カメラはキャノンの一眼レフ

 オルラン10は2010年から配備されたとのことで、2006年にSAITOのガソリンエンジンが発表されると、それをしっかりFBSスパイがチェック・・・したのだとしたら、かなり情けない諜報部員です。

 何にせよオルラン10はエンジンは日本製、多くのパーツは米国製(https://informnapalm.org/en/russian-drone-orlan-10-consists-of-parts-produced-in-the-usa-and-other-countries-photo-evidence/)、基幹開発力ほぼゼロ。

「無人偵察機」キットを組み上げるだけの「開発」なのに、3~4年を要したことになります。スローペースですね。競争がないから、急いでやる気もでないのでしょう。

 中でも極めつきは「カメラ」です。

 テレビ朝日なども報道(https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000252340.html)しているように「ロシアの軍事技術力を結集」して作られたという触れ込みのオルラン10でしたが・・・。

 実際にウクライナで撃ち落とされ、中身が分解されてみると、何と偵察機能の心臓部というべきカメラが日本の市販品。

CANON」の一眼レフがまるのまま、テープで貼りつけてあったのがバレた。これは相当恥ずかしい。

 ちなみに、エンジンはたかだか20数万円、一眼レフも10万円台のリーズナブルな価格で調達可能で、その他も大したものでなく、「オルラン10」はまずもって100万円以下で製造・販売が可能な「趣味のラジコン」です。

 これに1500万円の価格設定は、どれだけ人件費積んでるのか知りませんが、さすがに盛りすぎでしょう。

「オリガルヒ」が隠してきた濡れ手に粟の商法、馬脚の一端が垣間見えたというところでしょうか。

 なるほど、土建屋市議出身の元上院議長などロシアの政治屋が「日本の経済制裁」に感情的な反応を示す背景には「世界のSAITO」エンジンなど日本製品が入ってこなくなったら、ロシアのドローンは「終了」してしまうというコアコンピタンス皆無、悲しい台所事情があったわけです。

 技術戦争で敗退し「竹槍」などもって「進め一億火の玉だ」などとオダを挙げる軍隊や国の末路はどうなるか・・・。

 当然ながら2022年の日本は、並行輸出も含め、世界のSAITOエンジンが露軍の手に渡らないようにチェックしなければなりません。禁輸の指摘が必要です。

 ちなみに私が物理学科で学んでいた冷戦末期には東芝ココム違反事件などが発生、対共産圏向けに武器となりうる先端機器の輸出は厳しく制限されていました。

 それにしても、CANON一眼レフが「軍事用偵察機」の「眼」として転用とは、さすがのメーカーも思っていなかったかもしれません。何であれ、類似製品も含め禁輸措置を講じるべきでしょう。

 まるごと流用の「モジュール」から根絶やしにして、自前技術のないロシアのパチもんドローン「オルラン10」は「生産終了」に追い込むのが適切です。

若い世代の創造力が日本を守り育てる

 およそ右派ではなく、長年一貫してハト派の私ですが、「和平戦略」という一見すると語義矛盾のようなストラテジーは常に考えています。「平和構築」には「戦略」が必須不可欠。

 その観点から、お粗末なオルラン10の舞台裏を見るとき、「基幹競争力」コア・コンピタンスの重要性を感じざる得ません。

 ウクライナ戦争の源流は古代、中世から近世近代まで「東西の衝突」にも求められますが、直接的には、ロシアのグローバル戦略にとって貴重な「不凍港の軍港都市」セヴァストポリ奪還の主要な動機は「クリミア併合」(2014)の強行にあります。

 クリミアを押さえ、またドンバスを略取すれば、やはり貴重な凍ることのない海「アゾフ海」も、ロシアの内海として抱え込める。

 こうした古典的な領土野心むき出しで、旧ソ連武力で奪い取ろうとしたのが直近の大間違いだったと言えるでしょう。 

 対する米国・西側は「第1次経済制裁」。

 これによりロシアは2012年第2次AIブーム以降の先端軍事技術開発と完全に切り離されてしまいます。すでに米ソ宇宙冷戦期の科学力、技術力はプーチンロシアに残っていなかった。

 2010年段階で「SAITOエンジン、CANON一眼レフパクリロシアですから、これ以上の軍事技術の時代遅れはレジームの死命に関わります。

 プーチン政権は全力で「ロシアンゲート」工作、陰謀はKGB出身のシロヴィキが最も得意とするところで、実際、軍事作戦よりも成功した。

 2016年、米国史上でも最も恥ずかしい「トランプーチン」共和党政権が成立。数々の醜聞は今更記すまでもないでしょう。

 でもロシアのお寒い技術事情は改善しなかった。この間ウクライナでは親・米民主党・親NATO(北大西洋条約機構)のポロシェンコ~ゼレンスキー政権が成立。

 ウクライナでは「AI以降」の先端情報兵器が配備され、「トランプーチン」退場後の米バイデン政権下でNATOは東漸していき、ドンバスあたりには目に見えない「技術の絶壁」がそそり立っていた。

 片や2010年代「自動運転」の錦の御旗で高度化精緻化した「機械学習・高度自律システム」あえていえば「第2次AI化・西側軍装備」。

 他方1970年代以降実質的にイノベーションが進まず、2014年からは部品調達にも事欠くようになった「旧ソ連兵器」。

 4月18日以降、ネットも見ない携帯も持たない、頭脳はすでに退潮期に入っているおそれもあるプーチンは「過去の成功経験」に頼る典型的な失敗パターンで「ドンバス総攻撃」を大号令。

 実体のない「5月9日」戦勝記念日妄想の体面を保つだけのデマゴギーに奉仕する「プーチンの戦争」です。

 しかし、その軍備はといえば、相も変わらず旧式のブレジネフ兵器。

 これで攻撃できるのは丸腰の文民だけですから、できるのは市民虐殺が精々。我々が目にするのは焼け焦げた無残なソ連戦車の残骸と、破壊されたショッピングセンターや団地、工場や劇場などウクライナの民間施設ばかり、となる。必然的です。

 さらに実態がバレると「ブチャの英雄的行動」は模範的などとロシア兵を表彰して見せるプーチン・・・。4月下旬段階で、完全に末期症状です。

 太平洋戦争でいえば、ガダルカナル敗戦後の日本に近いかもしれません。それでもプーチンは「ロシア軍優勢」を吹聴する・・・大本営そのままです。

 そこからの推移を見守っている私たちは、もし、防衛を含め、日本の未来を大切に考えるなら、目の前でロシアが晒すような、無残で恥ずかしい「基幹競争力の喪失」は避けねばなりません。

 分かりやすく言えば、いまキヤノンや斎藤製作所が持っているコアコンピタンスこそが、日本の宝なのです。

 ロシアの寄せ集め開発者が見せるような「頭脳溶解」も避けなければなりません。

 21世紀、全世界的に並行して、子供の考える力の弱体化が報告され、その傾向はコロナ禍以降、激化が報告されています。

 大学で基礎教育に携わる観点から、「人づくり」こそ未来を築く唯一の道と強調しておきます。

 仮にロシアが本州上陸してきても、注意深い司令官なら千葉県市川市は空爆しないでしょう。斎藤製作所は安全に接収、何としても貴重な高性能エンジンの生産システムを横取りしたい・・・まあ、そんな本土上陸など決して許されることではありませんが。

 地下資源だけたくさん囲い込んだつもりで虚勢を張っていた「ロシア帝国」は、張り子のトラぶりが「キヤノン一眼レフのテープ貼りつけ」にまで堕落、弱体化の極にある真の馬脚を見せてしまった。

 こうなってしまっては、もうどうしようもありません。ロシアの軍事技術には独自の未来開拓の力は、もう、ない。それが正確に反映する戦線の推移となるでしょう。

「人は石垣、人は城」ではありませんが、日本は戦後の高度成長・技術立国を支えたのは「他国にマネのできない創造性」斎藤製作所のエンジンはそれを現在も実証し続けている。

 日本は若い世代のクリエイティビティを伸ばし、未来を開拓し続ける必要があります。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  「プーチン・エクソダス」、ハイテク頭脳が大量脱出

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ロシア軍の無人偵察機「オルラン10」(提供:MOD Russia/Russian Look/アフロ)