ロシアによるウクライナ侵攻が始まって3カ月が経過し、原油や食糧など原材料価格は大きく上昇することになった。その一方で、3月に実施された米国の金利引上げ=金融引き締めへの政策転換によって、ドル円相場は大きく円安が進んでいる。20年ぶりの水準となる「1ドル=129円41銭」まで円安が進行。しかも、米国の金利は今後も上昇を続けそうだ。加えて、日本では間もなくゴールデンウィーク(以下、GW)が始まる。この期間には、しばしば「フラッシュクラッシュ」と呼ばれる瞬間的な価格変動が起きている。不安定なドル円市場の中でGWは、どんな相場になるのか・・・。外為オンライン・アナリストの佐藤正和さん(写真)に5月相場の見通しを伺った。

 ――今年のGWは様々なことが起きそうですが、その影響は?

 米国の金融政策を決定する「FOMC(米連邦公開市場委員会)」が、日本のGW期間中の5月3日-4日にかけて行われる予定になっています。金利の引き上げは確実で、問題はその上げ幅が注目されています。

 金利引き上げに肯定的なタカ派で知られるセントルイス連銀のブラード総裁のように「0.75%の利上げの可能性を排除しない」と、コメントする人もいますが、今回は0.5%の上げ幅と考えて良いのではないでしょうか。もっとも、FOMCは今後6月、7月と続けてあり、そこでは0.75%の上昇があると予想する人もいます。

 要するに、今後立て続けに米国の金利は上昇することになり、日本との金利差はさらに大きく拡大する、といって良いでしょう。日米金利差が拡大すればするほど、円は売られ、ドルが買われることになります。そういう意味では、4月に続いて5月も円安ドル高のトレンドが続くと考えられます。

 ――円安が進む背景には何があるのでしょうか?

 直接的には、日本米国の金利差の拡大によって円が売られています。長期金利が3%に迫る上昇が続く米国と、無制限の「指値オペ」によって0.25%以上の金利上昇を容認していない日本との政策の差がそのままドル高円安につながっており、今後も円安が進むものと思われます。1ドル=130円を超える円安の可能性は高いと思われます。

 さらに、ポイントになるのは日銀に円安を止める手段が限られていることです。ワシントンで会談した鈴木財務大臣とイエレン財務長官が、為替問題で連携したとの報道があり一時的に円高に振れましたが、結局のところ鈴木財務大臣は「協調介入」については否定しており、日米が歩調を合わせて円安を止めるのは難しい状況といえます。

 加えて、黒田日銀総裁もアメリカのコロンビア大学で講演を行い、日本と米国のインフレによる認識の違いを示しており、今後も「強力な金融緩和を続ける」と明言しています。為替を主管する財務省と金融政策を司る日銀との間に認識の違いがあり、円高を止める手段はそう簡単に見つからない、と考える投資家が多い。円が売られる要因のひとつなっています。

 ――米国の政策金利の上昇が予想されていますが、円安はどこまで進むのでしょうか?

 5月に0.5%利上げしたとして、その後6月、7月と続けて0.75%の上昇があった場合、3カ月で2%も金利が上がることになります。その時の世界情勢や景気動向、株式市場の状況などによっても異なりますが、1ドル=130円台が当たり前の世界になっているかもしれません。

 さらに、5月5日には英国イングランド銀行の金融政策委員会が開催され、金利引き上げの可能性もありそうです。ドルだけではなく、英国ポンドに対しても円は安くなっていくことが予想され、いずれは金利引き上げがあると予想されるユーロや豪ドルに対しても、円は独歩安になっていくことが予想されます。

 日本銀行は、すでに日本国債を521兆円(2021年末現在)も保有しており、金利を引き上げると国債の価格が下がり、評価損が出てしまうことになります。日本政府も、国債の利払い負担が大きく上昇することになります。いわゆる「黒田ライン」を突破してしまった現在、今後の金融政策の行方に注目する必要があります。

 ――一方で、中国のコロナ対策で世界経済に影響が出ると言う見方もありますが?

 中国では上海に加えて北京市の1部でも新型コロナウイルスの感染拡大が続き、ロックダウンを実施するといった報道がされています。上海から北京に飛び火したことで、人民元は約1年ぶりの安値を記録するなど中国景気の鈍化に懸念が高まっています。

 その影響で、石油の消費量が減少するのではないかと「原油価格」も大きく下落。ロシアウクライナ侵攻の行方と合わせて、今後は様々なリスクが世界を翻弄することになるかもしれません。

 日本はGWによって、国内の金融マーケットは1週間近く断続的に休みとなります。FXでは海外市場がオープンしているものの、やはりある程度のリスクは覚悟する必要があるかもしれません。世界情勢を注意深く見守る必要があります。

 ――5月相場の予想レンジを教えてください。

 5月に考えられるリスクには、米国の金利引き上げや中国のコロナ感染者数の拡大、ウクライナ侵攻によるインフレなど多種多様です。例えば、ロシア国債のデフォルトが顕在化するなどロシア関連のリスクもあります。ロシアが西側の経済制裁に対抗して予想を超えるような報復をしてくるかもしれません。そういう意味でも今回のGWは緊張感を持って、金融マーケットに立ち向かう必要があるのかもしれません。5月の予想レンジは次の通りです。

●ドル円・・1ドル=125円-131
●ユーロ円・・1ユーロ=135円-141円
●ユーロドル・・1ユーロ=1.05ドル-1.09ドル 
●英国ポンド円・・1ポンド=159円-165円 
●豪ドル円・・1豪ドル=90円-94円

 ――5月の為替相場で注意すべきこととは?

 4月もそうであったように、やはり為替市場のボラティリティが非常に大きい点に注意すべきです。現在では、1日に1~2円も動いてしまうことがあり、どんなに円安が大きなトレンドだとしても、ドルをどんどん買い増していくような投資法はリスクが高い。

 ある程度、円高が進んだところでは、こまめにドルを買って、こまめに利益確定をしながら利益を積み上げていく。そんなトレードが安全と言えるかもしれません。FXでは、思い込みに走らず、マーケットの動きを注視しながら細かなトレードをすることが基本です。(文責:モーニングスター編集部)。

変動幅大きく、多様なリスクへの対応が必要か? 外為オンライン・佐藤正和氏