(オセラビ:作家・コラムニスト)

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 来る5月10日に就任する、尹錫悦(ユン・ソクヨル)次期大統領が、選挙運動期間中に提示した代表的な公約の一つは「女性家族部の廃止」である。この公約は、特に20~30代男性有権者からの熱い支持を得た。一般の世論調査でも、成人10人中6人が同意しており、廃止論は優勢だ。

 だが、女性家族部の廃止は実際に可能なのか、また、評判の悪い女性家族部には、どんな問題点があるというのだろうか。

 大韓民国の中央政府機関組織には、18部の行政機関が置かれている。そのうちの一つである女性家族部(Ministry of Gender Equality and Family)は、政権が交替するたびに「廃止しろ」との声が上がる。

 女性家族部は英語表記の通り、「性平等と家族の業務を担当する行政機関」という意味である。だが、実際は違う。廃止を望む声には、性平等とは言えない政策に莫大な予算を使っているからという理由が最も大きい。

 そもそも、女性家族部という名称からして矛盾している。

 英語では、すべての性の平等を意味する「Gender Equality」と表記されているが、実際には女性だけのための平等、すなわち「Women Equality」業務を遂行しているにすぎない。それゆえ、韓国語では女性家族部と表記するのだ。男女平等を謳っているのにもかかわらず、多様な性を包括する業務を行うどころか、女性偏向的な政策を実施している。

 世界中で、韓国の女性家族部のような部署が存在する国は珍しい。

 性平等先進国であるドイツは連邦家庭・高齢者・女性・青少年省、カナダは女性・ジェンダー平等省、世界最高水準の性平等国家であるスウェーデンは、住宅担当大臣がジェンダー平等大臣を兼務している。

 英国、フランスイタリアの場合、女性政策と関連する独立した部署はないが、長官級の職責が存在する。いわゆる特定部署を掌握しない無任所大臣だ。日本は、内閣府男女共同参画局が、韓国の女性家族部のような位置づけとなっている。

 多くの先進国は、女性政策だけ別に分離して専門的に担当するのではなく、関連性のある他の部門も統合して、運営している。

 韓国の女性家族部は、独立した部署で強大な権限を持っている。

 同部は、金大中(キム・デジュン)政権だった2001年に設立された。今年で21年目を迎える。その当時の韓国では、女性の人権は男性に比べてはるかに低い水準であり、女性家族部の新設は必要なことだった。

 そして、同部が設立されるや否や、長い間、女性の人権運動に勤しんでいた市民団体出身の女性たちが政界に進出した。彼女らは、女性家族部の職責の任命を受け、政策と予算執行権限を享受した。

 単刀直入に言って、女性家族部の設立は、女性が女性運動を通じて勝ち取った戦利品である。

慰安婦団体に女性家族部が流し込んだ予算総額

 女性家族部に対して、男性たちからの怨念の声が止むことはない。例えば、女性家族部の予算のうち、約1兆ウォンが各種女性関連事業団体に国庫補助金として支給されている。

 慰安婦被害者のための人権支援団体である正義記憶連帯と韓国挺身隊問題対策協議会(2018年に2団体は統合)は、2016年から昨年まで、13億4000万ウォンほどの国庫補助金を女性家族部から受けた。

 2021年5月、慰安婦であった李容洙(イ・ヨンス)氏の暴露によって、正義記憶連帯疑惑が炸裂し、会計の透明性に関する論議が巻き起こった。女性家族部の予算執行の不透明さを含み、普段から無用論を主張する人々は、より一層、廃止の声を高めることになった。

 その上、女性家族部の業務遂行能力は、いつも批判の対象になった。これを立証するかのように、中央行政機関18部中、毎年発表される政策遂行評価の順位で、数年間にわたって、最下位を記録している。

 また、大統領府の国民請願掲示板に上がる請願の中で、女性家族部廃止を望む声が最も多い。文在寅ムン・ジェイン大統領の5年の在任期間だけで、1500件を超えたほどだ。

 女性家族部廃止請願者の共通した理由は、次の通りだ。

「女性家族部は、男女平等政策とはあまりにもかけ離れている。男性嫌悪と、男性逆差別的な制度を作り、予算を浪費している」

「女性に優しい街づくり」に潜む不満

 女性家族部の業務と全体の予算内訳を見れば、女性偏向的な政策と予算執行がメインであることは一目瞭然だ 。

 例えば、数年前から女性家族部が主力を傾ける事業は、「女性に優しい都市づくり(Woman-Friendly Policies)」だ。現在、全国地方自治団体都市96カ所を選定している。

 女性家族部は、毎年優秀地方都市の中から、「女性に優しい都市」を選定し、大統領と国務総理表彰を与えている。選定では、地方自治体がキャリアを中断した女性向けの支援や夜道を女性が安心に帰れるような支援など、女性向けの制度を数多く実施するほど点数が高くなる。

 男性たちにとっては、女性専用施設や女性優待政策が施行されるそのたびに不満が積もり、男女間の摩擦を誘発する動機となる。女性家族部が、性差別、性別間摩擦の震源地とされる主な原因だ。

 さらにもう一つ、2021年に着工し建設中の「国立女性史博物館」も、女性家族部が総事業費268億ウォンの予算をつけている。問題は、現在すでに「国立女性史展示館」が存在していて、ちゃんと運営されているにもかかわらず、もう一つ作ろうとしているところだ。

 このような事例は一部にすぎない。女性家族部の予算が、このような女性向けの政策に浪費されているのを見れば、男性たちはなおさら「女性家族部を廃止せよ」と声を高めるだろう。

 より重要な問題点は、女性家族部の業務のほとんどが他の各部署の政策と重複しているという指摘だ。

 女性家族部は性病道や青少年、家族、人権などの業務を担っているが、さらに女性家族部傘下の公共機関5カ所も女性の人権保護や女性政策研究、両性平等教育などの業務を遂行している。不必要な部署を縮小および業務統合、廃止して、予算の無駄な浪費を減らさなければならない。

急進フェミニズムを生み出した女性家族部

 そして、女性家族部の何よりも大きな問題点は、急進フェミニズムを生み出したということだ。

 文在寅大統領は、就任前に「フェミニスト大統領になる」と宣言した。時を合わせたように、急進フェミニズム運動の全盛期が到来し、フェミニズム界はもちろん、女性家族部の権限をさらに強化させた。

 2018年1月に「#MeToo運動」が爆発し、一気に拡散した。この時に、フェミニスト女性国会議員は、待ってましたとばかりに各種性規制法案を立法化し、男性たちを固く締めつけた。

 これにより男女間摩擦は、より一層深刻化した。

 女性家族部傘下の公共機関である韓国両性平等教育振興院は、各学校、公共機関、民間企業などに性平等教育講師を送り出しているが、その多くは男性を潜在的犯罪者、加害者と想定し、危険で暴力的な性であると教えている。

 フェミニズムの不変的な原理は、「男性は糾弾対象」と見ることだ。女性は常に、被害者、犠牲者、弱者であり、男性は、圧制者、抑圧者、強者であるという論理だ。このような教育を、女性家族部傘下の公共機関で、率先して実践しているのだ。

 韓国女子学生の大学進学率は81%に達する。男子学生は76%だ。また、韓国は国家行政職における女性公務員が50%を突破している。その他にも、女性が男性より先んじる分野は数えきれないほど多い。小・中・高校全体の女性教師の比率は68%に達する。

 それでも、女性は弱者という不変の論理を当てはめ、女性差別が蔓延した国だと主張する。女性団体を政治的利益団体とした女性家族部には、一種のカルテルようだとの批判も上がる。

 こんな状況では、過去のどの世代よりも男女平等の中で成長した20~30代の男性たちにとっては、現実を受け入れることは難しいだろう。

結婚・出産・育児を「地獄の3種セット」と呼ぶ韓国

 女性たちが急進フェミニズムに巻きこまれた副作用は他にもある。フェミニスト女性議員と、これに同調した男性フェミニスト議員が作り、通過させた各種性規制法案によって生じるリスクのため、男性たちが恋愛に対して消極的になってしまったのだ。

 結果、韓国は恋愛も結婚も難しい社会となり、未婚者が急増した。文在寅政権の5年間の出生児数は42%の減少だ。女性たちが、結婚や出産、育児を「地獄の3種セット」と呼ぶ、摩訶不思議な国になってしまったからだ。

 尹錫悦氏が掲げた女性家族部廃止が実現されるかどうかは分からない。女性家族部の廃止、あるいは名称を変える場合でも、政府組織法改正法?に基づき、国会の本会議を通過しなければならない。

 野党になった民主党と友好的な左派政党が女性家族部の廃止反対を叫んでいる現状、与党少数、野党多数の状況では、通過することは不可能に近いだろう。

 来る5月10日に就任する尹錫悦氏による女性家族部廃止の公約が成功するのか、今後も注目していく必要がある。

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