2021年4月に宝塚歌劇団を退団し、舞台を中心に活躍の幅を広げている元宝塚歌劇団トップスター・望海風斗。

役の心情を深く掘り下げて演じる厚みのある演技や、高い歌唱力と表現力とで、瞬く間にミュージカル界で存在感を発揮しているが、5月5日(木)に放送される「望海風斗のサウンド・イマジン」(夜9:30-10:20、NHK FM)で初のラジオパーソナリティーに初挑戦。収録を終えたばかりの望海にインタビューをおこなった。

■ラジオパーソナリティーは「これまでとは違うスキルが必要だなと」

――ラジオ番組パーソナリティー初挑戦でしたが、収録を終えて、まずは感想を教えてください。

やっぱり声だけでお届けしないといけないので、普段よりも人の耳に馴染みの良い音でお届けできたらいいなと思い、なるべく明るい声でしゃべるよう意識してやっていたんですけれど…。やっぱり表情が見えないので、そういう意味で難しいなと思いました。お話を伺っている間も、なるほどと思いながらつい聞き入ってしまいますけれど、声でリアクションしないと無音になってしまう時間ができてしまうんですね。そういう配慮が必要なんだなと勉強になりました。

――でも、望海さんは、もともとご自身の思ったことを言葉にするのがとても上手というか、理路整然とお話をされる方という印象があります。

普段は、こうして取材で自分の話を聞いていただくことが多いじゃないですか。自分のことは話しやすいんですけれど、やっぱりお相手の方がいると、なかなか言葉で表現するというのが難しいですね。ましてや自分から相手に質問を投げかけて、相手の方の話を受けて、さらに掘り下げていくとか広げていくというのは、これまでとは違うスキルが必要だなと思いました。あとやっぱり、リスナーの方に向けて、このお話のどこを掘り下げたら面白いんだろうというのがまだまだ…。

――今回のゲストは、フィギュアスケーターの浅田真央さん。宝塚歌劇団在団中に出演された番組「SWITCHインタビュー 達人達」(NHK Eテレ)で一度対談されていらっしゃいますね。

まさか来ていただけて、こんな豪華な回にしていただけるなんてありがたいですし、とても光栄です。お会いするのは番組でご一緒して以来、本当に久しぶりでしたので、それも嬉しかったです。今日ラジオでお話していても、真央ちゃんって、こちらにもすごく話しやすい雰囲気を作ってくださる方なので、そこに居心地よくいさせてもらった感じです。でも、話を聞いていると本当に勉強になるし、スケートに対する想いを伺っていると自分のステージに対する想いと重なることも多くて。お話を伺いながら、私もこういう人になりたいなと思える部分があるので、とても刺激を受けますね。

■「私自身も真央ちゃんのスケートを見て励まされることも多かったです」

――望海さんといえば、以前からフィギュアスケートファンとして知られていますが、浅田さんのフィギュアスケートのどこに魅力を感じているんでしょう?

最初は華やかさと美しさに惹かれて観ていたんです。スポーツだけど作品をみているような芸術性というのでしょうか。でも、その世界を知れば知るほど、自分の仕事…舞台と絡めて見えてくるようになって。そうすると1回の試合にかける情熱だったり、そこに至るまでの過酷な練習だったり…。とくに選手時代は、本当にひとり孤独に戦っているわけで、私たちの前で魅せる一瞬の中に、どれだけの苦労と苦しみと葛藤とが詰まっているんだろう、と思うんです。そこを見せるわけではないのに、それが滲み出てくるところが、たぶん私は好きでした。

真央ちゃんは、小さいときからずっと、フィギュアスケートという競技を代表する存在であり続けながら、フィギュアスケートの美しく華やかな面だけじゃなく、ご自身がそのときそのときに葛藤されている姿というのも見せてくれていて、それでも試合に出て滑るエネルギーとかバイタリティーとか、そういう姿に勇気をもらっている方って多いと思うんです。私自身も真央ちゃんのスケートを見て頑張ろうって励まされることも多かったです。どれだけスケートと向き合って、どれだけ自分自身と向き合ってきたか…。その真央ちゃんの情熱と強さに惹かれますし、そこが魅力だと思います。今日お会いして、選手を引退されてもその強い姿というのは変わらないんだなと思いました。

――浅田さんは、全国各地のスケートリンクを回るツアーをおこなったり、選手がいつでも練習ができるリンクを作ろうと動かれていたり、引退されてからもスケートの普及や選手のために活動されていますよね。

引退されてから、真央ちゃんにしかできないことをきちんと考えて、やりたいこと、そしてできることを自分で決めて活動されていますよね。私も宝塚を退団して1年経ちますけれど、こんなに頑張っている人がいるんだと思うとすごく刺激を受けます。好きなことに対して向かう姿勢の純粋さとか、好きだからこそ自分の力でそれを広げていくところに感じ入るところがあって、今日お会いして、さらに私もそういう人でありたいなと思いました。

――番組は、音の世界から見えてくる世界を一緒に想像して楽しむ、というコンセプトでしたが、望海さんがお好きな音ってありますか?

なぜだかわからないけれど、バイオリンの弦の音が昔からすごく好きなんです。幼いときは単に、バイオリンを弾く仕草をかっこいいと思っていたんですが、徐々に音色に惹かれるようになって、今、バイオリンだけの曲を聴いたりすることもあるくらい。深みもありながら繊細さもある音色で、歌の練習をしていても、こういう音を出したいなってイメージするのが、ピアノよりも弦の音であることが多いです。

■「『next―』の世界にいる時間が好きだからこそ、終わったらどうなるんだろうという恐怖もあって」

――先日、ミュージカル「next to normal」の千秋楽を終えたばかりですが、今の心境を少し伺えますか。女性の役であり、母親役でもあり、双極性障害を患っている役でもあり、ご自身にとってもかなり挑戦の多い作品だったと思いますが、開幕から素晴らしいと評判でした。

実は私、「next to normal」が終わることが、本当に怖かったんです。宝塚を退団して1年っていうこのタイミングで出合わせてもらえて、本当に良かったと思う作品だし、ダイアナという役に挑戦させていただけたことは、自分にとって、ものすごく大きな一歩でしたし、「next to normal」の世界にいる時間が好きでした。だからこそ、これが終わったら自分はどうなるんだろうという恐怖もあって。でも大千秋楽を迎えたとき、もっと寂しくなるかと思っていたら、意外にそうでもなかったんですよね。人生も舞台も、こうやって続いていくんだなと思えたんです。それはあの作品やダイアナという役を通じて実感できたことでもあるので、今はすごく満たされた気分で、次に控えているミュージカル「ガイズ&ドールズ」に向かえています。

――今、6月9日(木)より帝国劇場で上演されるミュージカル「ガイズ&ドールズ」の稽古中ですけれど、稽古の様子を教えてください。

今回、演出を手がけられるのがマイケル・アーデンさんというアメリカの方で、すでに来日されているんですが、稽古もアメリカ式なんですね。毎回、稽古が始まる前に顔を合わせて、今日の調子はどうか、みんなで気持ちを共有し合う時間があります。そこで毎回マイケルさんがおっしゃるのは、間違いを恐れないで欲しいということ。「失敗してもいいから、どんどん新しいことに挑戦していきましょう」とおっしゃってくださるので、しっかりやらなきゃって気負うことなく、気楽に作品に向いつつ深めていける。疑問に感じたことがあれば、マイケルさんは「どうなんだろうね」と一緒に考えてくださるので、楽しく明るく稽古ができています。その一方で、やっぱりこだわりもしっかりお持ちなので、そこもとても信頼できます。

ただ、元の台本はアメリカのものなので、日本のお客様に楽しんでいただくにはどうしたらいいかを考えながら作っていっているので、そこはとても大変ですね。アメリカではウケるシーンだけれど、そのままやっても日本のお客様には伝わりづらい。でもじゃあどう変えたら伝わるか、日本人的視点みたいなことを1シーンごと話し合いながら作っている感じです。台本に書かれていることを当たり前としてやるのではなく、疑問を感じる箇所があれば、誰でも何でも発言していいよ、という自由な雰囲気がある稽古場ですね。

――キャストは、井上芳雄さん、浦井健治さんというミュージカル人気を牽引しているおふたりと、望海さんの宝塚の同期で花組トップスターを務めた明日海りおさんという、豪華な顔合わせですが、みなさんとのセッションはいかがですか?

もう稽古場が本当に華やかです(笑)。今回、私が演じるアデレイドのパートナーであるネイサンを演じるのが浦井さんなんですが、一緒にお芝居させてもらうのは初めてです。浦井さんは、自由にネイサンという役を作られる方なので、私自身、何か新しい面を引き出されるんじゃないかという楽しみがあります。芳雄さんは宝塚時代からお世話になっている方ですが、こうして一緒に作品を作るのは初めてのこと。どうやって役作りをされているのか、間近で拝見できているのは嬉しいですね。明日海とは、「エリザベート TAKARAZUKA25周年 スペシャル・ガラ・コンサート」で共演はしていますけれど、作品をイチから一緒に作るのは花組以来(※明日海が花組に組替えした2013年4月から、望海が雪組に組替えする2014年11月まで共に花組に在籍)ですから、すごく楽しいです。まだどっちも慣れないことをやっているので、お互いに励まし合いながらですけれど(笑)。

――おふたりとも女性役で初めて共演するわけですしね。

そうなんです。最初に一緒に歌稽古をしたとき、宝塚音楽学校時代のことを思い出しましたから。

■「この先どんな人に出会えるんだろうって楽しみですよね」

――すでにミュージカル「DREAMGIRLS」への出演も決まっていますが、この先の展望として考えていらっしゃること、今目指しているものなどがあれば教えてください。

これっていう具体的なものはないですけれど、自分の中で、やっぱり歌っていうのはすごく大きくて、歌に関してはもっと勉強していきたいと思っています。あとは、せっかく挑戦させていただくならば、その挑戦をいいものにしていきたいという思いはあります。今はまだ、いろんなものを吸収していく時期だとおもいますので、作品だったり、さまざまな現場でご一緒する皆さんから受けるものをしっかり吸収して、自分に何か身につけられたらと思っています。

――男役をやれない寂しさよりも、まだ未知の女性役の世界を楽しんでいらっしゃるんだなと、舞台を拝見していて感じます。

宝塚を退団するときには、自分がこんなに楽しいって言ってることが想像がつかなかったですけれど、今、舞台に立っていることが楽しいし、本当に好きなんだなってすごく感じています。男役を卒業して、やっぱり慣れないことはたくさんあって、いまだに自分の中で気持ち悪さもなくはないです。ただ、誰かの人生を生きること自体は、男役の時から何も変わらないと思ったし、それが一番好きなことなんだとあらためて感じています。男役をやれない代わりに、今までやってきたことと全然違う人物に出会える。この先どんな人に出会えるんだろうって楽しみですよね。

――女性役があまりに違和感なかったので、いまだに気持ち悪さはある、とおっしゃるのが意外です。

良かったのは、「INTO THE WOODS」も「next to normal」も、共演者に、男役時代の私を知らない方々が多かったということです。元宝塚というくらいの情報しかなく、どういうことをしていた人なのか知らない方々の中にいたことで、男役ではなく、普通に俳優のひとりとして扱っていただいたことで、私自身も気負わずできたと思うので、それはありがたかったです。

――今、プライベートでハマっていることや、大事にされていることはありますか?

今は、いい睡眠をとることですね。いいパフォーマンスのためには睡眠が大事ですから、そのための準備を楽しむようにしています。電気をちょっとずつ暗くしてキャンドルを点けたりとか、YouTubeでいい睡眠に誘ってくれる音みたいなものを聴いていたりとか。宝塚在籍中は、一日一日、体力も気力も限界まで使い果たしていたので、パタッと寝られたんですけれど、たぶん今はまだ、あれだけ使っていたエネルギーを持て余しているのか、もう寝る時間なのねっていう状態で1日が終わるんです。だからどうやって寝たらいいのかわからなくて…(笑)。どうやったら速やかに眠れるか、考えたいなと思っています。

取材・文=望月リサ

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