クルド人の少女が自らの置かれた状況に葛藤しながらも成長していく姿を描く映画『マイスモールランド』が5月6日(金)より公開される。

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是枝裕和監督が率い、西川美和監督が所属する映像制作者集団「分福」に在籍する川和田恵真が監督を務め、日本に実際に居住するクルドの人たちの状況を、クルド人の少女の目線から伝える。フィクションではあるが、そこには多くの人たちが知らないクルド人たちの置かれた厳しい現状が描かれている。

主役のクルド人高校生、サーリャを演じるのは嵐莉菜。日本とドイツにルーツを持つ母親とイランイラクロシアミックス日本国籍を取得している父親のもとに生まれた彼女は、日本で暮らし、日本語を話しながらも自身のアイデンティティに不安を抱えるサーリャに共感し、「私にしかできない!」という強い気持ちでオーディションを受けたという。

本作が映画初出演で初主演、かつ本格的な演技に挑戦するのも初というが、とてもリアルに、繊細にサーリャを演じきった彼女に初めての現場で感じたことを語ってもらった。また、現役高校生で、ViVi専属モデルとして活躍中の一面についても明かしてくれた。

この役は絶対に演じたい

――本作への出演が決まった経緯を教えてください。

マネージャーさんから今回のオーディションのお話を聞いて、いつかは演じることをやってみたいと思っていたので受けさせていただくことにしました。オーディションというものを受けること自体が初めてだったので「緊張する!」って思ったんですけど。

それに私が演じたサーリャの設定やストーリーを聞いたときに、「この役は絶対に演じたい」と強く思いました。

――これまで演技の勉強はしていたのですか。

幼少期から小学生くらいまでは、再現ドラマのお仕事をたまにやらせていただいてはいたんですけど、今回のような本格的な演技は初めてでした。

「演技をやってみたい」とは思ってはいたんですけど、こんなにも早くお話をいただけると思っていなかったので、まさかという感じで何の準備もできていなくて。

――そうすると、演技は監督から教えていただくような?

私から監督に質問をさせてもらっていた感じです。脚本を何回も読んで、「こういうとき、私だったらこんなふうに言うんですけど、サーリャはどういうふうに言いますか?」など。

実は最初、監督に質問をしてもいいのかためらっていたんです。でも監督から「何でも聞いてね」と言っていただけたのでたくさん質問しちゃって(笑)。監督と話すことでサーリャが作り上げられたな、という感じがすごくあります。

――撮影前にはワークショップも行われたそうですね。

自分でも事前にクルドについて勉強もしたし、脚本を読んで自分なりにシーンをイメージはしていたんですけど、ワークショップで実際のクルド人の女の子と会ってお話をすることができたことで、よりサーリャのイメージが湧きました。自分の感情に直接響いたというか。

趣味の話とか、楽しい話もたくさんしたんですけど、その中で、「大学に行けるかわからない」とか、「(現在住んでいる)埼玉県から出られない」とか……調べているときは脳だけに入っていたものが実際にお話を聞くことで全身で感じられたような。

サーリャを演じているときは、そのときの感覚がずっと心のどこかにありました。他にもクルド民族について知らなかったこともたくさん知れましたし、すごく貴重な経験でした。

自分が知らなかっただけで、こんなことが身近にあるんだって。知らなかった自分を「ヤバイな」って思ったり。行動制限をされていて自分が住んでいる県外には出られないから、友だちと遊びたくても好きなところに行けない、とかはすごく驚きました。

「悲しいな」とか、「つらいだろうな」とか、それこそ「自分ヤバイな」とか、いろんな感情が溢れたんですけど、だからこそ「しっかりとサーリャを演じたい」って、強く思いましたね。

奥平大兼との共演は?

サーリャと聡太の微妙な関係は演技とわかっていても照れました(笑)

――演じてみて、楽しかったシーンはありますか。

聡太(奥平大兼)と一緒に絵を描くシーンは本当に楽しかったです。あの場面はサーリャが一番楽しそうな顔をしているな、と自分でも思いましたし、やっているときは演技ではあったんですけど私自身も楽しんでいました。

ワークショップで事前に奥平さんとも仲を深める時間を作っていただいたり、スタッフさんも含めて一緒にお花見に行くとかもできていたので、現場でも実際のサーリャと聡太のような関係でいられたのは大きかったと思います。

奥平さんは撮影の待ち時間とかにも私のお話し相手になってくださっていて(笑)。年齢が一つ上でお兄ちゃんみたいな感じだったので、演技のことを教えていただいたりとか、あとは趣味のお話とかもたくさんさせていただきました

――奥平さんは絵やファッションとかがお好きですよね。

私もファッションが好きなのでその話もしました。お互いに古着が好きなので。そういう何気ない話をたくさんさせていただいて、むしろサーリャと聡太以上に話してたかもしれないないです(笑)。

とにかく不安なことも多かったですし、いろいろ色々と気軽に聞くことができたのですごく助けていただきました。

――逆にこのシーンは大変だったな、というところは?

いろいろあったんですけど、やっぱりラストシーンですかね。あの場面でサーリャが下した何らかの決意を見せなくちゃいけなかったので。撮影はほぼ物語が進む順番で撮っていたので、この作品の撮影の最後でもあったんです。

それだけにここまで演じてきたサーリャの強い気持ちを伝えるのは大変でした。何回か撮り直しもしたんですけど、感情を表すのは難しかったですね。

――あのシーンのサーリャから伝わってきたものは、映画が終わったあとも心に残り続けました。

そんな風に言っていただけるとうれしいです。うまく出来たのかな(笑)。

――莉菜さん自身はサーリャと聡太の関係をどんなふうに見ていましたか。

不思議な関係ですよね。友達以上、恋人未満みたいな初々しい感じで。すごくいいなって思いました。ああいう時間って絶対に楽しいんだろうなって(笑)。

演じてても照れてしまって、普通にニヤけちゃったり。バイト先で仲良くなってまだ付き合ってもいないのにデートに行ったり。演技とわかっていても照れました(笑)。

サーリャにとっての聡太は一緒に絵を描いたり、夢を語ったり、それこそ自分がクルド人であることを初めて打ち明けることができた人で、第二の居場所みたいな、安心できる相手だと思うんです。

だから聡太の前では表情も豊かになるように意識しました。つらいことや大変なことが多いサーリャにとって、あんなふうに楽しくいられる場所があったのは良かったな、って思っていました。

実の家族と家族役を演じて

実際の家族と家族役で共演

――一方で家族とのシーンはシリアスな場面も多かったですが、今回、サーリャの家族役は実際の莉菜さんのご家族が演じられているんですよね。

最初はすごく恥ずかしかったです。演技してるところは見せたくないなって。やっぱり家族に見られるのは緊張するしドキドキするし。

でも家族4人でラーメンを食べるシーンを褒めてくださる方が多くて。撮影をしているときは何も思わなかったというか、演技だけど家族として普通に話している感覚だったので、自分でも完成した作品を観て、こんなほっこりするシーンだったんだと。そこは本当の家族だからこそ出せた雰囲気もあったのかもしれないと思いました。

演技しながら恥ずかしいって思ってしまったシーンもあったんですけど、完成作を観てみると意外に自分がすごく落ち着いて演じられていたんだな、と気づくところもあって。私としては家族と演じられて良かったのかな、と思っています。

――すでに出来ている家族関係が映像からも出ているのかもしれないですね。

演技をしていて恥ずかしかったですけど、家族であれば受け止めてくれる、という安心感もあったので。その感覚が自然と出ていたのかもしれないです。

私たち家族にとってこの作品は本当に一生の宝物になりました。

――実際の家族関係はどんな感じなんですか。

すごく仲がいいです。サーリャの家族もそうですが食事も一緒にするし、とにかく話が絶えないです。父はずっとギャグを飛ばしてて、弟がそれに「面白くない」ってツッコんだり(笑)。弟はハキハキものを言うタイプで、自分でもギャグを言ったりします。

妹は演じた役と似ているというか、自我が強くて強気なところがありますね。けど私とは趣味も合うし、ノリも良くて、一緒に居て楽しいです。母はちょっと天然なのかな、すごく面白い人で。

私自身はすごくいい家族だな、と思っていますし、家族と過ごすのが好きです。

――撮影を終えて無事に完成し映画を観たとき「役を演じ込むことが大変だった分、大きな達成感がありました」とコメントされていましたね。

1ヶ月間くらい毎日のように撮影があったし、出演シーンも多かったので、大変だったな、と思う部分もあるんですけど、演技することの楽しさや、自分がここまで演技に興味があったんだ、と知るきっかけにもなって。「また演技がしたいな」とすごく思っています。

達成感というよりはそんなふうにして撮り終えた作品がこうやって無事に皆さんに観ていただけるような状況になって、「最後まで出来て良かった」という安心感に近いのかもしれないです。

たくさんの方々と一緒に作り上げた、私にとって本当にかけがえのない作品になりました。

――改めて感じた演技の楽しさとは?

私が感じたのは普段の生活では経験できないないようなことができたり、なりたくてもなれないような人になれたりするのは演技だけだと思っていて。

今回は現実的で私自身と共通している部分が多い役ではありましたけど、例えば、スーパーヒーローとか、アニメの実写化とか、絶対になれないものになれたらすごく面白そうだな、と。

自分ではない人になる楽しさを知った今、私はまだ経験したことがないので、自分がなりたくてもなれないものとかに挑戦してみたいな、という気持ちがあります。特殊能力が使える人とか、あとは悪役とかも興味があります。

――恋愛もののヒロインはどうですか。

えー!(笑)。どうなんだろう!? やってみたい……もちろんやってみたいんですけど、緊張して照れちゃいそうですね。でも機会をいただけるのであればやってみたいですし、本当にいろんな役柄に挑戦してみたいって思っています。

現役高校生モデルの一面は?

現役モデルのリラックス法&美容法&健康法は?

――お休みの日は何をしているときが一番楽しくリラックスできていますか。

今はゲームです。一人でゲームをしている時間が楽しいですね。育成系も戦闘系も好きで、ときどき仲間と一緒に対戦できる系のもやるんですけど、その場限りの知らない人たちと楽しんでいます。

あとは家族と出かけることですね。出かけると言っても近所のスーパーとか、家電量販店とかで、そこから家に帰ってきて一緒にご飯を食べながらおしゃべりするとかが楽しいです。家族は遠慮なく一緒に過ごせる存在です。

さっきゲームを一人でしているときが楽しいって言いましたけど、もともと一人になるのはあんまり好きじゃなくて(笑)。矛盾しちゃってるんですけど、友だちと話すのも好きだし。だから今は両立というか、ゲームと家族の両方あるのがいいかな。

――莉菜さんはモデルのお仕事もされていますが、美容や健康のために何かやっていることはありますか。

日常的にやっているのはエスカレーターを使わずに階段を使うとか、信号待ちで止まったときはつま先立ちをするとか、生活をしながらできることです。

美容系で言うと、肌の調子が良くないことが続いたときは、一旦、全部顔に塗っているものをやめて数日間過ごすというのをやっています。自然体でいることで肌が元通りになる気がします。

それから皮膚科で診てもらうこともしています。皮膚科で出してもらえるビタミン剤は自分に合ったものを処方してくれるのですごく効きます。ニキビとかの吹き出物もできにくくなるし、もし肌で悩んでいる同年代の人がいれば、一度、病院に行ってもらうのもおすすめです。

あとはダイエット法として合っているかはわからないのですが、本当にお腹がすくまで食べないというのをときどきしています。私はご飯を食べることが大好きで、お菓子も好なので、自分で「食べ過ぎたかな?」と思ったときは、次の日は食べるのを控えめにするとか。

基本的には一日三食、バランス良く食べるようにはしているんですけど、ちょっと落としたいな、というときは、朝起きて、別にそんなにお腹がすいてなかったら「お腹空いたな」って感じるまで食べない。それで体形維持ができているので、私には合っているのかなって思っています。

――最後に本作を通して観てくださる方にどんなことが伝わったらいいな、と思っているか聞かせてもらえますか。

この作品はクルドという国やルーツをテーマにしてはいるのですが、サーリャが感じている悩みや苦しみはクルドとは関係なく共感できる部分も多いと思うんです。

サーリャクルド人だから、その人たちのためにお願いごとを聞いてあげていたりもしますけど、そういうふうに家族や誰かのために苦労をしている人はいると思うし。

クルド人だから大学受験も諦めなくていけない状況に追い込まれていますけど、それはまた違う理由でそういう状況の人もいると思うし。よく見てみると日常で誰でも経験するような問題や壁について描かれているんです。

それから私自身がこの作品を通してクルドの民族のことや習慣とか、いろんなことを知るきっかけになったので、観てくださった方々も自分自身と重ね合わせつつ、周りにこういう人たちがいるんだ、ということを知るきっかけになってくださったらうれしいな、と思っています。


写真撮影ではクールな表情も見せてくれましたが、インタビュー中は常に笑顔でお話をしてくださった莉菜さん。特にご家族のお話をされるときは、本当に楽しそうでした!

物語としては少しシリアスな テーマもありますが、莉菜さんもお話してくれたように「クルドとは関係なく共感できる」ものにもなっています。「難民」と言う言葉に、少なからずとも関心を持つ人が増えた今、改めて、本作からのメッセージを少しでも多くの方に劇場で感じていただけたらと思います。

作品紹介

映画『マイスモールランド
2022年5月6日(金)全国ロードショー

撮影/小嶋文子