本年(2022年)3月に上演され話題を呼んだ劇団昴『一枚のハガキが、2022年5月25日まで期間限定の配信にて視聴可能だ(申込みは5月15日まで。詳細は下記公演情報欄参照)。コロナ禍で劇場へ行けず見逃した人にも好機到来である。

劇団昴『一枚のハガキ』は、「戦争を忘れてはいけない」と語る北村総一朗渾身の演出作品だ。本作は、名匠・新藤兼人が99歳で最後に監督した同名映画の舞台化である。新藤監督が描いた戦争の残酷さに感銘を受けた昴の名優・北村総一朗は、自身も9歳の時故郷の高知で終戦を迎え、その戦争体験が原点となっている。新藤の残した遺言「戦争を許さない気持ち」は戦後70年以上が経ち風化しようとしているが、戦争の愚かさを二度と繰り返さない強い思いを、演劇ならではの切り口で人々の心に突きつけた。2017年に北村が手掛けた同じ新藤作品の『ふくろう』上演以来、舞台化を切望していた作品。映画から演劇へ、名作が甦る。

今回、脚本を依頼したのはいま気鋭の作家として第一線で活躍する、劇団チョコレートケーキ古川健。次世代へ平和の願いのバトンを渡す舞台となった。また、昴と有田神楽団(広島県無形民俗文化財)とのコラボレーションも見どころの一つ。

ウクライナの悲劇を目の当たりにしつつ、我が国内でも憲法をめぐる危うい動きが起ころうとしている今だからこそ、本作の鑑賞を通して、戦争についての考えを改めて深めていきたい。

<物語> 戦争末期、松山啓太ら百名の中年兵士が招集された。兵士達は上官のくじ引きで赴任先が決まる。その結果、行先がフィリピンと知った森川定造は生きて帰れないと悟り、妻にハガキを読んだことを伝えて欲しいと一枚のハガキを啓太に託す。過酷な戦況の末、生き残りは6人。その中に啓太はいた。森川定造から預かったハガキを携え、戦死した定造の妻・友子を訪ねる。そこには戦争で無残に解体された出征家族の姿があった──戦友のハガキを通し、松山啓太自身と戦死した戦友家族の崩壊と再生の道のりを綴る。
 
劇団昴『一枚のハガキ』を演出した北村総一朗