「もう少し早い時期だったら、盛り上がったのにね」そんな風に私が肩を落としていたのは金曜日、この週末にはマドリーダービー2本立てがありながら、その関連話題があまり出ていないことに気づいた時のことでした。いやあ、確かに日曜午後2時から、コリセウム・アルフォンソ・ペレスで始まる弟分ダービーは前節、ベティスと0-0で引き分けたヘタフェが降格圏と勝ち点5差の15位、同様にレアル・ソシエダと1-1だったラージョが同10差の11位と、どちらも確定はまだとはいえ、ほぼ来季も1部でプレーできる見通しが立っていますからね。

もちろん、出場停止となるCBミトロビッチ入れ替わりクエンカが戻って来るヘタフェはシーズン前半戦に3-0とやられた借りを返したいと思っているとか、あと勝ち点2で上がりとなるラージョは先週末の試合でファルカオがゴールと共に復帰したことで、ますます自信をつけているといった話はありますが、双方共、勝っても負けてもそれ程、懐は痛まず。よって、純粋にマドリッド第1の弟分の地位を巡る戦いを楽しんでもらえればいいんですが、え?となると、深刻なことになっているのはアトレティコだけ?

だってえ、兄貴分ダービーは日曜午後9時(日本時間翌午前4時)にキックオフとなるんですが、すでに前節にはレアル・マドリーが今季4試合を残して戴冠。シベレス広場でのお祝いも終わっているため、彼らにとって、リーカはもう消化試合なのと対照的に、アトレティコの方は未だに来季のCL出場権獲得競争の真っ只中なんですよ。しかもマズいことにここ、6試合で2得点だけ、勝ったのもそのカラスコが2ゴール挙げたエスパニョール戦だけという、最悪の日照り状態に陥っているとなれば、シメオネ監督が金曜土曜と2日連続、練習場所をマハダオンダ(マドリッド郊外)から、ワンダメトロポリターノに移して、選手たちにゴールの位置を再確認させているのも仕方なかったかと。

何せ、先週末こそ、自分たちはアスレティックに2-0と負けながら、弟分たちの援護射撃のおかげで5位のベティスとは3、6位のレアル・ソシエダとは6と勝ち点差を1縮められただけに済んだとはいえ、今回はそうはいきませんからね。レイニウドこそ、金曜の上訴委員会で前節のイエローカードが取り消され、累積警告による出場停止を免れたものの、サビッチと入れ替わりエルモーソは出られませんし、ジョアンフェリックスとレマルはまだリハビリ中。

それこそルイス・スアレスグリーズマン、コレア、クーニャらが全力を振り絞って、ゴールを挙げてくれないことには残り4試合、到底、白星は望めませんし、うっかりCL圏外で終わろうものなら、現在、世界一多い4000万ユーロ(約55億円)と言われるシメオネ監督の年棒だけでなく、選手たちも給料大幅減になるのだとか。その辺を考えれば、入場時にお隣さんを”Pasillo de campeones/パシージョ・デ・カンペオネス(チャンピオンの花道)”で迎えるのをガンとして拒むのではなく、とりあえずは愛想良くしておいて、相手を油断させた方がいいんじゃないかと思いますが…やっぱり、あの水曜の奇跡を見た後では何をしてもムダかもしれませんね。

そう、今週のミッドウィークはCL準決勝2ndレグがあったんですが、いえ、火曜にリバプールを迎えたビジャレアルもラ・セラミカのファンの後押しもあって、奇跡のremontada(レモンターダ/逆転突破)のお膳立てまでは整えたんですよ。というのも開始早々、3分にはエストピニャンのクロスをカプエがゴール前のディアスに送り、彼のシュートで先制。座して待つの姿勢一辺倒だったアンフィールドとは別のチームのように敵陣に攻め込んで、いえ、36分にロ・チェルソがGKアリソンに倒されたペナルティは主審にスルーされてしまったんですけどね。それでも40分、今度はカプエがエリア内右奥から上げたクロスをコケリンがヘッドで決めて、前半のうちに総合スコアを2-2にしてしまったから。

でもねえ、そこはCL優勝経験が6回もあるリバプールクロップ監督がハーフタイムに「サッカープレーするんだ!」と選手たちに檄を飛ばし、FWの1人をジオゴ・ジョタから、ルイス・ディアスに代えたところ、うーん、「Hemos pagado el esfuerzo de la primera parte/エモス・パガードー・エル・エスフエルソ・デ・ラ・プリメーラ・パルテ(ボクらは前半の努力のツケを払った)」(アルビオル)という、体力的な理由もあったようですけどね。16分にはサラーのスルーパスから、ファビーニョに撃たれたシュートがGKルリの股間を通ってネットへ。21分にもアレクサンダー=アーノルドのクロスをディアスがヘッドしたところ、またしてもルリに当たって、2点目を取られてしまうとは!

おまけに悪いことは重なるもので、この試合に超特急でリハビリを間に合わせたエースのジェラール・モレノがまた太ももに痛みを覚え、23分には交代せざるを得なかっただけでなく、29分にはエリアを飛び出したルリがマネを逃がし、止めの3点目を奪われているとなれば、もう万事休す。決勝トーナメントではユベントスバイエルンらの強豪を倒し、17年ぶりの準決勝に進出したビジャレアルでしたが、3度目の奇跡は起きず、予想通りの敗退となってしまいましたっけ(総合スコア5-2)。

え、いくら逆転にゴールが必要な2ndレグとはいえ、エメリ監督も「Nos hemos quedado sin fuerzas/ノス・エモス・ケダードー・シン・フエルサ(ウチは力尽きてしまった)」と言っていたように、前半からガンガン飛ばす作戦はあまりお勧めできないんじゃないかって?そうですね、チームバスのお出迎えに15万人のファンがサンティアゴ・ベルナベウ周辺に集結したマドリーも準々決勝2ndレグのアトレティコを参考にしたか、水曜のマンチェスター・シティ戦では壮絶な撃ち合いとなった1stレグとは打って変わり、0-0で前半を終えることに。

すでにその前半から、シティのGKエメルソンのゴールキックが遅く、スタンドからピーピーやられていた上、後半に入ると負傷明けのウォーカーが2度程倒れていたため、これはまた、1stレグの1点リードを守るため、グアルディオラ監督のotro futbol/オトロ・フトボル(もう1つのサッカー)、最終奥義、時間稼ぎが発動するのかと思いきや、早計でした。ええ、後半26分にはウォーカーとデ・ブライネがジンチェンコとギュンドガンに代わったんですが、その2分後、ベルナルド・シウバのパスから、マフレズがゴールを決めてしまったから、さあ大変!

いや、大変なのは世間一般の普通のチームであって、16強対決のPSG戦もそうでしたが、マドリーに限っては、点差が広がるのが逆にモチベーションになるから、あら不思議。ええ、30分にはモドリッチ、カセミロに代わって、カマビンガとアセンシオが入ったんですが、先にクロースと代わっていたロドリゴも合わせ、5年間でCL優勝4回を成し遂げたジェネレーションがピッチを去っても、クラブに連綿と受け継がれる根性のレモンターダ精神は健在でした。40分過ぎにはグリーリッシュが2度、エリア内からシュートを放ち、最初はメンディがゴールライン前でクリア、次はGKクルトワが伸ばした左足のスパイクで軌道を逸らし、ピンチを凌いだ後、いよいよ時間は45分。

実際、当人までが、試合後に家族で訪れたデ・マリア(マドリッドのステーキレストラン)でマイクを向けられて、その時は「Pensé que ya estábamos fuera, estábamos muertos/ペンセー・ケ・ジャー・エスタバモス・フエラ、エスタバモス・ムエルトス(もう敗退すると思っていた。ボクらは死んでいた)」と言っていたぐらいだったんですが、いよいよベルナベウのmagia(マヒア/マジック)が具現したから、ビックリしたの何のって。そう、カマビンガがエリア外からクロスを入れると、ベンゼマがゴールラインぎりぎりのジャンピングボレーで戻し、ルーベン・ディアスに先んじたロドリゴがまず、1点差に迫るゴールで口火を切ったんですよ。

それだけならともかく、ロスタイム6分が表示された後、1分もしないうちに今度はカルバハルがクロスを送り、アセンシオの頭がかすって落ちて来たボールをロドリゴがヘッドで決め、あっという間に総合スコアが同点になるなんてこと、あっていい? 準々決勝チェルシー戦に続き、またしても彼のお手柄で延長戦に入ったマドリーとなれば、ええ、アンチェロッテイ監督も「En la prórroga lo más importante era la cabeza, la psicología/エン・ラ・プロロガ・ロ・マス・インポルタンテ・エラ・ラ・カベッサ、ラ・シコロヒア(延長戦で一番大事なのは頭、心理学だ)。最後の最後になって追いつかれると、私もリバプール戦で経験したが、流れは良くなかった」と、2004-05シーズンにミランを率いて挑んだCL決勝で後半、3-3と追いつかれ、PK戦までもつれ込んで負けた試合を思い出していたんですけどね。

シティの選手たちもこれには同様したか、延長戦前半5分にはベンゼマがルーベン・ディアスにエリア内で倒され、ペナルティをゲット。一旦はハットトリックの可能性があったロドリゴにキッカーを打診したキャプテンでしたが、最後は1stレグでも成功していた彼がPKを決め、ついにマドリーが逆転です。延長戦後半には脚を痛めたミリトンが複数回、医療スタッフのお世話になるなど、心配なシーンもあったものの、セバージョス、ルーカス・バスケス、バジェホで守備をソツなく固めた彼らが5年ぶりのCL決勝進出を果たしているんですから、まさにこちらは2度あることは3度ある方の奇跡だった(総合スコア5-6)?

いやあ、正直、ロドリゴなども「Creo que no lo puedo explicar/クレオ・ケ・ノー・ロ・プエド・エクスプリカル(説明することはできないと思う)」と言っていたように、彼らのレモンターダ体質については、「En una palabra, Real Madrid/エス・プナ・パラブラ、レアル・マドリッド(一言で言えば、レアル・マドリーだから)」という、それこそ2014年、リスボンでのCL決勝でアトレティコのゴールを守り、「Noventa y Ramos/ノベンタ・イ・ラモス(90分過ぎのラモス弾)」で同点とされ、延長戦で負けたクルトワの言葉を引用するしかないんですけどね。

準々決勝では1点差を追いつくべく、攻勢に出ていた後半44分、フェリペがフォーデンに足をかけて退場。tangana(タンガナ/小競り合い)が始まったせいで、逆転のシナリオがうやむやになってしまったお隣さん相手とはまさに真逆の結果には、グアルディオラ監督も「tenían que hacer dos goles y eran capaces de hacerlo, lo dice su historia/テニアン・ケ・アセール・ドス・ゴーレス・イ・エラン・カパセス・デ・アセールロ、ロ・ディセ・ス・イストリア(向こうは2点取らないといけなくて、それは可能だった。彼らの歴史がそう言っている)」と頭を垂れるしかないようでしたっけ。

おかげで試合終了後のベルナベウのピッチでは、先週土曜のリーガ優勝決定から続けて、選手たちのフィエスタが始まったんですが、スタンドが、「Si, si, si, nos vamos a Paris!/シー、シー、シー、ノス・バモス・ア・パリス(イエス、ボクらはパリに行く!)」とカンティコを唱和する中、気の毒だったのは、ロドリゴのゴールが決まる前にスタジアムを出ていた、諦めの早い一部のファン。歓声を聞いて、戻ろうとしても再入場は認められず、結局、場外で同点、そして逆転劇に耳を澄ますことになったんですが、この教訓はいつか、マドリーのCLマッチ観戦に行こうと思っている日本人ファンも忘れない方がいいかと。

まあ、そんな具合で28日のスタッド・ド・フランスでのCL決勝は2018年の再戦、リバプールマドリーが激突することになったんですが、今や、戦争の最中にあるキエフのオリンピスキ・スタジアム(ディナモ・キエフのホーム)での大一番では前半30分にサラーセルヒオ・ラモスとの接触プレーで肩を痛めて交代。3-1で負けて優勝を逃したこともあり、「We have a score to settle(ボクらには決着をつけることがある)」と当人が早速、ツィートしていたんですけどね。ここしばらく決勝から遠ざかっていたマドリーも選手全員が「A POR LA 14/ア・ポル・ラ・デシモクアルタ(14回目のCL優勝を目指せ)」と書かれたシャツを着て、士気の高さでは決して負けておらず。

何せ、すでにリーガの片がついた彼らと比べ、クロップ監督のチームは勝ち点差1でシティとプレミアリーグ優勝をまだ争っていますからねえ。これをアンチェロッテイ監督が利用しない手はないですし、残り4試合は日曜のマドリーダービーを始め、主力選手の休養を考えたローテーション体制に入ってくれるんじゃないかと期待しているんですが、はあ。シティ戦でもはっきりしたように、とにかくアトレティコがゴールを取り戻してくれない限り、どうにもならないんですよね。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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