全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

【写真】約12時間かけて抽出する水出しコーヒー。ブラジル由来の香ばしさがテイストの柱。最初にフワッと感じるエチオピアの華やかさがエッセンスに

九州編の第24回は、長崎県長崎市にある「square coffee&bake」。2022年3月1日にオープンしたばかりながら、すでに地域の人たちの憩いの場となり、焼き菓子やパンは昼過ぎになると、売り切れになることもあるほど。店は良い意味で個性を主張しない、まるで真っ白なキャンバスのような空間。だれでも気兼ねなく立ち寄れるニュートラルなスタイルを選んだ「square coffee&bake」。オーナーの伊藤さん夫妻に店に込めた思いを聞いた。

Profile|伊藤千晶

1987(昭和62)年、長崎県長崎市生まれ。もともと病院で専門職として働いていたが、違う世界も見てみたいと、ワーキングホリデー制度を利用して、1年間オーストラリアへ。帰国後、知人だったKARIOMONS COFFEE ROASTERのオーナーの誘いもあり、同店で働き始める。それを機に抽出やコーヒーショップならではのサービスの世界の奥深さに魅力を感じ、本格的にコーヒーの道へ。結婚、出産を機に、KARIOMONS COFFEE ROASTERを退職。その後、長崎市出島にあるスペシャルティコーヒー店、Atticにてバリスタとして約7年間勤務。2022年3月1日、アパレル業界一筋だったご主人の洋介さん(写真左)と一緒に「square coffee&bake」をオープン。コーヒーの抽出や焼き菓子・パン作りは千晶さん、サービスや店舗の運営管理は洋介さんが主に担当。

■だれでも気軽に利用できるニュートラルな店に

長崎市の観光名所の一つ、新地中華街。そんな異国情緒漂う飲食街と同じ町内に「square coffee&bake」はあるが、店の周辺はマンションやアパート、雑居ビルなどが建ち並ぶ、ローカルな雰囲気。車道に面さず、マンションの間の路地にあり、店の存在を知らなければ、見落としてしまいそうだ。そんな目立たない立地ながら、客は次々と訪れる。

「今まで、KARIOMONS COFFEE ROASTERさん、Atticさんで働いてきて、コーヒーショップって本当にさまざまな人が訪れる場所だと実感したんです。だから、自分で店をやるなら、どなたでも気軽にフラリと立ち寄れるようなオープンな店にしたいと思いました」とオーナーバリスタの伊藤千晶さん。

その言葉通り、ファサードは一面ガラス張りで、通りに開けた造り。外からも様子がわかる店内は白と木目で統一されており、シンプルだ。

ドリンクもドリップコーヒー(450円)、水出しコーヒー(450円)、ラテ(500円)といったコーヒー系以外に、ルイボスティー(350円)、ホットレモネード(400円)、ミックスベリーソーダ(400円)などを用意し、コーヒーが苦手な人の選択肢も豊富。子供はどのドリンクを注文しても150円引きに設定しているのは、自身も子育て中である伊藤さん夫妻らしい心遣いだと感じた。

■産地や品種による違いを、味わいを通して

2022年5月現在、店で使用しているコーヒー豆はブラジル パッセオ農園、エチオピア イルガチェフェの2種。豆は前職で勤めていたAtticから仕入れている。焙煎度合いはともに中煎りとほぼ同じながら、ブラジルはナッツやチョコレートを思わせる香ばしいフレーバー、エチオピアはナチュラル(※1)由来のフルーティーさと、味わいがガラリと異なる。千晶さんは「私自身、最初にスペシャルティコーヒー、しかもシングルオリジンを飲んだ時、産地や生産処理の仕方で、こんなに味わいが変わるんだっていう発見があり、それもまたコーヒーの世界に引き込まれた理由の一つになりました。当店をご利用いただくお客様にも、そんな出合いをしていただけたらうれしいです」と話す。

ドリップコーヒーは2種の豆からセレクトでき、エスプレッソにはミルクとの相性が良いブラジルを採用。豆の個性を理解した上でのセレクトで、さらに水出しコーヒーはブラジルをベースにエチオピアを少量ブレンドするなど、随所にバリスタとしてのこだわりが光る。

「水出しコーヒーはアイスで飲んでいただくので、華やかさも少しプラスしたかったんです。ちょっとしたことですが、コーヒー好きの方にもご満足いただけるような工夫はこれからも考えていきたいです」(千晶さん)

■おもしろいことが交わる広場のような場所に

ショーケースに陳列された焼き菓子やパンもすべて自家製。スコーン、パウンドケーキ、カヌレ、さらにはフォカッチャ、ピザパンなど、並ぶ商品は日によって変わるが、大体1日10種程度を作っているそう。自家製酵母を使うパン、焼き菓子ともに、素材本来の味わいを大切にしており、コーヒーとの相性も良い。持ち帰りの場合、焼き菓子やパンのみの購入もOKで、実際、そのように利用する客も多いという。

また、「square coffee&bake」から長崎港に面した長崎水辺の森公園、長崎県美術館なども比較的近い。コーヒーやパンなどをテイクアウトして、海を眺めながら、屋外で楽しむのも良さそうだ。

まだまだ店がオープンしてから3カ月程度だけに、伊藤さん夫妻はやりたいこともたくさんあるそう。「『square』という屋号には“広場”という意味を込めています。店内の壁を真っ白に、そしてできるだけ余計なものを置かなかったのは、今後を考えてのこと。今はまだ、店を始めたばかりでいっぱいいっぱいになっていますが、日々の営みに慣れて、少し余裕が出てきたら、例えば、店の壁をギャラリーのように使ったり、ポップアップを企画したり、いろいろなことにチャレンジしてみたいと思っています。そういったおもしろい“こと・人・もの”が交わるような場所にしていきたいですね」(千晶さん)

■千晶さんレコメンドのコーヒーショップは「KARIOMONS COFFEE ROASTER」

「KARIOMONS COFFEE ROASTERは私をコーヒーの世界に導いてくれた存在で、いわばターニングポイントとなった時間を過ごさせていただいた場所。コーヒーの味わいはもちろん、デザイン性、取り組みなどたくさんの刺激をいただけますし、なによりオーナーの伊藤さんの生産者さんとの付き合い方、考え方はとてもすてきです」(千晶さん)

【square coffee&bakeのコーヒーデータ】

●焙煎機/なし

●抽出/ハンドドリップ(Kalita ウェーブドリッパー)、エスプレッソマシン(SIMONELLI Appia Life V 1Gr)

●焙煎度合い/中煎り

●テイクアウト/あり

●豆の販売/100グラム800円〜

※1…収穫したコーヒーの実を、そのまま果肉がついた状態で天日干しする方法

取材・文=諫山力(knot)

撮影=大野博之(FAKE.)

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※記事内の価格は特に記載がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。

たまに、ふと寄りたくなる。そんな何気ない日常に溶け込む店を目指して。「square coffee&bake」