政府が産業競争力会議で検討している、いわゆる「残業代ゼロ法案」にマスコミから批判が集まっている。しかし、同じ場で検討されている「紛争解決システム」については、あまり報じられていない。

だがこちらの論議も残業代ゼロに劣らず、大手マスコミ労働組合から「正社員のクビをカネで切るというのか!」と批判されそうな制度なのだ。

大企業の正社員」が有利すぎる現行制度

5月28日、政府が開催した産業競争力会議において、長谷川閑史民間議員と厚生労働省が、新しい労働時間制度についてそれぞれ見解を示した。

大きく異なるのは、労働時間規制の適用を除外する「対象職種」だ。長谷川案では「一定の責任ある業務・職責を有するリーダープロジェクト責任者等」とするのに対し、厚労省案では「成果で評価できる世界レベルの高度専門職」と、対象をより狭めている。

「働き方改革」を早期に推し進めようとする長谷川氏と、現行制度の枠組みの中で段階的・限定的に働き方を変えていきたいと目論む厚労省との違いが強く現れた形だ。

一方、両案に含まれている「予見可能性の高い労働紛争解決システム」の提案には、大きな違いがない。いずれも労使トラブルを解決するルールを「明確で」「予見可能性の高いもの」に変えようというものだ。

現行の労使トラブルの解決方法としては、現在「あっせん」と「労働審判」「裁判」という3つがある。この制度について、現状では勤務する会社の規模によって大きな格差があるという指摘がある。

大企業の社員は労組という盾に守られ、トラブルがあっても多額な補償を勝ち取りやすい。一方で、中小企業の社員はそうした支援が受けられず、泣き寝入りに近い状況が少なくないというわけだ。

勤続年数や職位で「解決金の相場」を決定

規制改革会議委員・雇用ワーキンググループ座長を務める鶴 光太郎氏も、3月3日号の雑誌プレジデントでこう批判している。

大企業の労働者が労働組合サポートを受けて裁判に訴えると、時間はかかるが大きな金額を取ることができる一方、労働組合のない中小企業で働く労働者が裁判を起こすのは難しく、いちばん手軽なあっせんを利用すると解決までの時間は早いものの金額は非常に少なくなる」

今回の会議に提出された長谷川案にも、「労働審判制度の利用者調査」(2013)として、各手段に訴えた場合の目安の金額が掲載されている。

「あっせん」(都道府県労働局)/約17.5万円
「労働審判」(裁判所)/約100万
「訴訟(和解)」(裁判所)/約300万円

あっせんと訴訟では、280万円もの違いだ。こうした格差を是正するために導入が検討されているのが、裁判という手続きを経ずに落としどころを決めることができる「予見可能性の高い紛争解決システム」だ。

詳細は会議資料に書かれていないが、要するに会社と労働者双方が納得する解決金額の「相場」を決めてしまおうというものと見られる。

経済界が導入を早めたい理由

米国、英国、ドイツなど先進国で多く採用されている制度は、「勤続年数5年ならいくら」「これくらいの職位ならいくら」というように金額を決め、スピーディーに労働紛争を解決する仕組みだ。

これが導入されれば、いままで労働審判や裁判までコストをかけられなかった中小の社員も、解決金を主張しやすくなる。これで泣き寝入りせずに済む人も出てくるという期待もある。

しかし大企業の社員にとっては、解決金の「相場」が明らかになった分、解雇される可能性が高まるといえるかもしれない。特に、正社員という身分と労組という盾に守られた大企業の「ノンワーキングリッチ」(働かずに高年収を得ている労働者)にとってはリスクとなる。

労働人口の急減に備え、経済界には労働者一人ひとりの「労働生産性を高める」という大目標がある。28日の会議で厚労省は「我が国の実情に即した対応について幅広く検討」と言葉を濁したが、長谷川案では「検討スケジュールを明示して1年以内をメドに結論を出すようにすべき」と導入に強い意欲を示している。

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