E259系成田エクスプレス」イメージ(写真:鉄道チャンネル編集部)

前半は低温や雨天の日があったものの、後半はおおむね天候に恵まれた2022年のゴールデンウィーク(GW)。3年ぶりで移動制限がなく、JRグループ旅客6社や大手私鉄の輸送実績は前年を大きく上回ったようです。本サイトをご覧の皆さんは、どのようにお過ごしでしたでしょうか。

私がGW中に〝乗り鉄〟したのは、JR東日本成田エクスプレス(N’EX)。N’EXは八王子、池袋、新宿、大船発、東京を経由して成田空港を結ぶ空港特急ですが、出かけたのは海外でなく千葉県香取市の農園リゾート。コロナ禍でブームになったソロキャンプ、そして豪華版のグランピングを体験しました。

一般には「クルマでキャンプ」ですが、宿泊場所や食材が用意されるクランピングなら鉄道利用も全然OK。本稿前半では成田空港の鉄道アクセスと、1991年のデビューから昨年で30周年を迎えたN’EXの歩み、後半で「電車でキャンプ」をルポします。

開港時は京成東成田駅が「成田空港駅」だった

まずは成田空港の鉄道アクセスやN’EXの歴史から。空港開港は1978年5月ですが、当初は直行の鉄道アクセスがありませんでした。京成電鉄は現在の東成田駅が終点。出発客は、そこから有料のアクセスバスに乗り換えて空港にむかいました。

なぜ京成は空港に入れなかったのか。一番の理由は、国鉄の成田新幹線が空港直下に乗り入れることになっていたからです。

1974年に着工したものの国鉄改革で失効(成田新幹線)

現在、成田空港(または空港第2ビル)からN’EXやJRの列車に乗車すると、しばらくの間高架上を走り、やがて大きくカーブしながら地上に降りて成田駅に入ります。

この高架区間こそ、かつて日本鉄道建設公団(鉄道建設・運輸施設整備機構の前身です)が、成田新幹線用に建設した鉄道施設です。成田新幹線東京駅と空港を結ぶ約65キロの新幹線で、東京駅から越中島、原木中山、千葉ニュータウンなどを経由して空港にいたるルートが考えられました。

土屋付近を走行するE259系・N’EX。右側の高架は鉄道公団が成田新幹線用に建設した施設で、京成の成田スカイアクセス線が走ります。JRはスカイアクセス線をアンダーパスでくぐり、成田駅に入ります(筆者撮影)

政府は1971年全国新幹線鉄道整備法にもとづく整備新幹線の一つとして基本計画を決定。鉄道公団は翌1972年、運輸大臣から工事実施計画の認可を受け、2年後の1974年東京駅側、空港側の双方から着工しました。

しかし、沿線に騒音や振動を心配する声が起こり、用地買収が進まない中で国鉄の経営が悪化し、1985年に工事凍結。1987年国鉄からJRへの移行に合わせ、公団が受けた認可は失効しました。

成田新幹線の施設は空港側、東京駅側の双方で有効活用

まぽろしに終わった成田新幹線の後日談。鉄道公団が東京駅側、空港側それぞれで着工した施設に新幹線が走ることはありませんでしたが、現在は双方とも有効活用されています。

空港側、成田空港―土屋(地名)間8.7キロの施設には、前章で紹介したJR成田線の空港乗り入れ線(JR成田線の支線)、さらには2010年に開業した、京成高砂と成田空港を結ぶ京成成田スカイアクセス線が走ります。

京成成田スカイアクセス線土屋付近を走る3100形電車。2019年にデビューした通勤型電車で、空港アクセス車両らしく荷物置き場に転用できる折りたたみシートなど新機軸を採用しました。スカイアクセス線については機会をあらためて紹介したいと思います(筆者撮影)

東京都庁、現在の東京国際フォーラム南側地下に建設された東京駅側の施設は、民営化後にJR東京駅京葉線ホームなどに活用されています。

JRの成田空港乗り入れでデビューしたN’EX

N’EXの歴史もたどります。デビューは1991年3月。JR成田空港駅の開業と同時に運転を開始しました。初代車両は253系特急電車。空港アクセス専用車として開発、「価値ある移動空間」が基本コンセプトでした。

253系特急電車イメージ(写真:Jun Kaida / PIXTA)

編成は、グリーン車1両と普通車2両の3両固定編成。東京駅で新宿方面と横浜方面の列車を分割・併合するため、先頭部に設置された自動貫通ホロが、ファンに注目されたことをご記憶の方もいらっしゃるでしょう。

253系電車は2009年以降、E259系にポジションを譲り、空港特急からは引退しましたが、新宿駅と東武日光駅・鬼怒川温泉駅を結ぶダイレクトアクセス特急「日光号」や「きぬがわ号」に持ち場を変更。長野電鉄への譲渡車は2100系電車を名乗り、愛称名「スノーモンキー」として、北陸新幹線からの乗り継ぎ客などを湯田中温泉や観光地の小布施に運びます。

2022年3月ダイヤ改正では千葉駅停車の列車を拡大

後継のE259系特急用電車にも触れます。253系で確立されたN’EXのイメージを引き継ぎながら、さらにハイレベルのデザインを追求。多くの訪日外国人は日本で初めて乗る列車がN’EXで、車内空間に日本文化の雰囲気を演出しました。E259系253系より長い6両編成で、東京―成田空港間は2本を連結した12両編成を基本に運用されます。

ここでワンポイント、N’EXの最新ニュース。といってもソースは2022年3月ダイヤ改正ですが、JR東日本は途中の千葉駅に停車する列車を増やしました。空港アクセス特急に「千葉エリアと東京、横浜をつなぐ列車」の機能を加え、ビジネスマンにも〝N’EXファン〟を増やす趣旨です。

総武線津田沼駅付近(快速線)を走行するN’EX。2021年10月には品川駅に停車した列車を〝臨時シェアオフィス〟に利用する実証実験「N’EXでテレワーク!」が鉄道ファンに話題を呼びました(筆者撮影)

JR佐原駅と成田空港の間にある農園キャンプ場

ザファームのテントサイト。サイト脇には深さ30センチの川が流れ、近くにはコテージもあります(写真提供:ザファーム)

ここからはN’EXでキャンプのルポ。ソロキャンプグランピングを体験させていいただいたのは、香取市の「ザファーム」(企業名はカタカナ、施設名はTHE FARM)です。2013年のオープンから10年目。香取市は水郷でしられる利根川沿いの街ですが、ザファームがあるのはJR成田線佐原駅の15キロほど南側。佐原駅と成田空港の中間地点から東寄りに位置します。

ザファームは鉄道の沿線外で、多くの方はクルマを利用しますが、施設インフォメーションに問い合わせたところ、成田空港発着の路線バスがあるそう。そこで、空港までN’EX、空港からは千葉交通の路線バスを乗り継ぐ、公共交通ルートで目的地に向かいました。

千葉交通は以前から、空港と香取市を結ぶ路線バスを走らせていましたが、2020年から一部の便がザファーム乗り入れを始めました。現在はコロナで状況が変わりましたが、成田空港に降り立つ訪日外国人に香取市を訪れてもらうねらいです。

ザファームに到着した千葉交通のバス。路線バスは今のところ成田空港線だけですが、ザファームは東京駅・浜松町―銚子線の高速バスから乗り継ぐ無料シャトルバスを走らせます(筆者撮影)

成田側のバスターミナルは空港第2ビル。空港発1日5便、ザファーム発同3便のダイヤです。空港からザファームまでは、片道約40分の行程。途中の集落に立ち寄りながら目的地に向かいます。

リニューアルでサウナがオープン

ザファームは、東京ドーム3つ分弱の約12ヘクタールキャンプサイト、コテージ、天然温泉、農園(野菜収穫体験)などがあり、開園以来のべ来客数は25万人。2022年のGWにあわせて、天然温泉をリニューアルし、農園で収穫された野菜料理を味わえる「おふろcafe」をオープンしました。

リニューアルで誕生したのがサウナ。男女一緒に楽しめるサウナガーデンは、水着で入るサウナ室や広々としたテラスの外気浴ゾーンを備えます。テラス中央には、子どもが遊べるトランポリンの「ふわふわドーム」も。

〝和食カフェ〟をコンセプトにした食事も魅力の一つです。ザファームの農園でとれた野菜を使った料理やスイーツが提供されます。ラウンジには暖炉、コーヒーの無料サービスも。

ということで、「N’EXでグランピング」のリポートは以上。成田・香取エリアには、ほかにもさまざまなスポットがあるので、鉄道ファンの皆さんは海外旅行以外の目的でも乗車する価値がありそうですね。

記事:上里夏生