5月は、「消費者月間」です。毎年この時期になると、国や事業者などが「消費者問題」に関する啓発活動を行います。例えば、新型コロナウイルスの流行以降、インターネットを通じて商品を購入したり、サービスを契約したりする人が、これまで以上に増えており、ネットを使い慣れていない人が、トラブルや被害に遭遇するケースもあるようです。また、4月に成年年齢が18歳に引き下げられたことで、18歳の人が、商品の購入時やサービスの契約時にさまざまなトラブルや被害に遭遇するケースも考えられます。

 消費に関して、どのようなトラブルや被害が増えているのでしょうか。対策などについて、消費生活アドバイザーの池見浩さんに聞きました。

SNS関連のトラブルが急増

Q.そもそも、国や自治体などが言う「消費者問題」とは、どのようなことを指すのでしょうか。また、事業者と消費者の定義について教えてください。

池見さん「消費者問題とは、事業者と消費者との商品・サービスの契約において、『製品を使用してけがをした』『商品やサービスを自由に選択できない』『表示・説明が分かりにくい』など、消費者基本法で定められている『消費者の8つの権利』が侵害されることです。事業者には、自身の商品・サービスや契約に関する知識・情報が十分ありますが、消費者は事業者ほど知識や情報を持ち合わせておらず、事業者と消費者との『知識・情報・交渉力の格差』が、消費者トラブルの原因です。そこで、トラブルを回避するには、互いに格差を減らす努力が求められます。

ところで、消費者契約法では、事業のために契約の当事者になる法人・団体・個人を『事業者』、それ以外の人を『消費者』と定義しています。『事業』とは、取引を繰り返して収益を得ることです。例えば、フリーマーケット(または、フリマアプリ)で、自分の不用品を数点販売する程度であれば事業ではありませんが、毎月数十点の物品を繰り返し販売したら、事業者と言えます。

また、マルチ商法に勧誘されて契約しただけなら消費者ですが、支配的な立場で多くの人を加入させたならば事業者です。このほか、起業を検討している人が、起業セミナーを受けただけでは事業者になりません」

Q.新型コロナウイルスの流行以降、消費に関して、どのようなトラブルや被害が増加しているのでしょうか。注意すべきトラブルや被害の特徴も含めて、教えてください。

池見さん「コロナ禍での外出自粛の影響もあり、2020年以降、家計でインターネットによる支出(主にネット通販による支出)が増加しています。食事配達サービスの浸透などもあり、より幅広い世代でのネット通販の利用が拡大したと思われます。

その一方で、『定期購入とは知らなかった』『解約するために業者に電話をしたが、つながらない』『代金は振り込んだが、商品が届かず業者と連絡が取れない』『規約をよく読んでいなかった』などのトラブルが多発しています。

また、外部との連絡や情報入手の手段としてSNSがより多く活用されるようになり、2020年のSNS関連の消費生活相談件数は、2019年の約1.6倍に急増しました。例えば、コロナ禍で減った収入を補おうと副業サイトに登録し、その後、担当者からLINEなどで説明・勧誘されて、違法な海外FX投資のマニュアルや高額なサポートサービスを契約させられた事例や、SNSのDM(ダイレクトメッセージ)を通じて友達登録した相手と実際に会ったところ、高額な商品やセミナーの契約をさせられた事例などがあります。

このほか、『トイレの詰まりの緊急修理で高額請求された』など、緊急出張サービスのトラブルも、在宅時間の増加とともに増えています」

Q.4月から成年年齢が18歳に引き下げられましたが、今後、商品の購入時やサービスの契約時にどのようなトラブルや被害が想定されるでしょうか。

池見さん「成年年齢になれば、自分名義のクレジットカードや消費者金融、スマホ、ネット通販、エステティックや美容医療、賃貸マンションなど、未成年ではできなかった商品・サービスの契約が自分だけの判断で可能になります。

ただし、18歳になっても、急に大人と同じレベルの知識や判断力、交渉力、人生経験は身に付きません。その未熟さ・経験不足により、クレジットカードの使い過ぎで多重債務に陥る事例や、契約内容を十分理解できないまま、断れずに契約してしまうトラブルが、実際に20代前半の人たちの間で多発しており、成年年齢の引き下げにより、今後、若い人たちがトラブルに遭うケースがますます増えることが懸念されます。

17歳までは、法定代理人(親権者または未成年後見人)の承諾がない契約を取り消して保護する『未成年者契約の取り消し』(民法5条)が適用されます(法定代理人が渡した小遣いの範囲内で契約した場合や、契約時に年齢を詐称した場合は除く)。しかし、18歳になった時点で適用されなくなるため、トラブルや被害に遭った際は、本人が自ら交渉し解決しなければなりません。

業者側にとっては、未成年者契約の取り消しのリスクがなくなるので、現在、大学などで横行している悪質なマルチ商法や悪質商法(主に高額な投資セミナーや副業セミナー)の勧誘が、友人やアルバイト先、SNSを通じて、18歳の高校3年生にも及ぶことが危惧されます」

被害に遭いやすい年代は?

Q.消費に関するトラブルや被害に遭いやすい年代について、教えてください。トラブルや被害に遭いやすいのは、10代、20代の若者だけではないのでしょうか。

池見さん「一般的には、先述のように知識や判断力、交渉力、人生経験が十分ではない10代から20代の若者のほか、年齢による判断力の低下や情報入手量の少なさによって、高齢者が被害に遭いやすいと考えられています。

高齢者は現役世代より在宅率が高いため、自宅への訪問や電話での勧誘によるトラブルが多く見られるほか、平日の日中に消費生活センターに相談しやすい面も、相談件数が多い要因と考えられます。

一方、消費者庁の検討会が2018年に若者向けに実施したアンケートによると、19歳から22歳の人のうち、商品やサービスを契約後、『誰にも相談していない』と回答した人は約6割に達しました。口コミサイトやSNSでの情報交換、友人との会話で処理してしまい、消費生活センターに相談した人は少ない状況です。隠れた被害者が多く潜在していると考えられます」

Q.消費に関するトラブルや被害に遭遇しないための対策や、トラブルや被害に遭遇してしまった場合の対処法について、教えてください。

池見さん「日頃から次の5つのポイントを心掛けるとよいでしょう。

(1)商品・サービスの内容や契約条件は隅々まで確認する
(2)勧誘を受けてもその場で契約せず、別の場所で頭を冷やして検討する
(3)説明や勧誘を受ける際は、5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)を意識しながら情報を整理する
(4)よく分からない内容や仕組み、将来を確約するような契約には手を出さない
(5)消費者庁や国民生活センター、地元の消費生活センターの公式サイトやSNSなどで情報を収集しておく

同じようなトラブルでも、一つ一つ状況や解決方法が異なります。ネットの口コミには間違った情報もあるので、うのみにすると危険です。トラブルに遭ったら、すぐに消費者ホットライン(局番なし188)に相談してください。相談前に、関連するWEBサイトやSNSのトーク画面をスクリーンショットで保存し、相手から受け取った書類も手元に準備しましょう。また、トラブルの経緯(いきさつ)を、時系列で書き出しておくとスムーズに相談ができます。

なお、消費者庁がホームページ上で公表している資料(『リスキーな心理傾向』を測るチェックシート)を使って、自分のだまされやすさを確認しておくこともおすすめします」

オトナンサー編集部

商品やサービスを契約するときは慎重に