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EVレースシリーズへの「電撃」参戦

F1で華やかさと過激さを体現するチームといえば、マクラーレン・レーシングだろう。ノーマンフォスターの設計によるテクノロジー・センターや、壮大なブランドセンター、そしてチームの繊細さを思い浮かべてほしい。

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2016年にロン・デニスが代表の座を降りてから状況は変わり、新リーダーのザク・ブラウンのもと、よりオープンでリラックスしたイメージ作りを目指している。そんな彼らが、埃っぽいサウジアラビアの砂漠の真ん中で無骨なテントを立てている姿を見ると、かなりのカルチャーショックを受けるであろう。傍らに置かれたパパイヤオレンジの電動SUVは、かなり奇妙なものに見えるはずだ。

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マクラーレン・レーシングは、メルセデスEQフォーミュラEチームを買収し、来期(シーズン9)からフォーミュラEに参戦すると発表した。

マクラーレン・レーシングが気候変動の影響を訴えるために、人里離れた場所を走る電動SUVのレースシリーズ、エクストリームEに参戦するという衝撃的な発表について、ブラウンは「さぞかし、みんなを驚かせたでしょうね」と笑う。これはF1以外のモータースポーツ活動に踏み出したマクラーレンの、最初の一歩にすぎない。来年にはフォーミュラEにも参戦するのだ。

しかし、なぜ?

マクラーレンには、勇敢で革新的なことを行ってきた歴史があります」と、ブラウンフォーミュラE参戦発表前に行われたインタビューで語っている。

ニュージーランド出身のレーシングドライバー、ブルース・マクラーレン1963年にチームを設立し、オーストラリアのタスマン・シリーズに参戦。その活動はすぐに多角化した。

「初期にはF1、インディカーカンナム(CanAm)など、さまざまなレースに参加しました。マクラーレン・レーシングの仕事はレースであり、F1チームをチーム構成の面で軌道に乗せた今、レース事業を拡大し始める時期だと思いました」

それでも、かなりの変化だ。1980年代1990年代の隆盛期には、純粋にF1だけに焦点を合わせていた。状況が変わり始めたのは2017年、フェルナンド・アロンソとともにインディアナポリス500に復帰したときだ(マシンはアンドレッティ・オートスポーツが走らせていた)。2年後、今度はカーリンと組んで参戦。そしてアローシュミットピーターソン・チームと2020年シーズンで提携し、昨年、インディアナポリスに本拠を置くチームの経営権を取得したのである。

ハイレベルなシングルシーターレースであるインディカーは、マクラーレンにとって理にかなったシリーズであり、特に米国でのマーケティングに活かすことができる。フォーミュラEも同様で、メルセデス・ベンツのチームを買収する絶好の機会と、第2世代のマシン(Gen2)にマクラーレンアプライドテクノロジーズがバッテリーを供給していることを考えれば、参戦は自然なことと言えるだろう。

しかし、エクストリームEはどうだろう?ターマックにおける華麗かつ繊細な走りで有名なチームが、電動SUVオフロードレースで何をしようとしているのだろうか?

マクラーレンが砂漠を走る?

「我々にとって、サステナビリティは非常に重要です」とブラウン。2011年にF1初のカーボンニュートラル認定を受けたことに触れ、「エクストリームEとマクラーレンのコアバリューの組み合わせは魅力的で、ブランディングの観点からも関わりたいレースシリーズでした」と語る。

「我々は、ショーケースであり教育や学習にもつながるプラットフォームを求めていました。エクストリームEは、サステナビリティの分野でマクラーレンが行っていることを強調する、F1以上のプラットフォームなのです。また、ジェンダー平等も大きなテーマでした。エクストリームEは、気候変動、EV、ジェンダー平等など、複数の要素が含まれていると感じたのです」

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エクストリームEのマシン、スパークオデッセイ

外的要因もある。エクストリームEではどのチームも主催者からマシンを借り、人員とコストに厳しい制限が設けられているため、コスト効率に優れている。

ブラウンも、F1の新しいコスト上限と人員制限が「一因」であることを認めている。なぜなら、失っていたかもしれないメカニックエクストリームEチームで雇うことができるからである。例えば、ランド・ノリスの前エンジニアは、現在電動SUVの整備を担当している。マクラーレンエクストリームメカニックの大半はF1チーム出身者だ。

経験豊富なスタッフばかりだが、さらなる専門家の助けも得ている。ベテランのモータースポーツ企業であるマルチマティック社とパートナーシップを結び、ラリー界を代表するエンジニアのリーナ・ゲイドが主任エンジニアを務めているのだ。また、オフロード走行の経験豊富なドライバーを2人採用した。ラリークロスの米国スター、タナー・ファウストキウイ出身のラリードライバー、エマ・ギルモアである。

チームの初陣となったDesert X-Prixでは、大きな期待が寄せられた。序盤は苦戦したものの、いわゆる「クレイジーレース(敗者復活戦)」ではファウストギルモアのコンビが勝利を収める。しかし、最終レースではファウストが砂埃で視界を遮られ、減速していた他車にクラッシュしてしまった。

F1マシンとエクストリームEのSUVは全く異なる乗り物だが、ブラウンによれば、パドックで学んだスキルを電動オフロードシリーズにも活かせるという。「準備、技術、データ分析、そして最高のドライバーを持つことがすべてです。クルマの機械的な要素は異なりますが、考え方は同じです」

ファンの反応に期待 いずれは市販EVも……

エクストリームE、そしてフォーミュラEへの参戦がマクラーレンにとって奇妙な決断に見える理由の1つは、市販車部門からEVもSUVも販売されていないことにある。しかしブラウンは、次のように述べている。

「(両シリーズは)マクラーレン・レーシングが取り組むべきことであり、マクラーレン・オートモーティブの取り組みを損なうものではありません。そして、絶対とは言いませんが、いずれは市販EVが登場すると確信しています」

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マクラーレン・レーシングCEOのザク・ブラウン

さらにブラウンは、レーシングチームであれ市販車部門であれ、マクラーレンのファンはこうした取り組みに興奮するであろうと考えている。

マクラーレンを買う人はモータースポーツが好きですから、単なる遊びではありません。我々はレーシングチームであり、レーシングブランドでもあり、レースをすればするほど魅力につながっていくのです」


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