1960年にパリで初演されて以来、世界中で幾度となく再演され、日本でも何度も上演されてきた傑作コメディボーイングボーイング』が自由劇場で上演中だ(~5月29日まで。6月3日~5日は京都劇場にて上演)。
ここでは、開幕して間もない熱気溢れる公演の模様をお届けしよう。

アテンションプリーズ! と始まる機内アナウンスならぬ開演前アナウンスから、物語の世界へフライトしていくワクワク感を得られる本作。
舞台は1960年代のパリ。建築家のモテ男・ベルナール(室龍太)が住むアパルトマンは、モンドリアンの「コンポジション」を基調としたようなカラフルな壁とドア、そしてアンディ・ウォーホルを想起させる絵、ビビッドな色の家具など、ポップでおしゃれな空間が印象的だ。
そんなモダンな美意識が詰まった家で、ベルナールがアメリカ人のフィアンセ、ジャネット(大友花恋)と逢瀬を愉しんでいると、旧友で色恋とは無縁そうな男子・ロベール(福田悠太/ふぉ~ゆ~)が田舎から訪ねてくる。

 (C)木村直軌

 (C)木村直軌

ジャネットを紹介されたロベールだったが、実はベルナールのフィアンセは彼女だけではなかった。彼女を含め、三ヵ国のキャビンアテンダントと「婚約」していたのだ。フランス人のジャクリーン飯窪春菜)、ドイツ人のジュディス(愛加あゆ)、全員が国際線キャビンアテンダントなので、 スケジュールをうまく組めば、バレずに3人との関係を続けられるのだ、と豪語するベルナール。そんな関係性を疑問視するロベール

時間差で入れ替わり立ち替わり現れるフィアンセたちだったが、急なフライトの変更により、予想外に同じ時間にベルナールの家に集合してしまうことに……。
どうにか彼女たちの鉢合わせを防ぎたいベルナールは、ロベールや家政婦のベルタ松本明子)を巻き込んでこの場を取り繕うと四苦八苦。

まさかの“勘違いキス”から恋愛に目覚めたロベールと、三人との関係を成立させたいベルナールの、抱腹絶倒のドタバタ劇が膨大な台詞と共にテンポよく展開していく。

 (C)木村直軌

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■福田悠太(ふぉ~ゆ~)の抜群のコメディセンスが光る

飄々としてどこか掴めない、ロベール役を演じる福田の抜群のコメディセンスが観ていて小気味いい。友人の修羅場をなんとか回避させようと、舞台上を所狭しと動き、時にはあまりにも予想外な挙動不審な動きを発動するので、その度に客席からは(笑い声の代わりに)大きな拍手が起きる。笑わずにいることの方が難しく、つい一挙手一投足目で追ってしまいたくなる。芝居巧者のコミカルな演技は見ごたえたっぷり。

二枚目のモテ男・ベルナールを演じる室は、奥手なロベールとは対照的でキザな仕草がいちいち似合い、女性たちが言い寄ってくるのも納得の色男ぶり。「一夫多妻制」を望み、3人の女性と同時に付き合うプレイボーイの軽薄さを軽やかに演じている。膨大な台詞量を矢継ぎ早に放つエネルギーも印象的で、福田とのコンビネーションやフィアンセ役の女性陣との掛け合いも本作の見どころである。

 (C)木村直軌

 (C)木村直軌

ルナールの3人の婚約者たちも、実に個性豊かでキャラが立つ女性ばかり。とにかく皆テンションが高いのだが、キャビンアテンダントである彼女たちからは、花形の職業に就いているという自負やプライドがビシバシ伝わってくる。ロベールとベルナールでなくとも圧倒されるパワフルさだ。

アメリカ人のキャビンアテンダント、ジャネット役の大友花恋が魅せる、現実的な感性を持つ“魔性の女”ぶりは、物語の後半の展開も含めて見どころのひとつ。

飯窪演じるフランス人のCA、ジャクリーンはコケティッシュな魅力を振りまく。ピンク色のかわいらしい制服が、よりジャクリーンのキャラクターを引き立たせている。

そして愛加演じるドイツ人のCA、ジュディスは、真っ赤な制服を纏いバーーン! と勢いよく扉を開けて登場するシーンから、一気に華やかな空気を劇場に吹き込む。
3人の中でも、ジュディスは最もエネルギッシュでコミカルなキャラクター。常に全力のオーバーリアクションで感情豊かな姿には思わず笑ってしまう。愛加の思い切りのいい芝居が痛快だ。後半に描かれる、福田ロベールとの掛け合いも絶妙で、二人の「笑いの相乗効果」が発揮されているシーンとなっている。

 (C)木村直軌

 (C)木村直軌

ルナールの家政婦、ベルタの存在も忘れてはならない。
ルナールの“三重生活”に心身共に振り回されるベルタを、松本が人間味溢れるキャラクターとして魅せる。なんとか修羅場を回避させたいロベールと連帯していく姿も可笑しみに溢れ、思わず応援したくなる愛らしい人物像を活き活きと演じている。

今、物語の中で(ドラマや映画、小説等含めて)「恋愛をどう描くか」というのは大きな課題にもなっていると思うのだが、女性の逞しさが印象に残る作品という意味で、今の時代に観ても鮮やかさのあるラブコメになっているように感じた。
男たちの“ほろ苦い”エンディングから一変、ミラーボールが回る中、「Can't Take My Eyes Off Of You」の曲に乗せて出演者が踊り、客席も手拍子で盛り上げ一体感を感じられるカーテンコールの時間は、サプライズのプレゼントのようなうれしさがあった。キラキラ感と多幸感に溢れたこの時間も含めて、“快適なフライト時間”を満喫させてもらった。

取材・文=古内かほ

『ボーイング・ボーイング』