脳と腸に密接な関係があることはよく知られているが、腸内細菌は脳の緊急事態をも伝えてくれているようだ。
脳しんとうは、頭部への衝撃を受けたことで生じる、意識消失や意識障害、記憶障害、けいれんなどの神経の機能的変化のことだ。だが脳に明らかな損傷が見受けられないため、その診断が難しいという。
新しい研究によると、脳しんとうを起こすと腸内細菌が変化することがわかったという。これを利用すれば脳しんとうの診断ができ、更に回復具合を確認することもできるという。
頭部に強い衝撃を受けたとき、頭蓋骨の骨折や脳の腫れなどがあれば、レントゲン写真やCTスキャンで診断することはできる。
しかし、神経細胞レベルで生じ、脳の構造に明らかな損傷が見当たらない脳しんとうは、そう簡単に診断がつかない。
医師はめまい、視界のぼやけ、吐き気などがないか患者に問診して診察することもあるが、これも必ずしも上手くいかない。
本人が症状に無自覚ということもあるし、特に激しいスポーツの世界ではベンチ入りしたくない選手が隠すことすらあるからだ。
脳しんとうの影響で、何か生物学的な変化が生じているのなら(これを「バイオマーカー」という)、それをもとに客観的な診断を行えるようになるだろう。
たとえば脳に損傷を受けると、血液に含まれるタンパク質に変化が現れることが知られている(2018年、アメリカ食品医薬品局が検査法として承認)。同様に、唾液や尿に基づく検査も有望だ。
脳しんとうで腸内細菌が変化することが判明
アメリカ、ヒューストン・メソジスト研究所による最新の研究では、腸内細菌叢(腸内に棲息している細菌の集まり)の変化から、脳の傷のサインを読み取ることができないか探られている。
そのために研究グループは、大学アメフトの選手33人をワンシーズン観察し、血液検査・検便・唾液検査とあわせて、腸内細菌叢を調べてみた。
その結果、脳しんとうを起こすと、一般に健康な成人には豊富にいるはずの細菌2種が減少することが明らかになった。
さらにそうした細菌と脳の外傷で変化する血液のタンパク質が関係していることも突き止められた。
腸内細菌の変化が脳しんとうの判断に役立つ
奇妙な関係だが、研究グループの推測によれば、脳しんとうで炎症が起きた結果、そのタンパク質が体内に広まり、腸内細菌叢に影響している可能性があるという。
こうした結果を総合的に考えると、腸内細菌叢の変化は、脳しんとうを客観的に診断するバイオマーカーとして有望であるとのこと。
それだけでなく、怪我からの回復具合の確認にも使えると考えられるそうだ。
患者がどんなに大丈夫と口にしても、腸内細菌がもとに戻らない限り回復したとは言えない。「腸は嘘をつかない」と、研究グループは語っている。
この研究は『Brain, Behavior, & Immunity―Health』(2022年3月1日付)に掲載された。
References:Study links concussion to changes in gut bacteria / written by hiroching / edited by / parumo
コメント