軽妙なトークでバラエティ番組に引っ張りだこのピアニスト・清塚信也。彼がMCを務めるテレビ朝日の番組「キヨヅカライザー 〜音楽考察バラエティ〜」(毎週金曜 深夜2:40-)が4月からスタートした。ミュージシャンをゲストに招き、視聴者からSNSに投稿されるようなサビだけの短い楽曲を募集し、音楽について分析・考察する内容であるが、清塚は「専門用語や難しい言葉を使わないように気を付けている」と心がけを明かした。また清塚は、様々なバラエティ番組に出演する理由について「人を笑わせることがめちゃくちゃ好きだから」と語り、特に感銘を受けたというダウンタウン松本人志と、クラシックの大作曲家・ベートーヴェンとの共通点についても話した。

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■新番組オファーは“非常にいい機会”音楽の魅力の伝え方は「専門用語や難しい言葉を使わない」

――まず、新番組のオファーを受けた時の心境からお聞かせください。

以前から「バラバラ大作戦」が好きでよく見ていたのですが、この放送枠の番組は、それぞれのレギュラー出演者のカラーがハッキリと出ていると思うんです。だからこそ、この番組が決まった時は、私にしかできないことを追求して表現していけるんじゃないかと可能性を感じ、とてもうれしかったです。あと、この番組ではTikTokをはじめとしたSNSに投稿された一般の方の楽曲が一つの鍵となっています。39歳の私にとって、今の若い方々がどんな音楽が好きで、どんなスキルを持っているのかはもっとも知りたいことの一つなので、非常にいい機会だとも思いました。

――この「キヨヅカライザー」をはじめ、清塚さんは様々な番組で音楽の解説をされていますが、音楽の魅力を言語化する上でどんな工夫をしているのか教えてください。

とにかく、専門用語や難しい言葉を使わないように気を付けています。専門家って、専門用語を日常的に使うから、その言葉が一般的に通じないことを忘れちゃうんですよね。だから私は、専門用語に注意し、最初からかみ砕いて話すように心がけているんです。たとえば、「切る」を意味する「スタッカート」という音楽用語があるのですが、「そこのスタッカート良かったよね」ではなく、「あそこ『あ』のところで切ってたじゃん。これをスタッカートって言うんだけど…」というように、説明を話の中に入れるようにしています。

■バラエティ番組出演の理由は「単純に人を笑わせることが好きなだけ」芸人へは“強い憧れ”

――出演番組はバラエティが多いですが、バラエティ番組に積極的に出演される理由は何ですか。

よくピアノやクラシックを広めるためにバラエティに出ていると思われるのですが、単純に人を笑わせることがめちゃくちゃ好きなだけなんです。「笑わせる」って、人の感情を動かす行為の中で一番難しいことだと思っていて、そのプロである芸人さんに強い憧れがあるんですよ。我々ピアニストは、ピアノがあれば聴く人を感動させることができる。だけど芸人さんは、身一つだけで人の心を動かすことができる。それってすごいことですし、かっこいいなと思うんですよね。

――いつから芸人さんに憧れがあったのでしょうか。

小学校高学年~中学生ぐらいからです。子どもの頃、ずっとピアノを弾かなきゃいけない特殊な環境で育ったものですから、友だちと遊んだ経験がないんですよ。だから、コミュニティに入ったり、友だち関係を作ったりすることに強い憧れがありました。そういったコミュニケーションを取ることに関して、芸人さんは怪物レベルだと思っていたので、昔から尊敬していたんです。

■特に感銘を受けた松本人志ベートーヴェンとの共通点は「改革者であり原点」

――音楽とお笑いの共通点などあれば教えてください。

クラシック音楽でいうと、落語に似ている気がします。特に古典落語の寄席に来たお客さんは、演目のフリからオチまですべてわかっていますよね。クラシックも一緒で、クラシックファンは最初から最後までどんな演奏がされるか知った上で、答え合わせのような感覚で聴くわけです。みんながわかっていることを前提としたエンタメという点で、クラシックと落語は共通している。なので、クラシックアーティストとして落語にシンパシーを感じていることもあって、新幹線で移動している時などには、(古今亭)志ん生さんや(桂)枝雀さんの落語を聴いています。

――様々なバラエティに出る中で、特に感銘を受けた芸人さんはどなたですか。

松本(人志)さんです。でも、共演させていただく機会が多く、松本さんに意識させてしまうのも気が引けるので、あまり言いたくないんです。だから、どちらかが死ぬ時に「一番尊敬してました」と伝えたいと密かに思っています(笑)。

――松本さんをクラシックの作曲家にたとえると誰でしょうか。

ベートーヴェンです。改革者であり原点というか。松本さんは「ごっつええ感じ」などですべてをやり尽くし、「こうしたら人が笑う」という人間の作用みたいなものをほぼすべて見つけちゃった人だと思うんですよ。「新しい」と言われる笑いは今もたくさん生まれていますが、どこかの要素を摘まむと、「『ごっつ』のあのコントに似てるな」と言えちゃう気がするんです。

クラシックでいうと、それはベートーヴェンなんです。ベートーヴェンが大抵のことをやってしまったから、彼の作品と被らない工夫をし始めたのが、ベートーヴェン以降のクラシックの歴史だと言っても過言ではありません。どんなにアバンギャルドな曲を作っても、もとを正すとほとんどの型はベートーヴェンが既にやっているという結論に帰結する。ベートーヴェンを超えなきゃいけないっていうコンプレックスの中に近代音楽史はあるんです。離れようとするんだけど、セオリーをすべて網羅しているために離れられない…。それがベートーヴェンの音楽であり、松本さんの笑いだと思っています。

清塚信也/※ザテレビジョン撮影