熱することで様々に形を変えるガラス。ガラス工芸の世界には多くの技法がありますが、糸状に細く伸ばしたガラスを編んで造形するものもあります。

 この技法を「ストリンガワーク」と名付け、数多くの作品を発表しているガラス作家の齋藤直(NaoSaito)さん。作品や技法について話をうかがいました。

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 美術科のある高校で立体造形、大学では彫刻科で比較的大きな作品を学んできたという齋藤さん。ガラスでの作品制作にのめり込むきっかけは、大学に非常勤講師としてやってきたガラス作家、橋本和代さんとの出会いだったといいます。

 細く伸ばしたガラスの糸を紡ぎ、バーナーを使って編むように立体作品を造形する橋本さんの作品に触れ、好きになったのだそう。「是非教えていただきたいと、そのままデザインやweb関係の仕事をしつつ、自宅で続けられるガラス制作に取り組むようになりました」と語ってくれました。

 素材に使っているのは、膨張係数が低く耐熱性の高いボロシリケイトガラス(ホウ珪酸ガラス)。「パイレックス」などの商標でも知られる耐熱ガラスで、ボロガラスの略称でも呼ばれています。

 ボロシリケイトガラスは含まれるホウ素の影響で密度が低いため、一般的なガラスより軽く丈夫で透明度も高い素材。しかし融点が高いため、とんぼ玉などのガラス工芸で使われるバーナーよりも高い温度が出せる酸素バーナーを使い、摂氏2000度ほどの高温で溶かして作品作りをするのだとか。

 ストリンガーワークは一般的な吹きガラスと違い、とんぼ玉のように卓上でガラスを扱う造形技法。素材の棒ガラスを溶かして柔らかくし、糸状に細く引き伸ばしたものをペン状のトーチだけで造形しているといいます。

 具体的な造形方法ですが「熱したあと、常温で冷めても割れにくい素材の特性を利用して編み込むことで、自由度の高い立体造形ができます」と齋藤さん。ガラスが作る独特の編目模様が、光の具合で様々な表情を見せてくれます。

 形の正確性が求められる球体を除いては型を使うことなく、ほぼフリーハンドで作っているそうですが、モチーフの形状を再現する技術は「学生時代から立体造形を学んだ基礎があったおかげだと思っています」という言葉通り、容易に真似することは不可能に思えます。

 編み上がったガラスの立体作品は、素材の軽さと中空である形状もあり、想像以上に軽いとのこと。「とにかく繊細に見える仕上がりですが、アクセサリーなどは、お客様から意外と丈夫というお言葉をいただいています」。


 2006年から作品の発表を続けている齋藤さんは、2016年のコンコルソ・アルテ・ミラノ(CAM)「ジャパンマイラブ」というアートイベントに招待作家として参加。イタリア、ミラノのギャラリー「PAOLA COLONBARI」にて個展(2016年11月~2017年1月)も開催しました。

 また、2018年の大丸・松坂屋「夏の贈り物カタログ」のビジュアルにも金魚の作品が採用されているので、作品を目にした方もいらっしゃるかもしれません。

 作品のすべてには「息を呑む」をテーマにモチーフを選んでいるのだとか。「その時々で自分が息を呑むほど美しいと思ったものを作ります」という言葉通り、作品には凛とした美しさを感じます。

 作品はもちろん購入することもできますが、ガラスなので割れ物であり、破損する可能性はゼロではないので飾る場所には注意が必要。万一の場合には「修理は無料でお受けしております」とのことです。

 「これからも作品で「息を呑む」を感じていただけるよう、制作を続けます」という齋藤直さんの作品はTwitterや作品展で目にすることができます。また、作品を入手したい方は直接TwitterのDMでオーダーすることも可能とのことです。

<記事化協力>
NaoSaitoさん(Twitter:@nao_sglass/Instagram:nao.glass

(咲村珠樹)

ガラス棒を溶かしてモチーフを編む「ストリンガーワーク」齋藤直さんの作品世界