「うわー、おいしい」
「うわー、うまい」
「メッチャ、おいしい」

このところ、名店を紹介するグルメ番組に出演するタレントは、大体、こんな感想に。それぞれ個性が見られるが、視聴者は画面を見るのみで、あとは想像を働かせて、画面を楽しむのみだ。

料理、料亭、レストランの番組で、一人でもそれらの料理、料亭をけなした人がいただろうか。自分の作品をけなされて、喜ぶ人はいない。ただ、あまりにも表現が同じで、他に表現は無いのだろうか。料理に限ったことではない。健康食品、化粧品、生活用品などにも同じことが言える。

健康食品も、健康食品を試飲する人はCM通りの結果に期待する。腰が痛い、ひざが痛い、肩が痛い、便秘……。悩んで、あれこれ試して、やっと自分の症状に合いそうな、しかも簡単に使用できるもの……さて、結果は出ているのだろうか。
飲んで2~3日で、二階への階段を登ったり下ったりできるようになるなんて、夢のような話ではないか。
いずれにしても続ける事だ。これも症状とか相性とかあるのか。
化粧品もそうだ。20歳も30歳も、若く美しく見えるなら、これも試したいものだ。

考えてみれば、説得力だ。何といっても、テレビCMの説得力は大きい。但し、同じCMでも、大きな声ではっきりと言うのがインパクトが強い。

実は半世紀前。呉服の展示会で、きものアドバイザーとの雑談の中で「涙目に困っている」と言うので、
「女性は誰でも『目じりのこじわ』が気になるが、一番しわのできやすい場所に水分を足してやることが良い。だから涙をハンカチでぬぐわないで、しわの上をたたいて水分補給をしておくのが良い」
と、私は根拠もないのに、リップサービスでこう言った。
そして半世紀後。おととしの神戸で、一人のお客様が
「先生。覚えておられますか?雫を大切にと言ってもらって、お陰様で目じりのしわがありません」
私は半世紀ぶりに昔のエピソードに出逢った。私はすっかり忘れていたけれど、言葉の持つ意味は重い。
たしかにそんなことを話した。でも今、私が保湿クリームを使ってしっとりした肌を保っていられるのは間違っていなかったのだ。

説得力でいえば、美味しいものを美味しく伝えるのがプロなら、印象に残るコメントが欲しい。
ある日、「M荘」へ冬の夕食に出掛けた。一夕一客の、格式の高い料亭だ。
こぶ茶などの、それなりの出迎えのマナーがあって、いよいよサラダが運ばれた。
B子さんは、夕食を頂きながら
「このサラダ、絶品ですね」
「この辺の丘に、ハーブがいろいろ出ていて、とりたてが素晴らしいですね」
サラダは野菜の新鮮さ、生きの良さ、季節によって一番正直に語ります」
そして主人は
「Bさん、さすがですね」
「たかがサラダではなく、されどサラダです。野菜の中に宝物が生きているのです。都会では、こんな経験はできませんね」
料亭の味の中に、思いがけずその日の料理の楽しみがふくらんだ。何よりのもてなしではないだろうか
(本稿は老友新聞本紙2021年2月号に掲載された当時のものです)

野草を食する