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J:COMのコミュニティチャンネル・J:テレのアニメ放送枠「アニおび」で、4月4日より「ボボボーボ・ボーボボ」が放送され話題を呼んでいる。澤井啓夫原作のアニメ「ボボボーボ・ボーボボ」は、2003年から2005年にかけて放送され、その独特のギャグセンスから連載開始20周年を迎えた今でも多くの熱狂的なファンを持つ作品だ。「アニおび」枠では現在「ボーボボ」のほか、「コードギアス 反逆のルルーシュ」と「サマータイムレンダ」を放送中。新作アニメと並行して「人造昆虫カブトボーグ V×V」「マリア様がみてる」など、旧作を含めた独自の作品ラインナップを届けてきた。

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そんな「アニおび」の仕掛け人とも言えるのが、編成プロデューサーの久保田淳一氏。なぜ令和の今「ボーボボ」を放送するに至ったのか? 「アニおび」独自の編成の裏側を久保田氏に聞いた。

取材・文 / 柳川春香

「カブトボーグ」の成功あっての「ボーボボ」

──久保田さんは2018年の立ち上げから「アニおび」枠に関わっていらっしゃるそうですね。

はい。J:COMではJ:テレとJ:COMチャンネルという2つの無料チャンネルを展開しているんですが、2018年に体制変更があり、新しい取り組みとして、それまで扱ったことのなかったアニメをJ:テレで編成しようということになったんです。そのときに、以前からグループ会社でアニメの制作や調達をやっていた僕に話が来て、J:テレで「アニおび」枠を立ち上げることになった、という流れです。

──「ボボボーボ・ボーボボ」の放送はTwitterでもトレンド入りするなど話題になりましたが、このタイミングで「ボーボボ」を放送しようと思ったのはなぜなのでしょうか。

もともと僕の“放送したい作品リスト”の中にはあったんです。「ただしつけもの、テメーはダメだ」というネットミームがあるじゃないですか。でもその由来が「ボーボボ」だって知らない人はたくさんいると思うんです。「ボーボボ」は放送当時、途中で放送局が減ってしまったりして、最終話まで観られた地域って少なかったんですよね。

──そういう意味でも“伝説”の作品ですよね。

J:テレはコミュニティチャンネルではありますが、全国で約1400万世帯が無料で観られるので、20周年で盛り上がっているこのタイミングでもう1回「ボーボボ」を世間に問うというのは面白いかな、と。あとは昨年「カブトボーグ」を放送したんですが、「『カブトボーグ』の後は『ボーボボ』しかないよな!」みたいなファンの声もあって。「無理だろうけど」とも言われていたので、「じゃあやってやるよ!」みたいな気持ちもありました(笑)。

──J:テレは基本的にローカル番組を中心に放送しているチャンネルですよね。その中で「ボーボボ」や「カブトボーグ」などの、いわゆる“カオス”と言われるようなアニメを放送するにあたって、社内から反対意見などはありませんでしたか?

カブトボーグ」のときは正直、ある程度アニメの知識がある人からは「正気か?」と言われましたね(笑)。「アニおび」枠では1クールに複数の作品を放送するので、真ん中にあんまり見られたくない本を入れて買うような感じで、「これは話題になるから」「人気作品だから」って理屈をつけながら社内の稟議を通しました(笑)。お陰様で「カブトボーグ」は非常に反響があり、いろいろなところでニュースに取り上げていただいたりして、「アニおび」を多くの人に知っていただいたきっかけになったと思います。それがあったので、「ボーボボ」に関しては社内でも「あいつが言ってんだからいいんじゃね?」という感じでした。

──「カブトボーグ」の成功があっての「ボーボボ」だったんですね。

真面目な話、コロナ禍をはじめとする昨今の状況の中で、何も考えずに観られて笑える作品が1本ぐらいあってもいいんじゃないか、というのもありました。「カブトボーグ」から「ボーボボ」の流れのような、夜寝る前に楽しく笑ってから眠れるような作品は、今後も意識して編成していきたいと思っています。地上波だとどうしてもスポンサーや視聴率を気にしてできないことがあると思いますが、「アニおび」はアニメを観るような若い世代にJ:COMを知ってもらうというミッションがあるので、冒険的な作品にもチャレンジできるんです。とはいえ、スポンサーはいたほうがいいので、ぜひ募集したいです(笑)。

再放送はファンが盛り上がる“導火線”

──ほかにも「アニおび」では「ギャラクシーエンジェル」や「マリア様がみてる」などを新作アニメと並行して放送してきましたが、旧作の放送にはどんな意図があるんでしょうか。

時代が追いついてなかった作品、今ならまた違った見方ができる作品ですとか、ファンがたくさんいるけど今は動きがないといった作品を、改めて世の中に提案したいというのがあります。「マリみて」なんてまさに、今なら当時と違う見方ができるんじゃないのか、という作品の代表的なものだと思うんです。

──久保田さん自身の、アニメファンとしての思いからやっている?

それもありますが、自分たちがやっていくべきはここかな、と思うんです。2018年に放送した「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」や、もともとWebアニメだった「異世界居酒屋~古都アイテーリアの居酒屋のぶ~」なども、Twitterなどで「放送してくれるんだ!」という反応が見えてきた作品で。そういう反響を見ている中で、アニメというジャンルで僕たちが生きていくならここだろうという活路が見えてきた感じです。

──とはいえ旧作も膨大な数がありますが、その中からどうやって放送するものを選んでいるんでしょうか。

まずは「ファンの存在が確認できるもの」ですね。かといってものすごくメジャーな作品は放っておいてもどこかがやるので(笑)、「今でもこの作品にはこんなに熱量のあるファンがいるんだ」っていうような、特に無料のチャンネルで再放送の機会に恵まれなかったものをやっていきたいと思っています。もちろんその後ビジネス的な放映権などの話になっていくんですが、まずはそこですね。

──ほかで放送されない作品を流すことが、ビジネス的な活路でもあるし、ファンの方にも喜ばれるという。

はい。カブトボーグ」では主演の知桐京子さんが自ら1年間にわたり実況してくださったり、ファンが「おめでとう」とイラストを描いて拡散してくださったり、「ギャラクシーエンジェル」では「20周年なのに他局がどこもやらなかったので『アニおび』でやります」みたいなツイートをしたら、それを新谷良子さんがリツイートしてくださって、ファンの方に届いたり。再放送は、そうやってファンが盛り上がる1つの導火線になるのかなって思います。

あとは「アニおび」の公式サイトから放送作品のリクエストができるんですが、そこに寄せられるメッセージを読むと、「こんな作品があったんだ」「こんなに熱量を持ってリクエストしてくれるんだ」と思うものがあるんですよ。僕も子供向けや女性向けの作品まではカバーできていないところがあるので、リクエストは非常に気付きがありますね。

──ファンはもちろん、こうした旧作の掘り起こしの機会を作ってもらえるのは、作り手にとってもうれしいことだと思います。

あと、古いアニメ作品は素材がテープの場合もあって。最近だとテープ素材は受け入れない放送局もあって、テープからデジタルデータにするにも非常にお金がかかるんですが、J:COMグループには古い映画を放送しているチャンネルがあり、テープをデータに変換する作業が内製でできるようになってるんです。なので放送の際にテープ素材をデータ化して、そのデータを権利元にお返しすることもできる。もちろん放映のための権利料もお支払いしますけど、そういうところでも貢献できてるのかなと。担当者には「またあいつ、とんでもないテープ持ってきやがった」と思われてるかもしれませんが(笑)。

──では最後に今後の「アニおび」の展望や目標があれば教えてください。

僕は配信の仕事も黎明期からやってきましたが、本当に不思議なことに、配信よりも「テレビで放送します」というほうが、ファンに響くんですよね。ある一定の時間にみんなで集まって観る、という行為には今でも可能性があるように思っていて、そういうテレビの立ち位置をもう1回やってみよう、というのは1つの方針としてあります。BSチャンネルも増えてなかなか大変な時代ですけど、「『アニおび』に言えば放送してくれるんじゃない?」みたいな悪ノリが、視聴者の方と一緒にできるといいですね。どうしようもないアニメオタクがたまたま権限を持ってしまっているので(笑)、「こんなことやろうぜ」ってアニメファンが言いに来てくれる立ち位置になれたらうれしいなって思います。

──そして一緒に悪ノリができるスポンサーが付けば完璧ですね。

いるといいですけどね(笑)。スポンサーが増えれば放送できる作品も増えますし。地上波と比べると圧倒的に安いので、お待ちしています(笑)。

久保田淳一(クボタジュンイチ)

J:テレの深夜アニメ放送枠「アニおび」の編成プロデューサー。J:COMのグループ会社である映画製作・配給会社のアスミック・エースに在籍。配信サービスのJ:COMオンデマンド、TELASAのアニメ作品調達にも携わっている。

J:テレ「アニおび」放送情報

サマータイムレンダ」毎週月曜日25:00~
ボボボーボ・ボーボボ」毎週月曜日25:30~
コードギアス 反逆のルルーシュ」毎週火曜日25:00~

「ボボボーボ・ボーボボ」(c)澤井啓夫/集英社・東映アニメーション