東名高速多摩川に架かる橋で、大規模なリニューアル工事が行われています。舗装を剥がして道路の床版を取り替える工事ですが、車線規制は一部をのぞき、車線規制は行いません。それを実現するのは、専用に開発された特殊重機です。

2022年から本格作業開始

1日10万台が通行する「日本の大動脈」東名高速道路。このうち多摩川を渡る「東名多摩川橋」は開通から50年が経過しているため、抜本的な老朽化対策として、NEXCO中日本が2021年から、床版(しょうばん)の取り替え工事を行っています。橋の長さは495m、取り替え対象の面積は全部で約1万5000m2にもおよぶ大工事です。

床版は、舗装を通して自動車の荷重を直接受ける重要な部材です。この板が老朽化しひび割れなどが生じると、そこから雨水が浸透して、鋼鉄製の橋桁を腐食させてしまいます。

修繕工事でひび割れをモルタルで埋めるなどの対処はしているものの、床版全体の経年劣化はいかんともしがたく、損傷が生じるスピードも速くなっていきます。そこで、思い切って総取り替えを実施し、建設時点での性能を回復しようというわけです。

とはいえ、現場は日本有数の交通量を誇る区間です。床版の総取り替えをしようにも、大がかりな車線規制や通行止めを行えば、交通が大混乱になるのは必至です。「できるだけ交通に影響を与えないこと」が至上命題となりました。

そこで現場に投入されたのが、秘密兵器「ハイウェイストライダー」。これを駆使することで、限られた幅での床版撤去・設置が可能となっています。

ハイウェイストライダー」は、2020年の中央自動車道での床版取り替え工事の際に、NEXCO中日本と大林組が共同開発した一連の工法「DAYFREE」の目玉となる機械です。1車線強ほどの幅の門型クレーンで、道路上を自走可能。切断分離した床版を吊り上げて撤去し、代わりに新しい既成の床版パーツを積み下ろします。既成の床版の1個あたり重量は約9トン。一度に3枚分まで作業ができるといいます。

この機械により工事の影響幅を極力狭く抑えることができるため、わずか「最大1車線規制」で作業を進めることが可能となったのです。

工事の段取り全体に工夫が

規制範囲を交通流に影響なく、交通への支障を極力小さくするため、「DAYFREE」工法では他にも工夫が見られます。

床版は現場でコンクリートを打設するのではなく、あらかじめ工場で製造されたパーツを並べていく形になります。床版と床版のすき間はモルタルで埋めますが、そのモルタルも独自開発の、金属繊維質を混ぜ込んで強度を高めたものを使用することで、すき間が小さく済み、硬化時間も短縮しています。

さらに、道路中央部での工事の際は、昼間は車線規制なし・夜間1車線規制という体制で臨みます。夜間施工部は朝には自動車を通す必要があり、モルタルの硬化を待っていられません。そのため、まずは床版の接合部に専用のプレートを敷いて舗装し、昼間に車を通しながら床版のすき間のモルタル充填を「下から圧送して行う」という、アクロバティックな方法を採用しています。

「下から行う」のはモルタル充填だけでなく、古い床版を切断する作業もです。「サブマリンスライサー」という秘密兵器が橋げたの間に潜り込み、ワイヤー状のカッターで「床版が桁に乗っている部分」をピンポイントで切断するのです。従来のように上から桁を避けてカッターで床版を切り刻んでいく方法に比べ、時間短縮となります。

きょう公開された現場では、切断され橋桁から切り離された古い床版が、「ハイウェイストライダー」のクレーンで撤去されていくところでした。「秘密兵器」が活躍するとはいえ、トン単位のコンクリート塊を、自動車がそばを通過する中で行う作業。現場には緊張感が張り詰め、作業員たちは互いに状況を連携しあいながら、慎重に搬出の段取りを進めていました。

工事担当者は「約3年をかけて実施する大規模なプロジェクト。できるだけ利用者の方々や近隣住民の皆様へ影響のないよう、粛々と進めていきたいです」と話しました。

東名多摩川橋のリニューアル工事は、実施車線を順次移動しながら、2024年完了めどで進められていきます。川崎市多摩区堰の高架下には工事の広報施設が設置され、一般向けの現場公開が、作業が行われる日を中心に週3日程度で開催されています。

橋の床版を撤去・設置するための重機(乗りものニュース編集部撮影)。