グリーズマンでしょ。他にいないし」そんな風に私が苦笑いしていたのは木曜日、オープンセッション15分の後、マハダオンダ(マドリッド近郊)の練習場の外から、少しの角度だけ見えるミニエスタディオ内の様子を伺っていた時のことでした。いやあ、今季もリーガはあと1試合だけですし、すでにアトレティコの10年連続CL出場も決定。よって、別に最終節のレアル・ソシエダ戦に誰が先発してもあまり気にはならなかったんですが、皆、考えることは同じなんでしょうかね。

もしやジョアンフェリックスが回復していないか、一応、見ておこうと足を向けたところ、いつも来ているラジオ複数局のアトレティコ番記者の姿はまったくなし。結局、AS(スポーツ紙)とラ・セスタ(スペインの民放)の女性レポーター2人と並んで、双眼鏡を持っていた私がpeto(ペト/ビブス)を着けているのが誰か、なしなのは誰か、確認してあげていたんですが、見える範囲が狭いため、先発予定組らしいクーニャと一緒に前線に入っているFWがわからず。

ルイス・スアレスとコレアはペト付きで控え組でしたし、中で見学していた時から、ジョアンはベルサイコ、コンドグビアと共にジム籠りをしていたのがわかっていたため、消去法グリーズマンらしいということになったんですが、最近のアトレティコのFW陣はとにかくゴール日照りがひどくてねえ。そのせいか、partidillo(パルティディージョ/ミニゲーム)の時間は程々で終わり、その後は前節セビージャ戦でのヒメネスのゴールに触発されたか、スタンドのせいで完全に隠れる位置でこそこそ、セットプレーの練習をしていましたが、いやあ。

折しも前夜にはセビージャのホーム、サンチェス・ピスファンでEL決勝が開催。そのアンダルシア州の首都は計15万人ものレンジャーズファンとフランクフルトファンで大賑わいだったようですが、まあ言ってみれば、2019年にワンダメトロポリターノでCL決勝が行われた時と同じですよ。ええ、当時もマドリッド勢が出場しないため、イギリスからやって来たリバプールトッテナムのファンが街中で大騒ぎしているのを地元民は冷ややかな目で眺めているだけだったんですが、何せ、今回は会場も違う都市。試合中継もバル(スペイン喫茶店兼バー)に行かないと見られないとあって、私もサッカー番組でサマリーをチェックしただけだったんですが、あれ?

レンジャーズに後半12分に先制された後、24分に同点ゴールを決め、更に延長戦に続いてのPK戦、3人目のキッカーだった鎌田大地選手が成功した後、アーロンラムジーがGKトラップに止められるミス。フランクフルト5人目のキッカーとして、優勝を決めるPKを沈めたサントス・ボレって、もしかして昔、アトレティコにいなかった?それでちょっと調べてみたところ、私の記憶は正しくて、彼はまだ19才だった2015年に入団。ただ、最初の1年はコロンビアの移籍元、デポルティボ・カリにレンタルで留まり、2016年夏のプレシーズンマッチには出たものの、アトレティコで公式戦デビューはせずにビジャレアルレンタル移籍、その後はリーベル・プレートにいたんですが、26才になった今季、フランクフルトに完全移籍してとうとう、花開いたよう。

これって何か、どっかで聞いた話に似ていて、そう、今季CL決勝に出場するリバプールのジオゴ・ジョタがまさに同じパターンで、彼も19才だった2016年にポルトガルのパソス・デ・フェレイラから、アトレティコに移籍。こちらもデビューする間もあらば、ポルト、ウォルバーハンプトンとレンタルに出され、後者に買い取られた後、2020年にはリバプールに大栄転することになったんですが、25才の今季はすでに21得点も挙げていますからね。

そう思うと、もうちょっとクラブに若い選手を育てる辛抱があれば、せっかく2試合の3/4の時間を耐え忍び、残り45分で逆転する予定だったCL準々決勝2ndレグの後半にゴールを決められる選手が皆無。おかげでマンチェスター・シティに1-0で敗退するなんてことはなかったかもしれないなんて…いや、勝ち抜けたって、次の準決勝はCLの天敵であるお隣さん。レアル・マドリーでしたから、やっぱり取らぬ狸の皮算用ですよね。

まあ、そんなことはともかく、いよいよ最終節を向かえる今週末のマドリッド勢の試合を見ていくことにすると、まずは金曜午後9時(日本時間翌午前4時)に2試合が開催。ええ、マドリーとラージョがホームのファンと今シーズンのお別れをするんですが、前者はサンティアゴ・ベルナベウにベティスを迎え、来週土曜に迫ったCL決勝のための最終リハーサルをすることに。唯一、欠けるのは筋肉痛のアラバだけなんですが、ベンゼマ、ビニシウス、クルトワに休養を与えた前節とは違い、アンチェロッティ監督は残り全員を招集しています。

そのアラバも来週月曜からはチーム練習に加わるそうで、CL決勝は大丈夫らしいんですが、金曜の注目はこの試合がマドリー最後となるマルセロ、イスコベイルの3人。ただ、エスパニョール戦後のリーガ優勝祝いにも、CL準決勝マンチェスター・シティ戦2ndレグの奇跡のremontada(レモンターダ/逆転突破)祝いにも背筋痛を理由に参加しなかったベイルに関しては、「Bale se ha entrenado y todavía no está al cien por cien/ベイル・セ・ア・エントレナードー・イ・トダビア・ノー・エスタ・アル・シエン・ポル・シエン(ベイルは練習はしたが、まだ100%ではない)。ベンチに入れるか、見てみることになる」(アンチェロッティ監督)そうなので、試合当日にリスト落ちする2人に入る可能性も。

その一方で足首のプレート除去手術からのリハビリが終わり、カディス戦で復帰したアザールは、いえ、その試合では張り切り過ぎたか、アカポを蹴って、イエローカードをもらっただけでなく、相手は中足骨を骨折。全治6~8週間のケガを負わせてしまった上、自身も打撲したんですが、こちらは回復した模様。パリでのCL決勝はわかりませんが、このベティス戦では主力選手のプレー時間調整のため、6月のベルギー代表戦に呼ばれている当人にとっても有難い、プレー機会がもらえるんじゃないでしょうか。

え、それでリーガ王者とコパ・デル・レイ王者が激突した場合、Pasillo de campeones/パシージョ・デ・カンペオネス(チャンピオンの花道)はどうなるのかって?いやあ、Doble pasillo(ドブレ・パシージョ/ダブルの花道)なる意見も聞いたんですが、具体的にそれがどういうものなのかは不明。ちなみに水曜の夜はEL決勝を見ていたというベティスのペレグリーニ監督は、「EL16強対決でフランクフルトに敗退したのは痛かったが、nos ayudó un poco a ganar la Copa del Rey/ノス・アジュド・ウン・ポコ・ア・ガナール・ラ・コパ・デル・レイ(コパ優勝を少し助けてくれた)。それまで40日間、ハードスケジュールでメンタル的にもフィジカル的にも消耗していたからね」と告白。

まあ、4月7日にELが終わって、23日がコパ決勝のバレンシア戦だった訳ですから、そのまま週2試合ペースが続いていたら、17年ぶりのタイトル獲得はできなかったかもしれませんけどね。それでも前節で4位のお隣さん、セビージャを追い越すことが数字的にムリとなり、CL出場の夢が消滅。コパ優勝に加え、リーガ5位でのEL連続出場は決まったとはいえ、今季のELで優勝していれば、来季はCLに出られたかと思うと、間近で決勝の雰囲気を味わったベティスファンもちょっと残念だったかも。

ただ、そうは言っても優勝したフランクフルトはベティスを破った後、準々決勝でバルサを、準決勝では16強対決でセビージャを破っていたウェストハムも倒すという、そうそう真似のできない道のりを歩んでいますからね。とりあえず、このマドリー戦での目標は勝ち点差2の6位で、3年連続のEL出場を決めたレアル・ソシエダに抜かれないようにすることでしょうか。

そして金曜の同じ時刻、弟分のラージョもエスタディオ・バジェカスにレバンテを迎えるんですが、木曜にはイラオラ監督が契約を1年延長したという嬉しいニュースが。ええ、彼は去年、チームを2部から昇格させて、今季も余裕を持って、残留を達成、コパでも準決勝初進出を果たした英雄ですからね。ちょっと気になるのは、上位を争っていたシーズン前半戦と打って変わって、年明けからは白星が挙げられず。ようやくエスパニョール、バルサバルセロナで2連勝した後、3節前にはヘタフェとの弟分ダービーで引分けて残留確定したんですが、ここビジャレアル、マジョルカにまた2連敗という、極端な調子の波があることでしょうか。

とはいえ、最後の試合はすでに降格が決定しているレバンテ相手ですしね。向こうも最下位で終わるのはイヤなようで、前節はアラベスに3-1で勝利、2部への道連れを作っただけでなく、順位も19位に上げたなんてこともありますが、ラージョがホームのファンを勝利で喜ばせて、有終の美を飾ってくれるのを期待しています。

そして土曜はバレンシアvsセルタ戦だけで、こちらもいよいよ直接昇格の2チームが決まるかもしれない2部のカードが集中して開催。マドリッド勢残り2チームは日曜試合となるんですが、前節にバルサとスコアレスドロー、ラージョに続いて、残留を決めたヘタフェは同じ勝ち点で14、15位と並ぶエルチェと何も懸かっていない対戦を午後5時30分からキックオフすることに。うーん、どうも彼ら、木曜には市内のFilandon(フィランドン/スペイン料理レストラン)でシーズン打ち上げディナーをしていたようで、もう完全にバケーション体制に入っている節も見受けられるんですが、まあ、今季は開幕から8節まで勝ち点1しか貯められず、最下位から、這い上がって勝ち取った残留ですからね。

ただ、その席でアンヘルトーレス会長が「Se ha demostrado que teníamos buena plantilla y mal entrenador/セ・ア・デモストラードー・ケ・テニアモス・ブエナ・プランティージャ・イ・マル・エントレナドール(ウチにはいい選手たちがいて、監督が悪かった)」とミチェル前監督に当てつけていたのはちょっと、スマートではない感じがしましたが、後継となって、チームの立て直しに成功したキケ・サンチェス・フローレス監督とは近々、2年間の契約延長が発表される予定。木曜頃から、今年初の熱波に襲われ、5月なのにいきなり気温が35度とかになっているスペインなので、とにかくその時間の試合では熱中症に気をつけてくれればいいです。

その後、日曜午後8時からはアラベスvsカディス、グラナダvsエスパニョール、オサスナvsマジョルカが同時開催され、レバンテ、アラベスに続く、2部行き3チーム目が決まるんですが、アトレティコが登場するのは最終時間帯の午後10時(日本時間翌午前5時)。こちらは7位のコンフェレンスリーグ(UEFA第3の大会)の出場権を1ポイント差で争っているビジャレアルとアスレティックがそれぞれ、バルサセビージャと対戦するのが一番気になるところなんですが、そこまでは行かずとも、アトレティコにも勝ち点差1のセビージャに3位の座を奪われる可能性がありますからね。

セコい話とはいえ、1つ順位が違うと、ラ・リーガからのTV放映権分配金に700万ユーロ(約10億円)の差が出るため、まあ何ですか、移籍で大物選手を獲るには雀の涙とはいえ、選手の年棒にしたら、アトレティコなら2人分ぐらい?となると、木曜の練習後にはこの土曜、ワンダメトロポリターノでラグビースペイン代表と親善試合を行うオール・ブラックス・レジェンド(ニュージーランド代表OB)の選手たちと遊んでいた彼らとはいえ、クラブ経営陣としてはハッパをかけたいところかと。

それには何より、金曜に先に試合をするベティスがマドリーに勝つか、引分けるかして、レアル・ソシエダに5位に上がるチャンスがなくなってしまうのが一番で、ちなみにアトレティコレアル・アレナで勝てば、3位の座は安泰。引分けて、セビージャがアスレティックに勝利or負けて、セビージャが引分け以上だと4位になってしまうんですが、こればっかりはねえ。

そうそう、一緒に練習を見ていたASの番記者によると、来週火曜に予定されていたポンフェラディーナ(2部)創設100周年の親善試合は相手がまだ、1部昇格プレーオフ枠を争っているため、中止に。月曜からもうバケーションに入るそうで、プレシーズン開始は7月7日。今年は恒例のロス・アンヘレス・デ・サン・ラファエル(マドリッドから1時間の高原リゾート)での地獄のキャンプもしっかり2週間やるとのことで、まあ、6月前半にネーションズリーグのある各国代表選手たちは遅れて参加でしょうけどね。ヒメネス、サビッチ、レマル、グリーズマンジョアンら、今季、ケガが多かった向きはここでしっかり体を鍛えて、新シーズンに挑んでもらえればと思います。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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