新年度に入り、いま企業は研修シーズン。4月は新人研修、5月以降は昇格者向けの研修と、さまざまな研修が行われています。

 研修というと、近年「ブラック研修」という言葉をよく耳にするようになりました。ブラック研修とは、参加者の人格を否定したり、不可能・不可解なことを強要したりする研修です。とくに新人研修では、ブラック研修が多いと言われます。

 ブラック研修の実態はどうなっているのでしょうか。どうしてブラック研修が行われ、なぜなくならないのでしょうか。人事部門関係者などへの取材を元に考えてみましょう。

ダメ出しの連続、毎朝10キロのマラソン

 まず、ブラック研修の実態について、中堅・大手企業の社員に訊ねました。新人研修については、新入社員のマインドの変革を促すタイプブラック研修がありました。

「わが社の新人研修には、街に出かけて興味深い通行人を10人探してインタビューするという訓練があります。私は初日、スーツ姿で慌てて走っている男性を見つけてインタビューしたのですが、報告を受けた講師は『会社員が約束に遅れないよう走るのは当たり前。興味深くない』とダメ出し。次の日は、半裸で踊っている男性を見つけてインタビューしたら、今度は『陽気も良いし、半裸で踊っていても別に珍しくない』とまたダメ出し。これを5日間繰り返していたら、最後は気が狂いそうになりました」(小売業・販売担当)

「人里離れた研修所に10日間も缶詰にされました。携帯の利用も禁止。それだけでも十分ブラックですが、研修内容は、毎朝10キロのマラソン、大声での自己紹介、会社の理念の唱和など、仕事と関係ないものばかり。しかもOKが出るまで講師から罵倒され、何度も繰り返し。私は何とか乗り切りましたが、同期の1人は途中で脱走し、そのまま退職してしまいました」(電機・製造担当)

 SNS上でよく話題になるのは新人研修。しかし、新人以外の社員にもブラック研修が行われています。この場合、マインドを変革するというよりマインドを破壊するような研修が行われているようです。

研修が終わるころには「俺ってダメ人間なんだ」と痛感

「昨年、私はコンプライアンス研修に招集されました。3日間も何やるのかなと思っていたら、初日の午前中に社内講師と弁護士からの講義があっただけで、残り2日半は自己批判でした。自身のコンプライアンス違反について1万字の反省文を書いて、それを講師がチェックし、徹底的にダメ出し。3回書き直してようやく合格が出て、1日目が終了。

 それで終わりかと思ったら、2日目も3日目も似たようなテーマで繰り返し反省文を書かされました。自分のダメさ加減を書いて、それでも反省が足りないとダメ出しされて、研修が終わるころには『俺ってダメ人間なんだ』と痛感しました。コンプライアンス研修がコンプライアンス違反のブラック研修だったという笑えない話です」(物流・IT担当)

セカンドキャリア研修に半強制で参加させられました。まず、入社してから現在までの職務経歴を振り返るのですが、ここで講師から『あなたは何のスキルも持っていない』『まったく業績を上げていない』と厳しく指摘されました。かなり凹んだところで、残りの会社生活でやりたいことと退職後のライフプランを書かされました。やはり講師から『あなたが会社にいても十分に貢献できない。あなたには居場所がない』と宣告され、最後に『まだ50歳なら他社でやり直しがききますよ』と早期退職を検討するように言われました」(エネルギー・総務担当)

 日本でどれくらいの数のブラック研修が行われているのか、増えているのか、減っているのか、正確な実態は不明です。ただ、ブラック研修を専門に請け負う研修会社がたくさん存在する通り、ブラック研修は決して特殊事例ではなく、広範に行われているようです。

会社がブラック研修をやめない理由とは?

 近年コンプライアンスが重視されるようになっており、「あの会社はブラック研修をやっている」という悪評が広がると、会社にとっても都合が悪いはずです。なぜ、あえてブラック研修を実施するのでしょうか。

 新人研修について、人事担当者はブラック研修の問題点を認めつつも、新人のマインドを変え、一人前の社員になってもらうために効果が大きいと考えているようです。

「人事部内でも新人研修がブラックではないか、と問題視する声はあります。ただ、学生気分が抜けない新人に、社会人の厳しさや組織の論理を知ってもらう必要があります。鉄は熱いうちにガツンと打つべきです。もちろん訴訟沙汰になっては困るので、法律には触れないように注意してやっていますよ」(金融・人事担当)

「当社では各職場でのOJTが人材育成の基本ですが、先輩社員はこれから同じ釜の飯を食う後輩をなかなか厳しく指導できません。マインド・姿勢といった部分については、しがらみのない外部の研修講師が厳しく叩き込むことが有効だと思います。できるだけ厳しくやるように、研修講師にはお願いしています」(食品・人事担当)

リストラ目的」で行われるブラック研修も

 一方、新人以外を対象にしたブラック研修は、ずばりリストラを目的に行われています。複数の人事担当者が、「正社員の解雇が難しい日本では、ブラック研修でリストラを進めるしかない」と打ち明けてくれました。

「かつて当社では、成績不良社員や問題社員を追い出し部屋(社員を他の社員から隔離された環境に追いやり、草むしりのような単純作業に従事させて退職に追い込む)でリストラしていました。しかし、コンプライアンスがうるさくなって、追い出し部屋は廃止になり、代わって研修を活用するようになりました。研修の場合、外部の研修会社が汚れ役をやってくれるので、追い出し部屋と違って訴訟リスクが少ないのがメリットです」(素材・人事担当)

「当社では、セカンドキャリア研修と早期退職の募集をセットで運用しています。研修の中では、強く退職を勧めることもありますが、参加者は一応納得して早期退職に応募しています。肩たたきや追い出し部屋と比べたら、はるかに穏便で合理的なやり方だと思いますが、違いますか」(建設・人事担当)

新人へのブラック研修は減る一方で…

 では、今後ブラック研修はどうなるのでしょうか。新人研修については、ブラック研修が減少していくという予想が聞かれました。

「最近の新人を見ていると、納得すれば自らどんどん学びますが、納得しないとどんなに𠮟咤激励しても学びません。厳しい研修をすれば人が育つというわけでもなく、ブラック研修は時代に合わなくなっています」(部品・人事担当)

ブラック研修の実態が社員からSNSで拡散し、採用で不利になるという懸念があります。厳しい研修で新人をしっかり育てたいという気持ちは山々ですが、大っぴらにやるのは難しいでしょう」(不動産・人事担当)

 一方、新人以外については、ブラック研修を利用したリストラが「なくならない」「むしろ増える」という予想が聞かれました。

「将来、解雇の金銭解決制度が導入されたら話は別ですが、そうでない限りリストラの手段としてブラック研修は必要です。ただ、訴訟リスクや風評リスクもあるので、あからさまなブラック研修は減り、巧妙なやり方に変わっていくと予想します」(サービス・人事担当)

「日本では、社員を解雇しない代わりに、全国どこにでも転勤してもらいます、という仕組みです。最近、社員の転勤を廃止する大企業が出始めていますが、転勤がなくなったら不採算部門に所属する社員をどうリストラするかが、大きな課題になります。転勤もさせられない、追い出し部屋は論外となると、ますます“追い出し研修”の役割が重要になってくるのではないでしょうか」(輸送機・人事担当)

 ブラック研修は、コンプライアンス違反というだけでなく、社員の人権問題。新人研修がちゃんとホワイトになるのか、リストラを目的にしたブラック研修を減らすことができるのか、今後の動向に大いに注目しましょう。

 

(日沖 健)

会社員の精神を蝕む「ブラック研修」はなぜ減らないのか? 写真はイメージです ©iStock.com