カラパイアの元の記事はこちらからご覧ください

 森の分解者として地球の生態系に欠かすことができないキノコは、人類にとってもおいしい栄養源として有用だ。毒キノコもあるので取扱注意でもある。

 更にキノコは、市が抱える数々の問題を解決してくれるかもしれない。

  今、世界の科学者たちは、建築用の資材や汚染された水のフィルター、あるいは代替バイオ燃料として、計り知れない菌類の可能性に注目している。

【画像】 キノコで建物を作るという構想

 突拍子もない話に聞こえるかもだが、キノコで建築用の素材を作るというアイデアはかなり確立されている。

 そのための技術もあるし、「マイコアーキテクチャー」(キノコ建築の意だ)という専門分野もある。

 2014年、ニューヨーク近代美術館は、生きているキノコトウモロコシの茎の廃棄物を使った円形タワーの製作に着手した。

 「Hy-Fi」と名付けられたその建築物には住めるわけでも、成長するわけでもないが(その後解体され、堆肥にされた)、キノコ建築の可能性を示した素晴らしい試みだった。

Hy-fi

 正確には「キノコ」を使うわけではなく、「菌糸体」という菌類の根のような部分を利用する。ここは複雑で緻密、かつ強靭な構造に成長するために、建築用資材としてぴったりの素材になる。

 だがキノコ建築最大の売りは、再生可能かつ環境に優しいところだろう。温暖が大きく促進されてしまう普通の建築法とは、一味も二味も違う。

世界各国の企業がキノコ素材市場に参入

 「プラスチックのような環境に負荷のかかる資材と違って、キノコは完全に自然で、全部堆肥になります。消費のゲームチェンジャーです」と、キノコ技術企業「Ecovative」のエベン・ベイヤー氏は話す。

 また菌糸体から作られた素材は、軽く、耐火性があり、製造も簡単だ。

 「建築工事の何もかもがキノコで作られた未来を思い描いています」と語るのは、イタリアの菌糸体メーカー「Mogu」のマウリツィオ・モンタルティ氏だ。

 キノコにはプラスチックから石材まで、さまざまな建材に取って代わる可能性が秘められている。「Mogu」社は、床材・防音パネル・レンガ・アートピースなどなど、さまざまなものを作ってキノコを主流に押し上げようとしている。

home_mind

[もっと知りたい!→]巨大キノコの中で暮らしたらどうなるか?科学者が未来の建築資材としてキノコの可能性を模索中

image credit:Mogu

 Mogu社も参加するヨーロッパの共同プロジェクト「Fungal Architectures (FUNGAR)」でも、キノコの可能性を追求している。

 同プロジェクトが現在取り組んでいるのは、キノコと”スマート技術”を組み合わせ、光・温度・大気汚染などに反応するキノコ建築だ。建物でありながら、生きて呼吸をする構造物である。

 「NASA」もまたキノコ建築に注目する。火星や月で建物を作る素材として、菌糸体が理想的だからだ。

 そのアイデアはこうだ。まず菌糸体で小型軽量ベースを作り、それを火星に飛ばす。あとは現地で栄養と適切な条件を整え、本格的な構造物に成長するのを待てばいい。

 あくまで理論上のことだが、いつの日か、宇宙の家は持続可能で環境に優しいキノコで作られるようになるかもしれない。

キノコには汚染水の浄化効果も

 建材としてだけでなく、キノコで作ったフィルターで汚染された川を浄化しようという研究もある。これを「マイコフィルトレーション」という。

 つまりはキノコフィルターだ。キノコフィルターは、「キノコ魔術師」との異名をとる菌類学者ポール・スタメッツが、1980年代に考案した。

 基本的には菌糸体・木材チップ・藁が詰められた大きな袋と思えばいい。イギリスワンドル川ニューヨークのエリー湖など、すでに世界各地で採用された実績がある。

 それだけにとどまらない。フリーステート大学(南ア)のサネレ・ムンカンドラ氏によると、キノコフィルターは、雨水から大腸菌のような病原菌を除去したり、飲料水から重金属を除去したりもできるという。

 キノコフィルターが都市スケールで実用化される可能性は十分にある。あるいはリソースが乏しい地域であっても、家庭の排水処理に利用できる。

 つまり、あらゆる汚染水を高いコストパフォーマンスで綺麗にしてくれるということだ。

fantasy-g1d3992c6a_640

photo by Pixabay

キノコで車を走らせることも

 さらにキノコバイオ燃料にする方法も研究されている。こちらは建材やフィルターほどには研究が進んでいないが、シンガポール国立大学の研究グループは、キノコ廃棄物から作られたバイオ燃料がガソリンに取って代わる未来を思い描いている。

 念の為に言っておくと、車のガソリンタンクキノコを突っ込んでも、無論エンジンはかからない。

 キノコからバイオ燃料を作るには、細菌でバイオマスに分解し、それを発酵させて「バイオブタノール」を作る。

 エタノールバイオディーゼルバイオ水素といった代替燃料の場合、エンジンに改良を施す必要がある。

 ところが、バイオブタノールはそのまま使うことができるので、余計な手間がかからない。唯一ネックなのは、化石燃料の代替として必要な量をどう確保するかという点だけだ。

 つまりバイオブタノールはただ再生可能なだけでなく、環境に大きな負荷がかかる化石燃料の代替として、十分な可能性を秘めているということだ。

 加えてバイオブタノールはガソリンより揮発性や爆発性が低いので、安全面でも優れている。

mushroom-g49f8d7547_640

photo by iStock

 だが、ここで紹介したキノコの可能性は氷山の一角だ。

 衣服、ヘルスケア製品、食品のパック、スーパーフードなど、キノコの利用法は他にもたくさんある。

キノコは森の中で見つかった異星人テクノロジーのようなもの」とベイヤー氏は話す。可能性は無限大、その追求はまだまだ始まったばかりだ。

References:Could Cities Soon be Made of Mushrooms? / written by hiroching / edited by / parumo

 
画像・動画、SNSが見られない場合はこちら

未来の都市はキノコで作られるようになるかもしれない