英国には、半世紀近く第一線を張る超長寿練習機「ホーク」があります。なぜここまで長く使われているのでしょうか。日本でも議論となっている空自「T-4」後継問題解決の参考になるかもしれません。

安定感抜群の設計 コスパにも優れる

航空自衛隊が使用している産練習機T-4の後継問題が、航空ファンのあいだで議論になることが多くなってきています。そのなかで思い出されるのが、より長寿で知られるイギリス空軍の練習機「ホーク」です。T-4の初飛行(1985年)よりも10年以上前の1974年8月に初飛行し、900機以上が造られて今なお現役。この秘訣は、古いものを大切にする英国の伝統だけではないようです。

ホーク」は、攻撃機を兼ねたことから練習機としてはオーバースペック・かつ高コストの機体となってしまったイギリス空軍のかつての練習機「ジャガー」と異なり、経済性の高さを備えた機体として仕上がりました。後席の見通しも良いタンデム式の操縦席は、練習機のスタイルを確立させた機種のひとつといってよいでしょう。

逆にいうと、そのスタイルは変化に乏しい“地味”なものかもしれませんが、視界の良い操縦席のほかに、主車輪間のトレッドベース(左右の脚の間隔)が広いことから、安定した着陸ができるなど、練習機に必要な要素を忠実に実現しています。

また、軽攻撃型を加えて、海外への販路を拡大したことも、「ホーク」の生産が好調に続いた一因でしょう。しかし、これらの「ホーク」の中身は生産初期のそれとは別です。

ホーク」の最新型AJT(高等ジェット練習機)となる派生型Mk.128などは、多機能ディスプレイやミッション・データ記録システムなど、最新のアビオニクス(航空用電子機器)を装備しています。

つまり「ホーク」は訓練生にとって扱いやすい機体という特長を残したまま、中身を時代に合わせてリニューアルしてきたのです。変えるところと変えない部分を柔軟に組み合わせる――これを秘訣にして、「ホーク」は今もなお現役なのです。

一方T-4は?「ホーク」にならうところも多いかも

さて、日本のT-4練習機は、どうでしょうか。同機の生産は「ホーク」よりはるかに少ない212機に留まりますが、これは開発当時に外国へ輸出できなかったことが響いています。ただT-4も、視界の良いキャノピーや高く機体を安定させる垂直尾翼は、訓練機として高い適性を持っています。

中身をアップデートしてきた「ホーク」のように、日本もT-4を母体として中身を刷新した新しい練習機を後継にすることはできるでしょうか。日本でこういったアップデートが図られた航空機はF-4EJ改、P-2J、SH-60K・Lなどが先にありますが、国産機で中身を一新するのは新たな挑戦になるでしょう。

次期戦闘機の開発も並行するなか、新規開発より予算を抑える、T-4の改良も良き選択肢のひとつともいえます。

筆者が20年以上も前、T-4の組み立て工場で見た光景があります。操縦室ブロック部分が、まるで曲芸で輪をくぐるドルフィンのように、前後を金属の輪に通して造られていたのです。

「組みあがった後に輪に沿って回して、中に工具などの忘れ物がないか確かめるのです」と社員が教えてくれました。ブロック部分ごと輪を回して逆さにすれば、忘れ物が落ちる仕組みです。シンプルですが、「現場の知恵」から生まれたのもしれません。感心したのを覚えています。

輪のついたあの作業台が保管され再利用できるなら、開発費も抑えることができるでしょう。

おりしも米国では、空軍に納入する次代の練習機、T-7A「レッドホーク」の初号機がロールアウト(完成披露)しました。日本のT-4後継問題もこれから、さらに熱くなってくるでしょう。「ホーク」を造り続けた英国に学ぶことは多いかもしれません。

イギリス空軍「ホーク」練習機(画像:イギリス空軍)。