米アップルが中国国外での生産を拡大させたい意向を一部の電子機器受託製造サービス(EMS)企業に伝えたと、米ウォール・ストリート・ジャーナルが5月21日報じた

JBpressですべての写真や図表を見る

中国の都市封鎖、露のウクライナ侵攻、米中衝突

 アップル製品は台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業などのEMS企業が製造を手がけている。その多くは中国に巨大な工場を構えており、それらの中国拠点がアップル製品生産の中心地となっている。

 だが、中国では「ゼロコロナ」政策によるロックダウン都市封鎖)が長引き、アップル製品のサプライチェーン(供給網)に混乱が生じている。アップルは先の決算発表で、2022年4~6月期に最大80億ドル(約1兆200億円)の売り上げ機会を逃す可能性があるとの見通しを示していた。

 アップルはかねてインドなどの中国以外での生産を進めていた。例えば鴻海がインド南部チェンナイ近郊に持つ工場などだ。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、アップルは20年初頭に製造の中国依存を低減するため、こうした計画を加速させ、生産の多様化を推し進めるはずだった。ところが新型コロナウイルスの感染が拡大し計画が困難になった。

 一方、22年に入り、ロシアウクライナへの軍事侵攻を行い、中国がロシアへの批判を控える姿勢を示した。中国ではロックダウンのほか、厳しい移動制限も敷かれた。アップルは幹部や技術者を中国に派遣できなくなり、製造現場を直接確認することが困難になった。権威主義的な共産党政権と米国の衝突も潜在的なリスクだと指摘されている。

 こうした中、アップルはコロナ禍前に計画していた生産多様化の動きを活発化させている。21年9月には中国当局が電力使用制限を実施したが、これらの停電問題も電子機器などの製造拠点としての中国の信頼度を低下させたとウォール・ストリート・ジャーナルは伝えている。

 関係者によると、現在アップルは中国国外で新たな工場の建設場所を検討するようEMS企業に指示している。「このようなことをEMSに要求できるのはアップルのような規模の企業だけだ」と、アップル製品の市場動向やサプライチェーン情報に詳しい著名アナリストのミンチー・クオ氏は話している。

アップルが中国製造を維持してきた理由

 ただ、業界関係者はアップルが長年、中国での製造を維持してきたのには相応の理由があると指摘する。その1つは、十分に訓練された豊富な労働力だ。インドを除けば、中国の熟練した労働力人口はアジアの多くの国の全人口を上回っているという。

 また、中国は米国と比べて低コストだ。部品サプライヤーのネットワークも充実しており、他国でこれらを再現するのは難しい。中国では地方政府がアップルと緊密に連携している。EMS企業がスマホ「iPhone」などの電子機器の組立業務を円滑に行えるように土地や労働力、物資の確保を支援しているという。

 アップルにとって中国にはもう1つメリットがある。市場としての規模の大きさだ。アップルは中国で製造したiPhoneやノートパソコンなどをそのまま現地で販売できる。中国市場はアップルの世界販売の約5分の1を占めている。

中国に次ぐ拠点としてインドに注目

 こうした中、アップルは中国に次ぐ製造拠点としてインドに注目している。人口が多く低コストという理由があるという。台湾の鴻海や、緯創資通(ウィストロン)はすでにインド工場を持っており、主に国内市場向けのiPhoneを製造している。アップルは22年4月、現行モデル「iPhone 13」のインド生産を開始したと明らかにした。現在は、輸出向け製品の可能性も含めインドでの生産拡大について複数のサプライヤーと協議しているという。

 ただ、ウォール・ストリート・ジャーナルは、インド政府と中国政府が冷え込んだ関係にあり、中国を拠点とするEMS企業がインドに工場を持つことが困難だと報じている。そのため、アップルと取引のある中国EMS企業は、ベトナムなどの東南アジアの国々にも注目しているという。

 香港のカウンターポイント・リサーチによると、インドでは21年に世界のiPhoneの3.1%が製造された。この割合は22年に6~7%に伸びる見通しだ。だが、残りのほぼすべては依然中国が占める状況だとウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。

 (参考・関連記事)「アップル、中国で現地技術者に依存 ゼロコロナで | JDIR
 (参考・関連記事)「iPhone製造に打撃か、インドで抗議活動 工場閉鎖 | JDIR

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  脱中国依存、インドでiPhone最新モデル生産開始

[関連記事]

アップル取引先200社の半数は上海都市封鎖の影響下

中国東部で都市封鎖、台湾企業が相次ぎ生産停止

iPhone13(写真:Stanislav Kogiku/アフロ)