
何かしらの値上げが連日ニュースとして流れてくる。経済が停滞し、物価が上昇し続ける“スダグフレーション”は深刻だ。消費者である我々の生活は当然苦しい。でも、もっと苦しい人たちがいる。「値上げ」という苦渋の選択をした数々の“現場”を直撃。今回は街のパン屋を取材、胸の内を聞いた。
◆安価が売りの街のパン屋が苦渋の選択「もう仕方ない」
「パンの主原料の小麦、バター、砂糖が上がったらもう仕方ないよ」
そう嘆くのは、武蔵小山商店街パルムにある老舗パン屋・こみねべーかりー社長の小嶺忠さん(52歳)。今年4月から全メニュー、10~30円の値上げに踏み切った。
「商店街のパン屋はお客との距離が近いから、財布事情もなんとなくわかります。値上げも『しょうがない』と言う人は多いけど、客単価700~1000円だったのが、値上げ以降はパン1個分、150円下がりました」
◆あんぱんは10円の値上げ
こちらの名物は、ボリューム満点のあんぱん。家まで待ちきれず店頭で頰張る子供の笑顔が印象的だった。幸いにも、あんこはまだ価格変動がないため、あんぱんは10円の値上げで収まっているとか。
「あんぱんはウチの目玉商品だから、あんこの値段がいつ上がるか不安です。今後あんこの値段まで高騰するようなら、お店で小豆から煮て、仕入れたものに混ぜて使うしかない。毎日500~1000個分のあんこ作りは大変ですが、価格を抑えるための努力はしたい」
◆商品の価格と従業員の雇用を守りたい
こみねべーかりーに並んだ100種類近くのパンの価格は100円台のものが多い。その倍以上の価格でパンを販売する店もあるが、こみねは安価にこだわっている。
「ウチはテナント料の負担がないから、パンの販売価格が抑えられる。だから、手軽な価格で楽しみに買ってくれるお客さんを大事にしたい。それに今回値上げしたからには、向こう1年間は申し訳なくて値上げできませんよ。しばらく小麦の高騰は続きそうですが、僕の給料を減らしてでも、できる限り商品の価格と従業員の雇用を守りたいと思っています」
地元愛の溢れる小嶺さんのパン屋としての熱い思いが、50年以上も愛され続ける所以だろう。
◆値上げの3大要因
小麦⇒17%UP
油脂⇒100%UP
砂糖⇒60%UP
【小嶺 忠さん】
こみねべーかりー2代目店主。武蔵小山で2店舗を無休で切り盛りしている。コロナ禍が落ち着いたら、パン教室を開催するのが目標
【こみねべーかりー】
武蔵小山の商店街の一角で地元住民に愛される創業52年のパン屋。東京都品川区荏原 営業時間 7:00~20:00 無休
<取材・文/週刊SPA!編集部>

コメント