陸上自衛隊最大の生産・配備数を誇った74式戦車も、2022年5月現在、その数を100両程度にまで減らしています。74式戦車はどのような特徴を持っていたのか、そしてどこに行けば見られるのか、元陸自ライターが解説します。

陸自戦車のなかで最多を誇った74式戦車

新型コロナの影響により、昨年(2021年)に引き続き、一般公開なしで開催される2022年の「総火演」こと富士総合火力演習。今回は、最新式の19式装輪自走155mmりゅう弾砲の実射や、ティルトローター輸送機V-22オスプレイ」の初参加、20式小銃の初登場などが目玉になりそうです。

その一方で、総火演に参加するのが最後になるかもしれないものも。それが74式戦車です。

74式戦車は、戦後初の国産戦車である61式戦車が登場して間もない頃、すなわち1960年代半ばに開発がスタートしたわが国オリジナルの戦車です。当時の先端技術を数多く盛り込んだことから、1974(昭和49)年の制式化当初は、世界一流の傑作戦車と称されたこともあるほどで、海外からも多数視察に訪れたといわれています。

主武装にはNATO(北大西洋条約機構)の標準戦車砲であった105mmライフル砲を装備しています。また、レーザー測距儀(測遠機)とアナログ式(のちにデジタル式に更新)の弾道計算コンピューターを組み合わせることで、熟練隊員であれば百発百中の命中精度を誇ったとか。

74式戦車は、戦後開発された自衛隊戦車のなかでは最多の873両が生産され、沖縄を除き全国に広く配備されたことから、メジャーな存在であり続けました。そのため、自衛隊の戦車乗員のなかには、この74式戦車と苦楽を共にしてきたという隊員も多く、さらには部隊配備から45年以上が経過しているため、人によっては入隊から退官までずっと74式戦車と一緒だったという猛者もいるでしょう。

ちなみに現場の隊員に話を聞くと、74式戦車は整備もされ尽くしていることから、故障探求から修理まで、困ったことがあればすぐに解決することができるという声も聞こえるほどです。

どこに行けばまだ見られる?

そんな往年の名選手ともいえる74式戦車ですが、そろそろ後継として配備が進められている16式機動戦闘車にすべてを託し、完全退役する時期が近づきつつあります。

2022年5月現在、74式戦車を運用している実戦部隊は、北海道の第2戦車連隊、岩手県の第9戦車大隊、滋賀県の第3戦車大隊と第10戦車大隊、岡山県の第13戦車中隊のみとなっています。しかも今年度末、すなわち2023年3月までに、このうち2個戦車部隊が改編によって消滅する予定であり、今後、数年以内に全国から74式戦車は姿を消すといわれています。

ゆえに、総火演74式戦車が参加するのも、そろそろ最後であろうといわれているのです。総火演では戦車教育を担っている機甲教導連隊がおもに参加しており、そのなかの第4中隊所属の74式戦車が会場で射撃や機動性を披露していました。

しかし、前出したように74式戦車を運用する部隊が減っているため、教育を担当する機甲教導連隊第4中隊にも16式機動戦闘車の配備が始まっており、近日中に74式戦車は教育体系からも姿を消すといわれています。

つまり、来年度には74式戦車装備の実戦部隊が3個に減ってしまい、さらには教育を担っている部隊でも数を減らすとなると、ついにその姿が総火演から消える可能性が大というワケです。

74式戦車の実射シーンを見る貴重なチャンス

とはいえ、これはあくまでも筆者(矢作真弓/武若雅哉:軍事フォトライター)の推測にすぎません。たとえば、陸上自衛隊が保有する最大規模の自走砲として40年近くにわたり運用されている203mm自走りゅう弾砲も、運用する部隊が減ったことで、一時は総火演から姿を消しました。しかし、今年は再び参加する予定です。

そのため、74式戦車も「消える、消える」といわれながら、案外、総火演に参加し続ける可能性も無きにしも非ずといえるのです。ただ、車体の老朽化は止めることができないため、完全退役までのカウントダウンが始まっていることは間違いありません。

冒頭に述べたように、今年も総火演は一般公開なしで、代わりに陸上自衛隊の公式YouTubeチャンネルである「陸上自衛隊広報チャンネル」でライブ配信される予定です。“もしかしたら”有終の美になるかもしれない74式戦車の動く姿を、2022年5月28日(土)、パソコンやスマートフォンなどの画面で楽しみましょう。

偽装状態で射撃する74式戦車(武若雅哉撮影)。